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カラスの子と花火大会

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 カラスの子がアヒルと暮らし始めてからしばらくたったとある日、またひよこがやってきました。ただいつもと違うのは、ひよこは浴衣姿なのでした。

「ぴよよー! 今日は花火大会ぴよ! みんなでいくぴよ!」

「……花火大会。もうそんな時期くわか」

「かあ? はなびってなあに?」

「花火はね! お空にぱあん! 打ちあがってぴかあ! と光ってきれいなんだよ!」

「かあ?」

 ひよこの感覚的な説明に、カラスの子はますます首をかしげてしまいます。

「まあ行ってみればわかるくわ」

 そういうとアヒルはタンスをガサゴソと漁り、カラスの子にサイズの合いそうな浴衣を出してやりました。

「ほら、くわの昔の浴衣くわ。ひよこに着せてもらえくわ」

「ぴよー!」

 ひよこに連れられてカラスの子は黒い浴衣に着替えました。

「それじゃあいくわよ」

 アヒル、ひよこ、カラスの子が連れ立って花火大会の会場にいくと、そこには多くのアヒルたちと、たくさんの出店が出ていました。おいしそうな食べ物のにおいにカラスの子とひよこのお腹がなります。

「よーし! まずはあれをたべるぴよ!」

 ひよこはさっそくたこやきを買います。

「あふ……! あふ……!」

 カラスの子は初めて食べるたこやきに目を白黒させます。

「次はこれぴよ!」

 ひよこは綿菓子を買ってきます。

「ふわふわあまぁあい……!」

 カラスの子は綿菓子の甘さにとろけてしまいました。そうやってお腹を見たしたあと、カラスの子がなにかを見つけます。

「アヒルさん。あれはなあに?」

「くわ? ああ、あれは射的くわな。銃で景品を打ち落とすとそれがもらえるのくわ」

「へえー」

 カラスの子は興味津々といった様子で射的の景品を眺めます。そしてひとつの商品に目を奪われます。それはデフォルメされたアヒルのぬいぐるみでした。

「カラスのぼっちゃん。やってみるくわい?」

 ハチマキをした的屋のおっちゃんアヒルがカラスの子に声をかけます。カラスの子はいったんアヒルの顔を伺いましたが、アヒルもうなずいてくれました。そこでカラスの子はおこづかいから300円を出して的屋のおっちゃんアヒルに渡しました。

「ほい。玉は5発だ。よーく狙うんだぞ」

「かあ!」

 パン!パン!パン!パン!

 カラスの子は4発の弾丸を発射しましたが、目標のアヒルのぬいぐるみにはあたりません。カラスの子は涙目です。

「しょうがないぴよなあ。ここはぴよが……」

「おまえも射的下手だろくわ。くわがやるくわ」

「かぁ……」

 カラスの子から銃を受け取ったアヒルは慣れた様子で銃を構えます。それはさながら一流のスナイパーです。

 ぱぁぁぁん!!

 銃声と共にアヒルのぬいぐるみが棚から落ちました!

「当たりー! やっぱアヒルの旦那はうまいねえ」

 的屋のおっちゃんアヒルは、アヒルのぬいぐるみをカラスの子にくれました。

「かあ! ありがとか! ありがとか!」

 カラスの子はぬいぐるみを抱きしめると、ぬいぐるみをとってくれたアヒルと、的屋のおっちゃんアヒルに何度も何度もお礼を言いました。
 それから3人はひよこの知っている花火のよく見える秘密の場所に向かいました。そこにある木製のベンチに並んで腰かけると、ちょうど花火が打ちあがりました。

 ひゅるるるるるる。どっかああああん。

「かあ!」

 カラスの子は音と光にびっくり仰天。思わず目を閉じてしまいます。

「くわわ。大丈夫だから目を開けてごらん」

 アヒルはカラスの子の頭を撫でます。するとカラスの子も恐る恐る目を開くのでした。するとそこには夜空をいろどる大輪の花が咲いていました。

「かあぁぁ」

 カラスはその大輪の花――花火に見とれてしまいます。アヒルとひよこもいつまでも夜空と花火を見つめていました。こうして夏の夜はふけていくのです。
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