ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ギュララ編

二十二話 覚悟

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 そんな特訓の日々を過ごして十日ほど経った。トレーニングによって確実に身体はしっかりとしてきた。林原さんとも毎日剣を打ち合い、何度も木刀を浴びて傷だらけになったけど、剣を用いた戦いはちょっとずつだけど確実に上手くなっているのを感じている。それに林原さんから、まだ本当の戦いはしていないけど、弱い魔獣となら渡り合えるとまで言われた。
 ただ、クママさんの件は一向に進展が無かった。ギュララさん事態が神出鬼没で、出会ったとしても同じ問答の繰り返しになり、停滞に停滞を極めている。
 そして、また同じような日が来るのだと思えるほど日常化した頃、事件は起こっ
た。

「……な、何だ?」

 朝、熟睡していると大きな振動によって、半覚醒してしまう。次に咆哮が聞こえてきて完全に眠気が吹っ飛んだ。それからも何度も振動が続いた。
 制服に変身して急いで外に出ると、すでに終わっていたらしく、戦闘服姿のアオとふらふらと小屋に戻っていくギュララさんがいて。

「アオ一体何が?」
「また暴走しちゃったんだ。しかも村の中で。早朝で比較的人が少なかったから、すぐに避難させられたし、さっさと正気に戻せたから大事にはならなかっけどね」
「彼はなんて?」
「相変わらず。まぁお礼は言われたけどね~」

 ギュララさんが去った後に何事かと村の人が集まってくる。一緒にクママさんや桃奈さん、林原さんも来た。
 アオは村の人々に起きたこととも解決したことを伝える。アオの名声はこちらにも届いているようで、すぐに安心して戻っていった。

「流石ねミズちゃん。一瞬で終わらせちゃうなんて。その勇姿を見届けられなくて残念だわ」
「変身状態のギュララもいとも簡単に……凄い強さです」
「私のことはいいよ~。今はギュララさんのことでしょ。何か戦ってて思ったんだけど、結構亡霊に近づいているかも」

 真剣な表情でいるアオの言葉に一気に緊張が走った。僕は夜に出会ったギュララさんを思い出して拳を強く握りしめる。

「そ、そんな……もう時間が無いということですか?」 
「うん。少し前にも亡霊と戦ったことがあるんだけど、それに近かったから。彼とも少し話したけどそれでも態度は変わってない……覚悟を決めないといけないかも」
「ギュララ……くっ」

 クママさんは珍しく苛立ちを現して地面を強く踏みしめた。

「あいつ、本当にわけわかんない。あんたもそう思うでしょ」
「え……まぁ」

 考え事をしている中、急に話しかけられて適当に返答した。

「せめてもうちょっと会話しろって感じよね」

 肯定された事でさらに愚痴を言う彼女から離れて、僕は遠巻きで眺めている林原さんの方へ。小声で話しかける。

「どうした?」
「僕、今日彼に会おうと思います。」

 未練を解決できず後悔したまま、そんな事にはさせたくない。僕の苦しみ以上のものがクママさんを襲ってしまうだろうから。

「一人でか? それに彼が小屋から出るかもわからないぞ」
「二人に言ったらきっと止められるので。それと前は夜中に外にいたので、待ってみようと思います。今日が駄目なら明日に」
「ねぇ、二人共何を話しているのよ?」

 桃奈さんがこちらに寄ってきて、少し不機嫌な調子で声をかけてきた。

「な、何でも……」
「すっごい怪しい。ソラくん、一体どんな話をしていたの?」

 我ながら誤魔化すのが下手だなと思うほど、声が動揺に出てしまう。桃奈さんは怪訝な顔つきで林原さんに尋ねる。

「……秘密だ」
「ひ、秘密ですって……? あんた、ソラくんと秘密の共有なんてしているわけ?」
「まぁ、そうですね」

 正直にそう返すと、案の定悔しそうに僕をじろっと見てきた。

「……あたしは距離を縮めるのにすっごい時間がかかったのに、どうしてあんたはそんな幸せ状況になっているのよ……」

 結構冷たくあしらわれていたけど、あれでも距離が近いのだろうか。
 桃奈さんは、凄く秘密を気にしている様子だけど、林原さんが秘密と言ったことで、それ以上詮索してこなかった。アオもクママさんとやり取りをしていて、こちらには気づいていない。

「林原さん、今日の特訓はお休みにします」
「わかっている。無茶だけはするなよ、ロストソードの使い手なんだからな」
「はい」

 僕は早速に戻り準備を進めることにした。

*

 人も魔獣も寝静まった頃、僕は女神像の所で彼が通るのを待っていた。人がほとんど出歩かなくなる十時からもう二時間経っている。ちょくちょく、小屋の方を確認していて、明かりが窓から漏れているのでもう外に出ていることはない。
 手には木刀があって、持ち続けているのだけど鍛えたおかげで全然余裕でいる。成長を実感していて、緊張はしているものの、過度な恐れは無かった。変なテンションにも若干なってもいて、そのせいでもあると思うけど。

