転生者は隠しボス

アロカルネ

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第一章

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気づくと僕は知らない世界の洞窟に立っていた。
「・・・・・・よくぞ、来た。勇者たちよ」
突然のことに色々と混乱してしまった僕は、とりあえず練習していた台詞を出して気分を落ち着かせる。
悔しさと自棄で魔力の無駄遣いとばかりに、魔力で厳格な声に変えてやってやってる。
「だが、それほどの力を持って何故にまだ力を欲する? その力は己が破滅を呼ぶに等しい」
隠しダンジョンの最奥に籠もって、そろそろ勇者が来るかなぁっと思って、嵌まっていたゲームを一旦中止してまで練習した決め台詞だ。っていうか、ずぅーっとさ、引き籠もってたんだぜ?僕は?
「よかろう。それほどに望むというのであれば、束の間の寿命と引き換えに最強を汝に与えてやろう。・・・・・もういいや」
”我に挑む権利をな・・・”との台詞まで言おうとしたが、それも馬鹿らしくなってきてやめた。
初対面で緊張するだろうなぁっと、一生懸命練習してた台詞も、もう使い道が無くなったと思うと空しい。
「・・・・・」
なんで、RPGの鬼畜クソゲーであるゲームキャラの僕が、他の世界の、たぶんゲーム世界に異世界転生なんてかましてるんでしょうか? 練習して徹夜で考えた台詞も台無しだし・・・・あっ、そう思ったら涙出てきた。
「・・・・・グスン・・・しくしく・・・」
僕は襲ってきた魔物たちを一掃した死骸の山に乗っかりながら、とりあえず努力した時間を返せと拗ねて泣く事にした。


俺たちはスタンビートが発生しかかっているという情報を冒険者ギルドから提供され、その討伐のために洞窟内を進んでいた。部下全員の表情は硬く、かくいう俺の表情も硬いままだろう。
この洞窟の魔物は少なくてもBランクを超える魔物が多く、一流の冒険者たちがパーティーを組んで、ようやく入ることを許可されているダンジョンなのだ。そんな場所で魔物が大量発生したと聞き、いくら王国騎士団に務めている精鋭の部下たちでも決死の覚悟で挑まねばならない。緊張して進む中・・・
『・・・・・・・その力は己が破滅を呼ぶに等しい』
「隊長、この言葉は・・・」
「ああ・・・・」
おおよそ、人間とは思えない厳格な声音が聞こえ、その覇気と魔力を帯びている声に俺たちは気を引き締める。
部下たちに視線を送り、全員が武器を抜きながら声のする方に油断なく視線を向ける。
「よかろう。それほどに望むというのであれば、束の間の寿命と引き換えに最強を汝に与えてやろう」
その声と同時に覆われていた魔力は、まるで霧散するかのように散っていき、喉がひりつく感覚を感じながら、ゆっくりと声の下方向へと向かう。しかし・・・
「っ・・・・」
そこで見た光景に誰かが息をのむ。それは、もしかしたら俺かもしれないと思いながら、おびただしいほどに散らばっている魔物たちの死骸と、その中心で膝を抱えて泣いている、小さな。とても小柄なフードを被った少年が泣いていた。
「これは・・・一体・・・・?」
副隊長であるノルも戸惑った顔をするが、それは俺も同様だった。
先程の厳格な声と何か関係があるのかもしれないが、今は少年の保護が最優先だろう。
もっとも少年が本当に人間ならの話ではあるが・・・・俺はノルに視線で合図を送り、部下をいつでも動かせるように指示を出しながら事の成り行きを見守る。
「坊や、大丈夫か?」
「・・・・・・」
ノルの言葉に少年はゆっくりと顔を上げ、その顔立ちに俺を含めた全員が目を見開いた。
顔を上げた拍子に撮れたフードから覗く漆黒を称える綺麗でまっすぐな黒髪、ルビーのように綺麗な瞳と幼いながらも整った顔立ちは場に不似合いなほどに美しくて、それ以上に愛らしさを感じさせた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
至近距離で見たノルも目を奪われていたが、騎士団の中でも婦人たちからも人気の顔を徐々に朱へと染めていく。
「・・・・・・・・・」
「えっ、あと・・・ここ、危ない。俺たちと、帰ろう」
あまりのことに言葉も片言になっているノルに俺は片手で顔を覆い、このままだと埒が明かないにないと判断して、周囲の警戒を怠らない様に部下たちに手で合図を送ってから近づく。
「おい、坊主、名前は何て言うんだ?」
「・・・・・・・」
まだ一言も発しない少年は周囲にキョロキョロと見た後、こほんっと咳払いしたと思ったら、何事もなかったように立ち上がる。若干頬が赤くなっており、まるで泣いているところを見られた恥ずかしかったと言わんばかりに微笑ましい仕草に、とりあえず害はなさそうに見える。
「・・・・・・フェ、フェル」
「そうか。それで、フェルはどうしてここにいんだ?国から立入は禁止と触れが出ている筈だ。」
「隊長、そんな風で聞いたら彼が怯えます」
まだ警戒を残しながら聞くと、先にノルのほうが反応してしまう。
元々、子供好きであり、しかも可愛い少年ときたら、守ってやりたいというノルの反応も分かるには分かるのだが状況を考えろと殴りつけたくなる。しかし、俺の鋭い視線を受けてもフェルは気にした素振りも見せずに困ったようにを掻く。
「分からない。連れてこられて気づいたらここにいた」
「・・・・・そうか」
その言葉に俺は様々な可能性を考慮していく。
ありえそうな話としては面倒を見切れなくなった両親が捨てに来たか、それとも奴隷商人が隠れ家として連れてきたか、フェルが嘘をついているか・・・・あの声と少年に何か関係があるのか・・・
「とにかく、ここは危険なんだ。俺たちと一緒に来てもらう」
「・・・・・分かった」
詳しい事情は本国に連れて帰った後に聞けば良いかと、当面の危機が去ったことに俺は少しだけ肩の荷が下りたのを感じながら、念のために洞窟の探索を再開するのだった。


