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第163話 戦いの後の光景
しおりを挟む「ようやく追いつきました、マスター」
「南雲、それに風魔か」
「はい、審判の人たちは無事避難施設に運びましたよ。それでその人は?」
「今回の首謀者だ。今は気を失っている。できれば二人でこのホミルドという医師のいる病院までこのザイオを運んできてほしい。ハーネイトの部下だと言えばすぐ話は通る」
ハーネイトは二人にそう指示するも、南雲はマスターである彼の治療能力で今すぐザイオを治せるのではないかと質問する。
「マスターの力で完全治療できるはずでは……」
「相手が魔法使いでない以上、こちらにも限界はある。それに精神的にも来ているだろう。休ませて、改めて尋問だ。3人の武器商人と配下の特殊改造兵……速やかに見つけ出さなければならない」
相手が同業者でない以上治療法に制約がかかるのと、精神的なダメージは魔法で治すにはあまりに時間がかかるためのと消耗しているため一撃で治療を完了させられる自信がないいう判断をハーネイトは2人に伝え、そしてこれから討伐すべき存在について話も切り出した。
それにどこか納得していない2人だったが、マスターである彼の命令をしっかりと守り、ザイオを指定された場所まで運ぶためその場を離れたのであった。
「だけじゃねえだろ、なんでザイオは最後にヴィダールとか言いやがったんだ?」
その様子を伯爵が見ており、すぐに駆け付け話に入り込む。既にオンビリルは完全に、彼のご飯と化しておりなかなかいいエネルギーだと上機嫌であった。
「伯爵……最大の謎、だな。もしかするとあのナノマシンの男、ヴラディミールやミロク爺さんに聞けばわかるかもしれない」
「せやな。もしかすると、女神ってのが関係しているのかもしれへんしな」
気を失う前にザイオが放った一言がどうしても気になる。そう、なぜヴィダールという言葉が出たのか。この星にはそういう伝承などほとんどなく、知る人ぞ知るといった状況下で何故そう言葉が出たのかが気が気でたまらなかった。
もしかするとすでにオーダインたちが言っていた最悪の事態が動き出しているのではないかとも思ったが今はそれどころではない。そんな中ヴァルターとメッサーが声をかけてきた。
「ハーネイト、ザイオは結局どうなった」
「どうにか最悪の事態は防げた。自爆されてはもうどうしようもないのでね。でもそのリスクを背負ってでも、あの研究者たちは敵を取ろうとしていたのだ」
メッサーはその言葉を聞いて、確かにそうだなと思いながらなぜこの星の研究者が少なからずあのDGの支援を受けるためそちらに流れたのかが気がかりであった。
「敵だとぉ?」
「まだ行方不明になっている研究者は全員、魔獣に親や恋人などを殺されている。復讐のために力を求めた結果がいまの事態だ」
一方でヴァルターは、なぜ研究者たちがそこまで危険な橋を渡ろうとするのかが理解できなかったが、ハーネイトの説明を聞くと腑に落ちしばし無言で壊れた小屋の方を見ていた。
「気持ちは、よくわかるが何もそこまでせずともなあ」
「八紋堀、彼らも悔しいのだ。守れなかったことを後悔しているのだ。それは私も含め、戦士たちの多くはそういうものであって、だからこそ肉体も精神も鍛え、後悔の無いように戦うのだよ」
八紋堀もまた、研究者たちの行動を良く思っていなかった。だったらかたき討ちは自分やハーネイト達戦士がとると。けれど彼らはそれでは納得いかなかったのである。ボルナレロも魔獣の被害を抑えるため苦心し、研究結果を形にした。ハイディーンはハーネイトの性格を知っており、DGを罠にはめ彼が戦いやすいように禁断のアイテムを作り出した。それも本来は魔獣に対抗するため人が力をつける代物であった。
「とにかく、シティへ帰ろうぜ」
「ああ、被害状況の確認と修理をしないといけないしな」
「働きすぎは体に毒だぜ?」
「そうよ、昔からああなんだからもう。私がいないといつも無茶して……」
いつの間にかリリーもこちらに来ており、彼女のきつい一言に辟易しつつ言葉を返す。
「リリー……私だって休みたい。多くの人が暮らしている暮らしを体験してみたい。だけどそれを守れる人材は少ない、わかっている以上何もしないわけにはいかないじゃないか」
「でも、無茶して倒れて悲しむのはみんなよ。もっと意識してよね」
本当はハーネイトも、家でゴロゴロしておいしいケーキを食べながらだらけていたい。もっと普通に生活を営んでいる人たちの暮らしを知りたい。でもそれを守れるのは数少ない戦士たちだけ。それを分かっている以上、自身の望む生活は期待できないと半ば諦めていた。
リリーはそれでも、彼の性格について危ういところを指摘しながら、体にもっと気を使ってほしいという。
「ああ、そうだな。じゃあみんな戻るぞ、それとニャルゴ!」
ハーネイトは素早くニャルゴを呼ぶため召喚用ペン型投げナイフを手にし虚空を切る。すると一瞬のうちにニャルゴが現れた。
