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【濡れたまつ毛】
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「おまえ、もう立派に女だよ。あぐらかいても、どんだけ口悪くてもさ。胸張って生きろよ」
精一杯の想いを込めて微笑みを向け、奏の髪を柔らかく引っ張った。
「ダメ。無理。オレ、おまえにヤリてーって言われるまで、そんなん無理だもん。おまえにヤリてーって言われて、そんで断るんだ。それまで無理」
奏が切なく潤ませた瞳を相良に向けてくるのに、半開きになった口に目がいき、ドキリとして目を逸らす。そんな相良に奏は尚も身を寄せ、勢い胸が相良の腕に押し付けられた。
「はあぁ。おまえ、酔ってんな、かなり」
聖人君子でもあるまいし、ちょっと柄は悪いが綺麗な、しかも自分好みのスレンダーバディに抱きつかれて胸を擦り付けられれば、何というか鼻の下も伸びようというもので──。
そこをなんとか紗月のつり上がった目を思い出し、平静を装った声をあげた。
「わーやりてー。まじで。やばい。押し倒しそぉー」
涙で濡れたまつげの下で、その瞳が訝しげに相良を見上げたかと思うと、次の瞬間、相良の股間へ手を当ててきた。
「おいっ!」
「不能なんじゃないの?……あ、勃ってきた?」
「揉むからだ!!」
奏はキラキラと子供のような笑顔でガッツポーズを作ると、さっさと相良から体を離して立ち上がる。
「やだ、相良さんったらフケツ!! 私のこと、そんな風な目で見てたのね!? いやらしい。サイテー」
作ったような女声でそういうと、高笑いして、シャワールームに消えた。
「……く…くっそーーーー!! サイテーなのはテメエだ!!」
枯れたジジイじゃあるまいし、中身がツレだとしても、いくら男の時代を知ってたとしても、現時点でそれなりに好みの見た目の女に股間弄られたら兆しもするわ!
ま。好みとか絶対言わないけどな。
憤懣やるかたない気持ちでビールをあけたところで、待ちわびた着信音。
「ごめんね。待った?」
耳元で甘く響く声。
耳から首筋、そして全身にかけて粟立つような心地よさ。
「待ったよ。そりゃ。紗月さんのこと思い浮かべて欲情するくらいに」
「……浮気してないでしょうね?」
あれは浮気ではない。
断じてない。
そう思いながら、それでも先ほどの奏との綱渡りのような会話を思い出して声が掠れた。
「してたら電話出ないよ。じゃあ今から行くから」
通話を終え立ち上がった相良だったが、思い立ったようにキーチェーンの中から、ワールドカップの記念キーホルダーのついた奏の部屋の鍵を外した。
「おーい、俺もう行くわな」
シャワールームに一声をかけてから部屋を出ると、ドアの鍵を閉め、その鍵をキールダーごと郵便受けに放り込んだ。
元々は奏と二人で住んでいた部屋。
相良の父親が亡くなったのを期に実家へ戻った相良だったが、奏にそのまま鍵を持っていろと言われ、ついつい返さずじまいになっていた。
だが、さすがにオトコができたという今、このままはまずい。そろそろキッチリと線引きをする時期ではあったのだ。
ほんの少しだけ感傷的な思いでドアに触れると、息を吐き、勢いをつけて歩き出した。
精一杯の想いを込めて微笑みを向け、奏の髪を柔らかく引っ張った。
「ダメ。無理。オレ、おまえにヤリてーって言われるまで、そんなん無理だもん。おまえにヤリてーって言われて、そんで断るんだ。それまで無理」
奏が切なく潤ませた瞳を相良に向けてくるのに、半開きになった口に目がいき、ドキリとして目を逸らす。そんな相良に奏は尚も身を寄せ、勢い胸が相良の腕に押し付けられた。
「はあぁ。おまえ、酔ってんな、かなり」
聖人君子でもあるまいし、ちょっと柄は悪いが綺麗な、しかも自分好みのスレンダーバディに抱きつかれて胸を擦り付けられれば、何というか鼻の下も伸びようというもので──。
そこをなんとか紗月のつり上がった目を思い出し、平静を装った声をあげた。
「わーやりてー。まじで。やばい。押し倒しそぉー」
涙で濡れたまつげの下で、その瞳が訝しげに相良を見上げたかと思うと、次の瞬間、相良の股間へ手を当ててきた。
「おいっ!」
「不能なんじゃないの?……あ、勃ってきた?」
「揉むからだ!!」
奏はキラキラと子供のような笑顔でガッツポーズを作ると、さっさと相良から体を離して立ち上がる。
「やだ、相良さんったらフケツ!! 私のこと、そんな風な目で見てたのね!? いやらしい。サイテー」
作ったような女声でそういうと、高笑いして、シャワールームに消えた。
「……く…くっそーーーー!! サイテーなのはテメエだ!!」
枯れたジジイじゃあるまいし、中身がツレだとしても、いくら男の時代を知ってたとしても、現時点でそれなりに好みの見た目の女に股間弄られたら兆しもするわ!
ま。好みとか絶対言わないけどな。
憤懣やるかたない気持ちでビールをあけたところで、待ちわびた着信音。
「ごめんね。待った?」
耳元で甘く響く声。
耳から首筋、そして全身にかけて粟立つような心地よさ。
「待ったよ。そりゃ。紗月さんのこと思い浮かべて欲情するくらいに」
「……浮気してないでしょうね?」
あれは浮気ではない。
断じてない。
そう思いながら、それでも先ほどの奏との綱渡りのような会話を思い出して声が掠れた。
「してたら電話出ないよ。じゃあ今から行くから」
通話を終え立ち上がった相良だったが、思い立ったようにキーチェーンの中から、ワールドカップの記念キーホルダーのついた奏の部屋の鍵を外した。
「おーい、俺もう行くわな」
シャワールームに一声をかけてから部屋を出ると、ドアの鍵を閉め、その鍵をキールダーごと郵便受けに放り込んだ。
元々は奏と二人で住んでいた部屋。
相良の父親が亡くなったのを期に実家へ戻った相良だったが、奏にそのまま鍵を持っていろと言われ、ついつい返さずじまいになっていた。
だが、さすがにオトコができたという今、このままはまずい。そろそろキッチリと線引きをする時期ではあったのだ。
ほんの少しだけ感傷的な思いでドアに触れると、息を吐き、勢いをつけて歩き出した。
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