ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

四十話 コノハの未練?

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「二つの大役、やってくれるか。改めて村長として感謝する。終えたら報酬を用意しよう」
「も、貰えないですよ……ロストソードの使い手として当然の事ですから」
「ガハハっ。そう遠慮されるよりあげたくなってしまうではないか。もっと良いものを考えなければな」

 オボロさんは渋い顔でお茶目に笑う。どうやら逆効果になってしまったらしい。一体どんな物が渡されるのだろうか、偉い人だし期待よりも恐怖があった。

「貰えるもんは貰っとけよ。人生何が起きるかわかんないんだからな」
「遠慮する事は一つの礼儀だが、素直に受け取るというのもまた礼儀だぞ」
「……そうですね」

 二人の言うことはもっともで反論の余地はなかった。僕はそれを受け取ることを了承してから、出されていた水を全て飲み干す。

「話は終わったけど、ヒカゲはこの後何か予定はあるのか?」
「予定というか、村の案内されていた途中だったから、その続きとかかな。まぁコノにその余裕があればだけど」
「そういやそうだったな。そんじゃ、コノハの様子を見に行くか」

 ホノカと共に立ち上がり、オボロさんに別れを告げてから部屋を出て、一階の医療所へと向かった。

「ホノカ、少し訊きたいことがあるんだ」
「何だよ」
「少し前にこの村に訪れていて、マギア解放隊に殺されてしまった女の子を知らないかな。お兄さんと観光に来ていたんだけど」

 玄関で靴に履き替えて扉に手をかけようとした彼女の動きが止まる。

「ああ、知ってるよ。なんせオレの目の前でその子は殺られたんだから」
「目の前で……」

 ドアノブを握っていた手が力を込めているのか震えている。

「その時が最初の襲撃だった。オレはそいつらの暴挙に頭に血が上って、一人で集団に戦いを挑んだ。そんで、案の定返り討ちにあってこのザマさ」

 自嘲気味に笑うとドアを開けて外に出る。僕も同じく進んでから、思わず下を見ると飛び降りたあの廃ビルの屋上の光景を思い出した。

「でも、どうしてそんな事を」
「実はその子は霊になっていて、つい最近その子の未練を解決したんだ」

 ホノカは再び空を飛ぶ魔法を発動させると、共にゆらりと地面へと下降していく。

「その子はどんな感じでこの世を去ったんだ?」
「最後は笑顔だったよ」
「そっか……良かった」

 無事に地に足がつくと魔法が解けて重力を受けるようになる。それから医療所に入ろうとするも、中からドアが開かれて。

「サグルさん」
「おっヒカゲくんにホノカか。二人して俺の心配して来てくれたのかー?」
「んなわけないだろ。コノハに会いに来たんだよ」

 サグルさんとホノカも親しげな距離感でそんなやり取りをする。

「あのもしかして怪我ですか?」
「そうなんだよ。無駄にタフな奴が何人かいてさ、傷を負ったんだ。まぁ、もう治してもらったけどな」
「苦戦するなんて、サグにぃも腕が落ちたな」

 そう挑発的なホノカの言葉に対してそうかもなと軽く受け流して答える。一切心配や遠慮がなくて、そこに信頼みたいなのが垣間見えた。
 それから彼は軽く手を挙げるとそのまま僕らの横を通って戻って行く。

