ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

文字の大きさ
83 / 102
ロストソードの使い手編

八十三話 桃奈デート1

しおりを挟む
 林原さんが出て行った後、モモ先輩が戻って来る。

「あれ、ソラくんは?」

 彼がいない事に気づいた瞬間に、不安そうにキョロキョロと辺りを見回す。

「実は……」

 僕は林原さんの言葉をそのままモモ先輩に伝える。理由を聞くと、落ち着きを取り戻した。けれど、同時に寂しそうな表情になって。

「ソラくんらしいわね」
「モモ先輩……」
「大丈夫よ。こうなる事は、ある程度わかっていたもの。……あの一歩を踏み出した時点でね」
「あの一歩?」

 彼女は一度言葉を切ると、冷蔵庫のようなマギアから冷えた水を取り出してごくごくと飲んで、またこちらに。

「ユーぽんのために、好きになるって言ったでしょ。それよ」
「そう、だったんですね」
「ずっと悩んでいたの、このままじゃ駄目なのにその先に行くのが怖くて。けど、そんな時にユーぽんに出会って……命をかけてでも解決しようとする姿を見て思ったわ。あなたをほっとけないし、あたしも同じように頑張らなきゃって」

 あの日、過去の事や僕を救うために好きになると告白されて、あまりに突然でとても驚いた。でも、それは裏ではそんな風に大きなものを背負っていたからで。なのに、僕はエルフの村での事件では結構モモ先輩の想いを無視して動いていて、罪悪感が溢れてきた。

「あのすみません。僕、ウルフェン関係で結構無茶してしまって」
「そう話していたわね。なら、もうそれが出来ないくらいの仲にならなきゃね。ソラくんの件も含めて」

 コツンと僕の胸に人差し指をぶつけられる。軽い痛みと共に温もりが全身に広がった。

「でも具体的にどうしましょうか」

 依存関係を薄れさせる、僕とモモ先輩との関係性の構築。人と人との繋がりを意図的に求めるものを作るというのは、僕にとっては高難易度だ。

「難しく考える必要はないわ。もっと仲良くなればいいだけだと思うから」
「そ、そんな単純でいいんですか?」
「他に選択肢はないでしょ。それに、ユーぽんとなら、どれだけ距離が近づいても依存しそうにないからね」
「それ、褒められてます?」
「もちろんそうよ」

 そう、にかっと笑う。すると何故だか、大丈夫な気がしてきた。先輩だからだろうか、一つ重荷がふっとなくなる。色々複雑な状況だけれど、やはり一人だったエルフの村の時とは、全然心に余裕があった。

「けど仲良くなるってどうすれば?」
 いざ仲を深めようと言われても、どうすれば良いのだろう。
「ふふん。まずは……デートよ!」
「で、で、デート!?」
 


 衝撃的で魅惑的で甘みを感じさせるような言葉に戸惑っていたまま、僕はモモ先輩に着替えさせられ無理矢理街に連れ出された。まず、訪れたのは商店街で、前に来た時と変わらず多くの人が行き交っている。

「さぁ、楽しむわよ」
「は、はい」

 モモ先輩はいつもと変わらないゴスロリ魔法使いスタイルで、対して僕は例のデフォルメモモ先輩が描かれた白のシャツと黒の長ズボンを着ていた。

「何か、本人を横にしてこれ着るの凄く気恥ずかしいんですけど。……制服に変えてもいいですか?」
「だーめ。それだとお仕事モードになっちゃうじゃない。好きなんだし、いいじゃない。それに、そっちの方があたし的にも嬉しいし」
「そ、そうですか」

 そのように言われてしまっては、もう着替えたいだなんて言えない。僕はあまり気にしないよう目の前のモモ先輩に意識を集中させる。

「そんなに熱い眼差しで見られたら照れるわ」
「い、いや。そういうあれじゃなくて」
「あ、ユーぽん。着いたわよ」
「……ここは」

 立ち止まったのは、カラフルでファンシーなデザインのお店だった。何度かここら辺を通った時に見かけて、気になってはいたのだけど、まだ入れていなかった。可愛くて良いのだけど、僕がいていい場所なのか不安になってくる。

「ユーぽん、こういう感じ好きでしょ? ここわ可愛い系の物を沢山扱っているの」
「えっと、男の人は駄目みたいな事ありません?」
「大丈夫よ。さ、行くわよ」

 左手をモモ先輩の小さな右手で掴まれて、店に入らされる。

「……す、凄い」
「ふふ。最高でしょ?」

 店内も外装と同様にパステルカラーに満たされていた。小さめな中だけど、棚に置いてある物を含めて可愛いがぎゅっと濃縮されているようで。そして、奥にいる店員のお姉さんもガーリーなオレンジ色の魔法のローブを被っている。

