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僕とあの子
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ーー明日、地球が滅びるとしたら、君ならどうする?
夕焼けを背に、彼女はそう口にする。
僕は何も答えなかった、それはあり得ない事で、例え本当に滅びるとしても僕には何も出来ないからだ。
すると、彼女は不満げに頬を膨らませた。
「この世にあり得ないなんてあり得ないんだよ」
その声音は、妙に重苦しくて胸が詰まりそうになった。
「君が私を見つけたように、この世には不思議が溢れてる。絶対なんてこの世にはないし、完全だってこの世には存在しないんだよ」
僕は彼女から距離を取るように一歩、また一歩と後ろに下がる。
しかし、彼女はゆっくりと僕に迫ってくる。
「ちゃんと想像して? ちゃんと考えて? 私は君に何もしてあげられない。君も私に何も出来ない、交わせるのは言葉だけ。だから聞かせて?」
ーー明日、地球が滅びるとしたら、君ならどうする?
その言葉で、僕は飛び上がるように夢から覚めるのだった。
心臓が痛いと感じるほど僕の鼓動は早くなっていた。
寝巻きが身体に張り付くほど、寝汗をびっしり掻いていてとても気持ち悪かった。
「今更、なんであの子の夢なんか見たんだろう」
そう口にしたけど、すぐにその理由が思い当たる。
「ああそっか、今日か」
僕は納得するとベットからおり、シャワールームへと足を運ぶ。
しかし不意にそれが現実なのか気になり、テレビを点けてみる。
「やっぱり、現実なんだ」
視界に入るテレビには何も映らず、砂嵐だけが、ザーザー、という不快な音を立てていた。
どうやら、世界が今日滅びるのは本当のようだった。
*
世界の終わりが公表されてからと言うもの、僕の住む街の景色はすっかりと変わり果てていた。
それはまるで世紀末を彷彿とさせる街の外観が世界の終わりを決定付けているようにも感じられた。
電車はとうに止まっていて、バスも今はホームレスの巣窟となっている。
街には暴漢や変質者が蔓延っているが、その身勝手な行動を咎める機関もすでに崩壊していた。
人の死体やレイプを行う人間を避けながら、僕は自分の通う高校へと足を向ける。
「こんな状況でも学校に通おうとする僕はやっぱり変なのかな?」
言わずとも分かるけど、変だという自覚はあった。
しかし、あの子の質問、明日もし世界が滅びるとしたら? その質問には未だに答える事は出来そうに無かった。
*
学校に到着するとそこにはもう誰も居なかった。
硝子が割られ、好き放題荒らされた学校はまるで廃墟のようだ。
落書き、備品の破壊、咎める者が居なくなればこうなる事は予想出来たが、ここまで荒らされると流石に掃除をする気も失せてしまう。
持ってきた中履きに履き替え、自分の教室の、自分の席に座ると、僕は腕時計で時間を確認した。
「遅刻ギリギリか、危ない危ない」
遅刻をしなかった事に安堵し、割れた窓から吹き付ける風に少しだけ身を震わせる。
風が少し冷たくなって来たから明日はもう一枚服を着て来ようか、そんな事を考えて、すぐに気づく。
「そういえば、もう明日からの事を考える必要が無いのか」
皆は自分のやりたいように振舞って、自分の思うように生活を送ってる。
でもこうやって学校に通うのが僕のやりたい事なのかと聞かれるとそれはきっと違う。これはただの蛇足で、僕自身が望む物とは少し違う。
じゃあ僕の望みって一体なんだろう?
こんな差し迫った状況に置かれても、僕はイマイチ自分の願いや望みという物が出てこない。
死ぬ前に何がしたいのか? 何をすれば悔いが残らないのか?