「サグルさんって強いの?」
「まぁな。この村でもトップクラスで、学び舎でも優秀な成績だったらしい」

 気を取り直して医療所の中へと再び入った。何やら人が何人かいるようで靴が増えている。それに、大きな部屋の方から話し声も聞こえた。

「他にもいるのかな」
「心配すんな。オレが見た限り重症のやつは一人もいなかった。魔法かけて安静にしてたら治る」

 ホノカはコノがいる部屋の扉の音を立てないようゆっくり開ける。そして中に入ると、コノはもう起きていたらしく、テーブルに本を立てて読書をしていた。

「あっやっと来てくれた……」

 僕たちを見るなり神妙な面持ちでで読み進めていた顔を上げてにこやかな表情を見せる。

「コノハ、少しは休めたか?」
「うん、ヒカゲさんが寝るまで手を繋いでくれてたから」
「そ、そうか。ならいいんだけど」

 ホノカはコノの手と僕の手を交互に見てから自身の手を眺める。それから少し不機嫌そうに僕を見ていて。その向けられた視線の感じは、モモ先輩を思い出させた。

「あのさホノカ。依頼のこと話した方がいいよね」
「ああ、そうだな」
「二人共何のお話? コノも入れて欲しいです」

 ということで僕とホノカは畳の上にテーブルを挟んでコノの対面に座った。そして村長と話したことをホノカが伝えてくれる。

「という訳で、これからヒカゲにはコノハの護衛と未練解決をする事になった」
「コノは凄く嬉しいけど……ヒカゲさん本当にいいんですか?」
 「もちろん。さっきも言ったけどコノのことをほっとけないからね。それに、未練解決はロストソードの使い手としてのやるべき事だから」

 元々そうだったけど、霊の話を聞いてより強く助けたいと思うようになった。

「……ヒカゲさん、ありがとうございます」

 ついさっき素直に受け取れと言われたばかりで、僕は謙遜せずお礼をコクリと頷いて受け取った。

「うん。それでなんだけど、コノは未練に心当たりある?」
「それはたい……じゃなくて! えっと……それはですねー」

 すぐに思い当たる節がある感じだったのに、ホノカの方を見た途端に言葉を切って、右ほっぺをムニムニさせながら考え出してしまう。

「そうです、コノもホノカと同じで、一緒に儀式をしたいんです! それが未練かも?」
「本当に? 何か他に心当たりとかあるんじゃ?」
「な、ナイデスヨー?」

 めちゃくちゃ怪しい。彼女の返事は、僕の下手くそな演技と同じ感じの棒読みだった。しかも僕とも一切目を合わせようとしなくなる。

「……」

 しかし、隠すということは何か理由があるのかもしれない。それに、その未練が口にするだけでも負荷が高くて、襲われたばかりの精神状態では言えない可能性もあって。だから今はそれで納得することにした。

「わかった、疑ってごめん」
「い、いえ」
「それじゃあやる事は一つだね。儀式を成功させるため、コノを守る」

 そうは言ったものの多分そんな単純にはいかないだろうと、二人を視野に入れそう思った。

「何だか物語のヒロインになった気分になっちゃいますね」
「嬉しくないの?」

 物語が好きな彼女なら喜ぶと思ったのだが、どうしてか悲しげに微笑んでいた。その理由を尋ねると広げていた本を持ち上げて。

「この本のお話のヒロインは魔王の手先に追われてて勇者に守ってもらっているんです。その関係ってすっごく素敵だし、コノはずっとそんな特別なヒロインに憧れてました。けど、本当はそんなに良いものじゃないってわかっちゃいました。だってこんなに辛くて怖い思いをしてるんですから」

 そうしてぱたんとその本を閉じてテーブルの上に置いた。静かな空間にその音が鮮明に響いて。なんて声をかけていいかわからずにいると。

「……コノハがそんな現実を見るなんて、明日は天変地異でも起きるのかもな」

 ホノカは軽い調子でそんな感想を口にする。

「もう、真面目な話をしてたのに茶化さないでよー。ホノカがいっつも言ってくる現実を見たんですけどー?」

 しんみりとした空気感が一変してゆるめな雰囲気になった。それに少し息がしやすくなる。

「悪い悪い。夢見てないコノハが違和感しかなくて見ていられなかった」
「ええー? ホノカはコノに現実を見せたいのか見せたくないのかどっちなの?」
「ま、まぁそんな事はいいだろ。それよりも、この後はどうするんだ?」

 あまりにも強引に話を逸らした。あからさま過ぎて、逆にコノも困惑にそれを指摘できず。

「えと……案内の途中だったからその続きをしようかなって」
「よし! それなら早速行こうぜ。もうすぐ昼になるしな」

 そのまま一人で話を進めて有無を言わさずといった感じで立ち上がり部屋を出てしまう。残された僕とコノは思わず互いに目を合わせて、苦笑した。

「凄いパワープレイだったね」
「これホノカの常套手段なんです。昔から困るとすぐに有耶無耶にしちゃう」
「おーい、二人共早く来いよー」

 僕達はまた顔を見合わせて苦笑いを浮かべつつ立ち上がった。コノから二体のぬいぐるみを返してもらい、ホノカが待っている玄関、そして三人で一緒に外へ出た。
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