ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

五十話 ホノカの未練

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 マギア解放隊を退けて一日が経った。いつものように目を覚ますと隣にはコノがいてスヤスヤと無防備な寝顔を見せている。今日は学び舎がないため、しっかりと睡眠時間を確保できた。多分、もうお昼近いだろう。

「……すぅ」
「コノ」

 僕が先に起きるのはあまり無いことだった。きっと昨日の事が相当な疲労になっている。僕も同じようだけど、力もついてきたし能力も短時間だったから前回のようにはならなかったようだ。

「どうしようかな」

 あの後、僕達はすぐに家に帰宅してまた日常生活へと戻った。しかし、意識は簡単には切り替えられなかった。コノの心配も今後の襲撃も憂慮していたけど、何より彼らが霊であることが悩ませる。
 彼らのやってることは肯定できないけど、仲間のためという想いは共鳴できるもので。それに、生者側の人の気持ちを想像すると簡単にマギア解放隊を否定できない。
 きっと彼らも、半亡霊ということは時間も多くない。早めにかつ穏便に未練を解決する可能性はないだろうか。

「うむむ……」

 エルフの村の事情考えると妥協点が見当たらず、アイデアは浮かばなかった。どっちもではなくどちらか、その選択肢しか無くて。そうなったら僕はどうするか。

「一つしかない」
「う……ぅぅ」

 そう考えをまとめているとコノが目を覚ます。寝癖で髪の毛がボサボサで瞳はトロンとしている。

「おはようコノ」
「お、おはよう、ございます」

 彼らには申し訳ないけれど、やっぱり僕はコノが明日を向かえるようにしたかった。

 *

 多少昨日の事を気にしつつもそれ以外はいつもと変わらない感じで休日を過ごした。今日でちょうどこの村に来て一週間で、随分と慣れたものだなと思う。家にはイチョウとリーフさんがいて、いつも傍にコノがいる。そして家族のように一日を送って。まぁ、トイレやお風呂に関しては慣れるはずもないけど。

「ねぇコノ……大丈夫?」

 お昼を食べてからしばらくしてから、僕達は静かに本を読んでいたのだけど、一段落がしていつもと変らない彼女が気になって声をかける。

「はい、心配しないでください」
「そう? でも難しい顔をしてたから」

 いつもなら楽しそうに小説に顔を埋めているのに、心ここにあらずといった感じでページをめくっていた。

「その……ちょっと考え事をしてたんです」
「悩み事なら聞くよ?」
「いえその……これは一人で決めなきゃいけないので」

 凄く気になるけどそう言われてしまうと引き下がるしかなかった。

「そっか。もしかして一人になりたいとかある? 必要なら外に出てるけど」
「……そうしてくれると嬉しいです」

 意外な返答だった。念の為訊いただけだったのだけど、まさか一人になりたがるなんて。

「了解。本当に困ったら相談してね」
「はい! ありがとうございます」

 どうやらただ事ではないみたいだ。後ろ髪を引かれるも僕は部屋から出た。

「外に出ようかな」

 少し気分転換に散歩することにして、休みでゆっくりしている二人からいつものように、いってらっしゃいを受けて玄関の扉を開けた。

「何か本当家族みたいだ……」

 とりあえずぼーっとしながら神木の方へと歩いて行った。道中にはあの三人組の子達にまた囲まれてしまい、昨日の事の質問攻めにあってしまった。数十分ほどそれに答え、やっとのこともうすぐ暗くなるということで開放された。

「「「ばいばーい」」」
「ばいばーい。……やっと終わった」

 リラックスのためだったのに、逆に別の疲労が溜まってしまった。気を取り直してウォーキングを再開する。

「……」
「あれは」

 村の中心地に来ると、神木付近のベンチにホノカが座っているのを見つけた。悩ましげに地面をじっと凝視している顔が夕日に照らされている。

「ホノカ」
「ん? ああ、ヒカゲか」

 顔を上げると普段と変わらない調子の明るさに戻る。

「コノハは一緒じゃないのか?」
「うん。一人で考え事をしたいって追い出されちゃったんだ」
「意外だな、ずっとくっついていたそうだったから。……ってそんなとこで突っ立てないで座れよ」

 右隣をポンポンと叩き促してくれて、僕はそこに腰かけた。

「ホノカは何をしていたの?」
「オレは……コノハと同じだな。色々考えてた」
「それなら、僕いない方がいいかな?」
「別にそんな気を遣わなくていい」

 それから会話が止まって絶妙な空気感の静寂に包まれる。僕はぼーっと前に目をやって村のエルフの人々が行き交う光景を眺めた。

「……」
「もし良かったらだけど話を聞こうか? 解決できないかもだけど、話すだけでも楽になるだろうし」

 もしかしたら未練に関しての可能性もあり、ここは積極的にいくことにした。

「そう……だな」

 一度大きく息を吐いてから少し苦笑いを浮かべ、僕に真っ直ぐと赤い瞳が向けられた。

「実はさ、お前に言わなきゃいけない事があるんだ」
「うん」
「オレ嘘ついたんだよ、未練のこと。祈り手としての役割を果たしたい思いはもちろんあるが、それは霊になってる理由じゃない」

 ここまではある程度予想できていたことだ。ようやく話せてもらえ、少しは信頼された気がして嬉しくなる。

「それでだな……本当の理由はだな……それは」

 一番大切な部分で言葉が躓いてしまう。瞳は泳ぎまくっていて、何だか恥ずかしそうに頰も赤くなってる。

「もしかして……コノのことが」
「そ、そうだよ! オレはあいつが好きで告白したいのが未練なんだ!」
「ま、マジっすか」

 それは想定の斜め上だった。けど、思い返すとコノを意識している素振りはあったし、ちょくちょくモモ先輩みたいな嫉妬の視線を送っていた。

「オレは昔からコノハが好きで、この口調だってカッコいいと思われたかったからなんだ……」

 夕焼けの効果で、ホノカの顔は火が吹きそうなほど真っ赤だった。そこには普段の威勢はなくて語気も弱々しい。

「へ、変だろ? こんな事が未練だなんてさ」
「いやいや、どんなものでもその人が持つ未練は重大なものだよ」

 そう、本当に重いものだ。当然、マギア解放隊の彼らが持っているものだって。

「ねぇホノカ、僕はロストソードの使い手として、そして個人的にも力になりたい」
「……なら、オレの告白が成功する可能性を上がるようサポートしてくれ。それと、逃げないよう見張って欲しい。今までずっと、できていなかったから」
「もちろん、わかった……よ」

 話してて思い出す。そういえば僕コノに告白されていた。あれ、これ関係的にはホノカのライバルになってるよね。どうしようか。

「どうしたんだ?」
「いや……何でもないよ」

 告白を受けていることを伝えるべきだろうか。今の流れでそれを言うのは躊躇ってしまう。

「そんじゃよろしく頼む。ふぅ、何か仲間が増えると力強いな」
「な、仲間……そ、そうだね。できることをしてみるよ」
「ああ! サンキューなヒカゲ……いやユウワ!」

 八重歯を見せて少年のような笑顔を見せられ、完全に言うタイミングが消し去られる。 
 未練について進展したのは喜ばしいけど、その副産物として隠し事という重りが追加された。 
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