いくら自問自答しても答えは出ないし、いい加減に出ないのかも知れないとも思い始めている。
それでも僕が自分の願いや望みについて考えるのは、きっと彼女との約束のせいだろう。
『ちゃんと想像して、ちゃんと考えて、君の未来を聞かせて欲しいの、私が消えても……君の、答えを見つけて?』
随分と勝手なお願いだったけど、あんまりにも哀しそうな顔をするものだからつい約束してしまったんだ。
「はぁ、何で僕はあんな約束しちゃったんだろう? そんな義理なんか無かったはずなのに」
今更だ。
本当に今更だけど僕はそんな疑問を抱く。
もしかしたら、僕の願いや望みの原点はそこにあるのかも知れない。
なら考えてみよう。
世界が滅びるまで、時間はまだある、その時が来るまで僕は彼女との約束を果たす事に費やそう。
それが消えてしまった、彼女への手向けになればいいな、と僕は切に…………願うのだ。
*
「結局、僕は何をしたいのかな?」
夕暮れ時、僕は学校の屋上に来ていた。
「そういえば僕が誰かとの約束事で悩むとか始めてだな」
昔から言われるがまま、流されるままに生きて来たけど、誰かのお願いに頭を悩ませる事なんか一回も無かった。
客観的に見ると、僕は自分の意思があまりないように感じられる……と思う。
だからあの子との約束を果たそうとしている自分がどうにもむず痒いと感じる事がある。
「それに、なんであの子は僕にあんな事を言ったんだろう? 偶々見つけただけの僕に」
そう、約束のせいで疑問に思った事は無かったけど、どうしてあの子は僕にあんなお願いをしたんだろう?
別に僕がどんな生き方をして、どんな死に方をしようと関係ない筈なのに……。
僕は大きくため息をついて小さく呟く。
「また疑問が増えた、厄介な宿題を残してくれたよね、本当に」
陽が傾き、後数分で世界が終わる。
ギリギリだったけど、僕はやっとあの子の質問に答えられる。
「未来を聞かせて、その約束は果たせなかったけど、明日もし世界が滅びるとしたら君はどうするか? その質問にだけは答えられそうだ」
ジリジリと陽が沈み、世界の火が落ちる数秒前、
僕は静かに目を閉じて、初めて抱いた夢を願いを口にする、
「君に、会いたいよ」
end
夕焼けを背に、彼女はそう口にする。
僕は何も答えなかった、それはあり得ない事で、例え本当に滅びるとしても僕には何も出来ないからだ。
すると、彼女は不満げに頬を膨らませた。
「この世にあり得ないなんてあり得ないんだよ」
その声音は、妙に重苦しくて胸が詰まりそうになった。
「君が私を見つけたように、この世には不思議が溢れてる。絶対なんてこの世にはないし、完全だってこの世には存在しないんだよ」
僕は彼女から距離を取るように一歩、また一歩と後ろに下がる。
しかし、彼女はゆっくりと僕に迫ってくる。
「ちゃんと想像して? ちゃんと考えて? 私は君に何もしてあげられない。君も私に何も出来ない、交わせるのは言葉だけ。だから聞かせて?」
ーー明日、地球が滅びるとしたら、君ならどうする?
