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【名前の呪い】
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何年たっても慣れないその名は、まだ母親のお腹の中にいたとき、どちらの性別が生まれてきてもいいように「奏」とつけられた。
男なら「そう」、女なら「かなで」。
そのとき、呪われたんじゃないかと思った。
そんなどっちつかずなことをするから、こんな中途半端な存在になってしまったんじゃないかと。
「酔っちゃった……」
ポトリと声をこぼした奏に、朗太はそれみたことかと視線をむけ嘆息する。
「やっぱピッチ早すぎたんじゃん」
「ん。キャパ越え。……ねえ、男って、やっぱ体の結びつきがないとダメな感じ?」
ガタッ!!
朗太が、氷が溶けて、その分が底に溜まっていたコップをテーブルに倒した。
「あーあ、もう。はい、おしぼり」
「いや、だって、すず……奏さんがいきなりさぁー」
情けない声をあげてテーブルを拭く朗太の顔が赤いのは、酒ばかりのせいではないんだろう。
「……何!? どうなの!? あんたは私にいったどうしろっていうの!?」
「……奏さん、絡み酒だよね」
片頬で苦笑する朗太の目が優しい。
「だって……」
一度言葉を切った奏を、朗太は首を傾げてその先を促すような笑顔を見せた。
「……だって、普段からめる人、ほとんどいないもん」
「……」
朗太が片手で顔を覆った。
手からはみ出た唇のはしが、かすかにニヤけている。
「ほんとに、ね。奏さんって、たまにサラッと反則技しかけてくるよね。……そりゃ俺だって男だから、好きな相手とはそういうことしたいってのは当然あるよ。でも別にそれだけってわけじゃないっていうか。オレは女性の意思を尊重します!」
「一生嫌だっていったら?」
「……それは……嫌かも」
自分には性欲というものがない。だから行為は苦痛以外のなにものでもなかった。
それなのに10代の頃はすっかり自暴自棄になって、適当な関係を持ったのも一人や二人というわけではない。
後付けされた膣壁の固定も兼ねて、心の中で「あんた今男抱いてんだぞ、ざまあ」などと思いながら、馬鹿馬鹿しくも感じている演技までしてみせて。
「でもオレは奏さんの意思を尊重する! あ、それはエッチするしないの話だからね。やっぱ各務に行くとか、なしだから」
「……ん。わかった。あんたが私の意思を尊重してくれるなら、私もできる範囲であんたの意思を尊重する」
「及第点が優しいこと祈っときます」
朗太はまるでぬるま湯みたいだ。
人を体の奥から温めて穏やかにさせる。
酔っているせいもあるけれど、せめて視線を合わせてくれなくなるまでどっぷりと、このぬくもりに浸っていたいと思わせた。
男なら「そう」、女なら「かなで」。
そのとき、呪われたんじゃないかと思った。
そんなどっちつかずなことをするから、こんな中途半端な存在になってしまったんじゃないかと。
「酔っちゃった……」
ポトリと声をこぼした奏に、朗太はそれみたことかと視線をむけ嘆息する。
「やっぱピッチ早すぎたんじゃん」
「ん。キャパ越え。……ねえ、男って、やっぱ体の結びつきがないとダメな感じ?」
ガタッ!!
朗太が、氷が溶けて、その分が底に溜まっていたコップをテーブルに倒した。
「あーあ、もう。はい、おしぼり」
「いや、だって、すず……奏さんがいきなりさぁー」
情けない声をあげてテーブルを拭く朗太の顔が赤いのは、酒ばかりのせいではないんだろう。
「……何!? どうなの!? あんたは私にいったどうしろっていうの!?」
「……奏さん、絡み酒だよね」
片頬で苦笑する朗太の目が優しい。
「だって……」
一度言葉を切った奏を、朗太は首を傾げてその先を促すような笑顔を見せた。
「……だって、普段からめる人、ほとんどいないもん」
「……」
朗太が片手で顔を覆った。
手からはみ出た唇のはしが、かすかにニヤけている。
「ほんとに、ね。奏さんって、たまにサラッと反則技しかけてくるよね。……そりゃ俺だって男だから、好きな相手とはそういうことしたいってのは当然あるよ。でも別にそれだけってわけじゃないっていうか。オレは女性の意思を尊重します!」
「一生嫌だっていったら?」
「……それは……嫌かも」
自分には性欲というものがない。だから行為は苦痛以外のなにものでもなかった。
それなのに10代の頃はすっかり自暴自棄になって、適当な関係を持ったのも一人や二人というわけではない。
後付けされた膣壁の固定も兼ねて、心の中で「あんた今男抱いてんだぞ、ざまあ」などと思いながら、馬鹿馬鹿しくも感じている演技までしてみせて。
「でもオレは奏さんの意思を尊重する! あ、それはエッチするしないの話だからね。やっぱ各務に行くとか、なしだから」
「……ん。わかった。あんたが私の意思を尊重してくれるなら、私もできる範囲であんたの意思を尊重する」
「及第点が優しいこと祈っときます」
朗太はまるでぬるま湯みたいだ。
人を体の奥から温めて穏やかにさせる。
酔っているせいもあるけれど、せめて視線を合わせてくれなくなるまでどっぷりと、このぬくもりに浸っていたいと思わせた。
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