「ユーぽん、これ可愛くない?」
「わかります。えっと、こっちも良くないですか?」

 最初に、小物類が置かれている棚を一緒に眺める。色々なデザインのペンやちょっとした装飾具、置き物何かが売られていた。どれも、キュンとさせるような物ばかりで、つい目移りしてしまう。それはモモ先輩も同じようで、瞳を輝かせていた。

「流石、わかっているわね。これも、これも魅力的だし……」
「モモ先輩、このペンとか凄く可愛いですよ。水玉模様で綺麗で」
「こっちのハートマークのも良いわね。買っていこうかしら。ユーぽんも買っちゃえば? とっても欲しそうな顔してるから」
「そ、そんな顔してますかね……あ」

 ふと、気づく。そういえば、オボロさんから貰ったお金をアヤメさんに渡していないままだった。そしてそれは部屋の中に置いたままでいるため、現在の手持ちは相変わらずゼロだ。

「どうしたの?」
「実は……」

 無一文である事とその理由を説明すると、モモ先輩はクスクスと笑い出す。

「ユーぽんって、物欲はあるのに金銭欲はあまりないのね。それともちょっと抜けているのかしら?」
「どっちも……かもです」

 多分八割くらいは抜けているのだと思う。そう認めるとまた彼女は口元を抑えて笑顔に。

「あはは。そんな、可愛い後輩のためにあたしが買ってあげる。先輩だしね」
「でも……」
「ふーん、じゃあ欲しくないのかしら?」

 僕が持っていた水玉模様のペンを取り上げると、餌をチラつかせるように目の前で見せつけてくる。

「……ほ、欲しいです。とても」
「ふふ、わかったわ。人の善意はね、最初から遠慮する必要なんてないのよ。こういうのでも仲良くなったりするんだからね」

 こちらを見上げるモモ先輩に、そう大人のような対応で諭される。見た目は幼いけれどやっぱり、頼れる年上の人なんだと改めて気付かされた。

「じゃあ、他のも見て回るわよ。欲しいのがあれば、言ってね」
「はい」

 それから引き続き一緒に、会話に花を咲かせながら店内を歩き回った。それらはどれも僕の琴線に触れる物ばかりで、逆に欲しい物が分からなくなる状態になっている。
 そんな中、最後にぬいぐるみコーナーを見つけた。もふもふでキュートにデフォルメされた魔獣の物があって、どれも見ているだけで癒される。

「こ、これは……」

 ただ、その天国のようなラインナップの所に、異質な物が存在していた。そしてそれは僕の知っているもので、モモ先輩の好きな物で。

「いつ見ても可愛いわよね。『ギュっとウサたん』」
「……」

 狂気的な表情をしているうさぎのぬいぐるみ。全十色あるようで、棚に座らせて並べてある姿は、見るだけで呪われそうだ。でもモモ先輩は、それらを他の可愛らしいぬいぐるみと同列扱いしている。

「レベル、高いですね」
「そう? 普通に可愛いくない?」
「……」

 僕は所詮その程度の可愛いもの好きなんだ。誰もが良いとするものくらいしか、好きになれない。

「これ、ギュララさんが作ったんですよね……」
「えぇ。ギラという名前でこんな素晴らしい作品をこの世に生み出してくれたのよ。本当に惜しい人を亡くしたわ」

 モモ先輩は悲しげに瞼を閉じる。僕も同じく胸が痛むのだけど、どうしてもこのぬいぐるみだけは肯定的に捉えられない。だって、普通に恐ろしい見た目をしているから。

「感謝を込めてじゃないけど、これを二つ買わない?」
「え……」

 とんでもない提案をされてしまう。今すぐ、全力で拒否をしたいのだけど、ギュララさんを想うと、無闇に否定も出来なくて。どうしよう。

「あたしはまだ持っていなかった白色にするわ。ユーぽんはどうする?」
「買うの確定なんですか!?」
「……この子達には彼の想いが入っているのよ。彼を忘れないためにも手元に持っておくべきだと思うの」
「ひ、一つあれば……ってや、止めてください……」

 彼女は黒色のウサたんを持って、それを僕に押し付けてくる。怖い、超怖い。弾き飛ばしたいけど、それも出来なくて。

「わかり……ました。それでいいです」
「ふふん。このペンもだけど同じ物を買うのって、ちょっといいわよねー」
「はは……そうですね」

 ぬいぐるみに関しては半ば強制だったのだけど。でも、モモ先輩は嬉しそうにしていて、僕も多少は同じ感覚でいて。だからこれ以上の反発は止めた。
 それからモモ先輩は商品を持って行って、店員さんと軽く談笑しつつ支払いを済ませ、店が出してくれるパステルカラーの袋に入れて戻ってきた。

「同じ趣味の人との買い物はやっぱり楽しいわ」

 確かに近い感覚は持っているけれど、決定的な違いが浮き彫りになっている気がする。僕は無言で苦笑するしか無かった。

「それじゃあまだまだデートはこれからだから。付いて来るのよ?」
「……はい」

 僕はこの先は平和な心持ちで楽しめるよう心の中で祈りモモ先輩と店を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...