その言葉で、僕は飛び上がるように夢から覚めるのだった。
心臓が痛いと感じるほど僕の鼓動は早くなっていた。
寝巻きが身体に張り付くほど、寝汗をびっしり掻いていてとても気持ち悪かった。
「今更、なんであの子の夢なんか見たんだろう」
そう口にしたけど、すぐにその理由が思い当たる。
「ああそっか、今日か」
僕は納得するとベットからおり、シャワールームへと足を運ぶ。
しかし不意にそれが現実なのか気になり、テレビを点けてみる。
「やっぱり、現実なんだ」
視界に入るテレビには何も映らず、砂嵐だけが、ザーザー、という不快な音を立てていた。
どうやら、世界が今日滅びるのは本当のようだった。
*
世界の終わりが公表されてからと言うもの、僕の住む街の景色はすっかりと変わり果てていた。
それはまるで世紀末を彷彿とさせる街の外観が世界の終わりを決定付けているようにも感じられた。
電車はとうに止まっていて、バスも今はホームレスの巣窟となっている。
街には暴漢や変質者が蔓延っているが、その身勝手な行動を咎める機関もすでに崩壊していた。
人の死体やレイプを行う人間を避けながら、僕は自分の通う高校へと足を向ける。
「こんな状況でも学校に通おうとする僕はやっぱり変なのかな?」
言わずとも分かるけど、変だという自覚はあった。
しかし、あの子の質問、明日もし世界が滅びるとしたら? その質問には未だに答える事は出来そうに無かった。
*
学校に到着するとそこにはもう誰も居なかった。
硝子が割られ、好き放題荒らされた学校はまるで廃墟のようだ。
落書き、備品の破壊、咎める者が居なくなればこうなる事は予想出来たが、ここまで荒らされると流石に掃除をする気も失せてしまう。
持ってきた中履きに履き替え、自分の教室の、自分の席に座ると、僕は腕時計で時間を確認した。
「遅刻ギリギリか、危ない危ない」
遅刻をしなかった事に安堵し、割れた窓から吹き付ける風に少しだけ身を震わせる。
風が少し冷たくなって来たから明日はもう一枚服を着て来ようか、そんな事を考えて、すぐに気づく。
「そういえば、もう明日からの事を考える必要が無いのか」
皆は自分のやりたいように振舞って、自分の思うように生活を送ってる。
でもこうやって学校に通うのが僕のやりたい事なのかと聞かれるとそれはきっと違う。これはただの蛇足で、僕自身が望む物とは少し違う。
じゃあ僕の望みって一体なんだろう?
こんな差し迫った状況に置かれても、僕はイマイチ自分の願いや望みという物が出てこない。
死ぬ前に何がしたいのか? 何をすれば悔いが残らないのか?
いくら自問自答しても答えは出ないし、いい加減に出ないのかも知れないとも思い始めている。
それでも僕が自分の願いや望みについて考えるのは、きっと彼女との約束のせいだろう。
『ちゃんと想像して、ちゃんと考えて、君の未来を聞かせて欲しいの、私が消えても……君の、答えを見つけて?』
随分と勝手なお願いだったけど、あんまりにも哀しそうな顔をするものだからつい約束してしまったんだ。
「はぁ、何で僕はあんな約束しちゃったんだろう? そんな義理なんか無かったはずなのに」
今更だ。
本当に今更だけど僕はそんな疑問を抱く。
もしかしたら、僕の願いや望みの原点はそこにあるのかも知れない。
なら考えてみよう。
世界が滅びるまで、時間はまだある、その時が来るまで僕は彼女との約束を果たす事に費やそう。
それが消えてしまった、彼女への手向けになればいいな、と僕は切に…………願うのだ。
*
「結局、僕は何をしたいのかな?」
夕暮れ時、僕は学校の屋上に来ていた。
「そういえば僕が誰かとの約束事で悩むとか始めてだな」
昔から言われるがまま、流されるままに生きて来たけど、誰かのお願いに頭を悩ませる事なんか一回も無かった。
客観的に見ると、僕は自分の意思があまりないように感じられる……と思う。
だからあの子との約束を果たそうとしている自分がどうにもむず痒いと感じる事がある。
「それに、なんであの子は僕にあんな事を言ったんだろう? 偶々見つけただけの僕に」
そう、約束のせいで疑問に思った事は無かったけど、どうしてあの子は僕にあんなお願いをしたんだろう?
別に僕がどんな生き方をして、どんな死に方をしようと関係ない筈なのに……。
僕は大きくため息をついて小さく呟く。
「また疑問が増えた、厄介な宿題を残してくれたよね、本当に」
陽が傾き、後数分で世界が終わる。
ギリギリだったけど、僕はやっとあの子の質問に答えられる。
「未来を聞かせて、その約束は果たせなかったけど、明日もし世界が滅びるとしたら君はどうするか? その質問にだけは答えられそうだ」
ジリジリと陽が沈み、世界の火が落ちる数秒前、
僕は静かに目を閉じて、初めて抱いた夢を願いを口にする、
「君に、会いたいよ」
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