洞窟での探索が終わり、僕は彼らの国へと連れて行かれるために馬に乗せられている。
僕は騎士団の人たちに連れられ、ノルと一緒の馬に乗せられながら景色を眺める。
初めて彼らにあった時には驚いたが、どうやらここは僕が知っているというか、やっていたゲームの世界という予想で正しかったようだ。それも決め台詞の為に一旦中止していた世界のようで、彼らを見ているとクリアできなかったことが非常に悔やまれる。でも、彼らがいるという事は・・・
「そんなにキョロキョロ見てどうしたんですか? 珍しい物でもありましたか?
「・・・・あ、えっと・・・こうやって外に出たの初めてだったから」
このゲームの主人公であるテオを探していたとはいえず、僕は適当なことを口にした。
「外に?」
「うん、出してもらえなかったから・・・・」
隠しボスである僕はシステムの関係でダンジョンの最奥にいる事しかできなかったので、こうやって自然と触れ合えること自体が新鮮なのだ。最終ダンジョンとか隠しダンジョンってさ、大抵は綺麗な宇宙みたいな空間とかみたいなのが多いけどさ、来る方は新鮮な気持ちになれてもずっと同じ光景だからいる方は飽きるんだよ。
「それは・・・」
「こりゃ、奴隷商人の線が濃そうだな・・・」
僕の言葉にノルと隊長さんが複雑そうな、憐れみの籠った視線を送ってくる。
別に否定しても良いのだが、そうすると説明がさらに面倒くさそうになると判断した僕は周りの景色や空気を楽しむことに集中した。道中で出てくる魔物も騎士団の方々が倒してくれるから楽が出来て非常に快適だった。


騎士団の本舎に戻った俺たちは、すぐに会議室に戻ってフェルの事を話し合う。
「どう思う?」
「少なくても普通の環境で育っていたとは思えませんね」
「そうだろうな・・・」
洞窟にいた件もそうだが、帰りの道中で現れた魔物に対してもフェルは一切反応を示さなかった。
貴族や村人なら魔物を見たら怯えるだろうし、冒険者だったとしても身構えるぐらいはするだろう。
それなのに、フェルは魔物が出ても、歯牙にもかけずに路傍の石でも眺めるようだった。
かと思えば自然や木の実を見つけたら嬉しそうに笑ったり、毒キノコを食べようとしたりと、やっていることが子供のようにちぐはぐだ。とりあえず実害はないという判断はしたが、まだフェルに関しては謎が多すぎる。
「やはり奴隷として飼われていたという件が一番しっくりきそうだな」
「そうなると、戸籍も抹消されている可能性が高いでしょうね」
「ああ・・・・」
本来ならば戸籍を作ったうえで、孤児院を経営している教会に保護させるのが一番なのだが・・・
「あいつは俺たち騎士団で保護して面倒を見るという事でよいか?」
「私たちは構いませんが、よろしいのですが?」
「ちょうど小間使いが一人じゃ足りないと思っていたからな。新しく入った・・・なんつったか・・・あいつ」
田舎の村からやってきた少年で、騎士団になりたいと騒いでいた馬鹿な奴だが、年も近いし、丁度良いだろう。
「テオ君でしょうか?」
可愛い子は覚えているノルは即答で答えてくれる。
俺から見たら、やんちゃで小生意気なガキという印象と見た目なんだが、ノルからしたら琴線に触れるらしい。
面接と評してテオの裸まで見ようとしたぐらいだ。本当にこの性格でさえなければ、実力は確かなんだが・・・
「ああ、そいつだ。そいつと一緒で良いだろ」
「分かりました。早速手配しておきます」
顔にはあからさまに、自分と一緒の部屋が良かったと書いてあるが、こいつと一緒の部屋なんてオオカミのいる檻に子羊を放り込むようなものだ。あっという間に食われちまう。
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