「よし、もう一回……っ」

 また小屋にいるのか確認しようと決めると、暗がりからギュララさんが現れた。

「またお前か、話す気は無いぞ」

 僕は、スルーして行こうとする彼の前に立ちふさがった。

「待ってください僕は――ぐっ」

 僕を無理矢理退けようと強力な腕で振り払われる。咄嗟に木刀でガードするも、女神像の方に飛ばされて背中を打ち付け衝撃と痛みが全身に。

「あばよ」
「ま、待って……」

 彼は走って森の方に走って行ってしまう。僕は痛みを背負いながらも、追いかけた。

「……暗いな」

 村の外に出ると街灯がなく、明かりは空から降り注ぐ儚い青白い光のみで、それもある程度木々に遮られている。僕は持ってきていた懐中電灯のマギアで少し先の足元を照らしながら進んだ。

「……」

 夜の森の中では僕の息づかいと足音、心音だけが鮮明に聞こて。風が吹いて葉が揺れる音だったり、ちょっとした物音が聞こえたりすると、ビクッとなってしまう。動く気配はないものの、何が飛び出るかわからず、過剰なほど首を振って警戒しつつ歩いた。

「多分こっちの方に……」

 右の方の地面に何か黒い影が見えて、そちらを照らすと黄色い毛皮を持ち、二本の長い角を持つ魔獣が横たわっていた。それはキユラシカで、眠っているようだった。周辺を照らしてみると付近にも何匹かいる。群れで生活しているのだろうか。
 ぐっすり眠っているようなので、起こさないように足音を立てないよう忍び足で通り過ぎる。

「あっ」

 何か硬いものを踏んでバチッと鋭い音が響いた。どうやら枝か何かを踏んでしまったらしい。恐る恐る様子を見るけど、起きた様子はない。一安心する。

「ブモォ」

 右手の奥の方から豚のような声が聞こえて、そちらを照らすと、ボアホーンがいた。こっちの魔獣を起こしてしまったようで。

「ブモォォォ」
「やばっ」

 こちらに向かって一直線に突進してきた。僕は木刀を強く握り構えてあの時のアオの姿を思い出す。少しは強くなったんだ。そして、ギリギリまで引き付けて、引き付けて。

「やっぱ無理!」

 華麗に投げ飛ばす、そんな事できるわけなくて、サイドステップで避けた。それに一抹の成長を感じつつ、急いで走った。
 でもこの時逃げるのに夢中でその先を照らしていなくて、影に気付けなかった。

「って……うわぁっ」

 何か少し柔らかいものに躓いてしまい、受け身は取れず地面に正面衝突。ちょっと上手くいったからと調子に乗ったかもしれない。
 すぐさま顔を上げて後ろを振り返り、マギアで足元を照らす。そこには四本足があって、それを上にたどった。その正体は群れから少し離れて寝ていたキユラシカで。

「キェェェェ!」

 絶叫とも思える少し掠れた鳴き声を上げる。すると、周囲にいたキユラシカも起き上がって、明らかに敵意のある感じに二本の角を挟んだり開いたりしていて。

「嘘でしょ? 嘘でしょぉぉぉぉ!」

 僕は立ち上がった瞬間に全力で駆け出した。一度振り返ると、何匹ものキユラシカとボアホーンが追ってきていて。それを見てからは脇目も振らず走った。
 色々とルートを変えて、追手を撒きたいのだけど、迷ってしまうだろうし、ギュララさんにも追いつけない。だから直線勝負になる。

「まずい……」

 鍛えて多少速くなったと言っても、魔獣の方が速くて、どんどん距離が近づいて。でも、それを感じると、火事場の馬鹿力なのか逃げ足だけ速いのかわからないけど、自分でも信じられない加速をして、再びつき離した。

「あれは……ギュララさん……?」

 大きな人影が前方に見えてくる。マギアで照らすと、それは紛れもなく彼だった。

「ん? って何してんだお前⁉️」
「追われてるんです! ギュララさんも逃げてください!」
「ったく、仕方ねえな」

 ギュララさんはクママさんと似たようなネックレスに手を当てると、全身が眩い紫の光を放った。魔獣達は何かを感じたのかそれによって足が止まる。

「グラァァァァ!」

 光が無くなると、そこには巨大なデスベアーの姿になっているギュララさんがいた。雄叫びを上げると衝撃が走り、魔獣達は怯えて一目散に逃げてしまう。それを見届けるとギュララさんは元に戻った。

「た、助かりました。ありがとうございます」

 息が完全に上がっていて、思考するのもままならない。

「こんなところまで追ってくるとはな。とんだ命知らずだな」
「よ、用があったので」
「ほう?」

 命知らずな行動したおかげか、ギュララさんは少しオープンな態度でいた。
 僕は何度か深呼吸をして落ち着かせる。そして彼に向き直り、目を合わせてこう告げた。

「話に来たんです……この剣で」
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