「よう、ハーネイトや。終わったのか?」
「ああ、そういうことで背中に乗せてくれ」
「フン、今度は儂にも戦わせてくれ」
近いうちに絶対出番が来ると約束しハーネイトは、ヴァルターとメッサーをニャルゴに乗せて街の方へ歩き出した。
「さあ、帰ろうぜ。エヴィラの奴も寂しがっているだろうしな」
「もう伯爵、私の方も見てよね」
「わかっているさ、リリー。にしても、妙な仲間が増えたな」
10数分後、街内に入ると所々でゾンビや魔獣の死体が転がっており、あとで片づけなければならないと思いながら仲間が無事か、スタジアムに向かうハーネイト達。スタジアム周辺のペデストリアンデッキを見ると、ハーネイトたちに向けてシャムロックやリシェルたちがこちらにいるぞと腕を振りサインを送る。それを見てすぐに駆け寄ると、ハーネイトは全員無事か確かめた。
「シャムロック、サイン!無事か?」
「主殿、問題ありませぬぞ。所詮屍人、光の拳には耐えきれませぬ」
「まさか、気閃(グランシエロ)を街中で……?」
「それを纏わせ、光属性で殴りつけただけですぞ、安心なされい」
シャムロックはガハハハハハと高らかに笑いながら、マッスルポーズを決める。相変わらずだが、これで来ている衣装が女性用メイド服でなければとハーネイトは思っていた。
「にしてもだ、いつの間にこのような恐ろしい仲間を集めきったものだ。狙撃をしてくるやつもまるで機械か何かのようだ。空中にいた敵もエレクトリールの物と思われる電撃で溶け落ちて行ってたぞ」
「これが、私の力なのですよ、サイン」
「いつまでその幸運が続くのやら、だな。とにかく町への被害は最小限度に抑えきれた」
皮肉な口を叩くが、以前よりも笑顔が多くなったハーネイトの姿を見てサインは、仲間がこうして彼を支えてくれていることに内心ではとても感謝していたのであった。サインは少し素直でない一面があるため口が悪くなる時もあるが、本心ではだれよりもハーネイトの在り方を気遣い心配しているのである。
「ごめんねハーネイト、スタジアムの方は……」
「大丈夫だリリエット、あれを作ったのは私なのでね、直し方くらい全部頭に入っている。創金術を使えばすぐに直る」
リリエットたちが少しうなだれて、スタジアムに被害が結構出てしまったことを報告するも、ハーネイトは終始彼女らのことをよくやってくれたとほめ、きついことは一言も言わなかった。この程度の損害が出ても仕方ないし、この程度で済んだなら安い、何よりも市民への被害は0なのだから、それが一番だと彼は思っていた。
「そ、そっか、本当にハーネイトは多彩なのね」
リリエットはハーネイトの送金術がいかに神がかり的で、万能なのか恐れを抱きつつも、自分たちの戦いを評価してくれてねぎらってくれた彼が悪い人では決してなく、どんな存在であろうとともにいようと思いありがとうとぼそっとつぶやいた。
「俺、ゾンビ、たくさん倒した。でも、ゾニーはいない。あいつ、どこだ」
「よくやったユミロ、流石だな。ってそのゾニーとは?」
ユミロもサングラス越しに嬉しそうな眼と表情をしながら、敵をたくさん倒したとアピールするも、彼は誰かを探していたらしく時折周りを警戒していた。
「俺の友達、メルウク人以外の、とてもいいやつ。そして強い。どこにいるのだ」
「近いうちに会えるかもしれないぞ?DGの反体制派っていうのがいるらしいし、そこにいたりしてな」
もしかするとあのナノマシン爺こと、ヴラディミールの仲間にそのゾニーという男がいるのでではないかと思ったことを口に出すと、ユミロは更に嬉しそうにして、ハーネイトを抱きしめて筋肉豊かで座り心地良い肩に乗せる。
「てなわけで、俺たちは全員ぴんぴんしているぜ大将。全員スクラップにしてやった」
「ボガーは妨害と足止めばかりだろ、俺は雨水の加護がついている銃で昇天させたぜ」
そこにボガーとヴァンが言い争いながらハーネイトに向かって報告する。各員特異な戦術をうまく役割分担してやれたなといい感触を得つつ、この先さらに同連携を取っていこうかハーネイトは考えていた。
「まだ戦い足りねえなあ、おいハーネイト、今からやるぞ!」
「やめなさいブラッド、今は事後処理と今後の対応について話をしなければ。後で私が相手になりますので今は」
「けっ、仕方ねえなあシノ」
ボガーとヴァンの言い争いの向こうでは、まだやる気満々のブラッドをシノブレードが諫め、ヨハンとシャックスは満天の星空を眺めていた。
「結局、俺たちも先生には敵わねえな」
「エンレイジソニック、相変わらず恐ろしい威力だ」
そんな中スタジアムの入り口からリヴァイルとレイジオも現れ、師であるハーネイトに礼をしながら、ボロボロのエンぺリル達11人を連れてきたのであった。
「無事だったか」
「ああ、そうっすよ。でもエンぺリル達はカードの影響でボロボロっすけど」
「仕方ない話だ。それと、ありがとう2人とも。って、あれは!」
「はぁーーい、ハーネイトちゃん」
「キースさん!もう傷の方は?」
街の大通りの方から声が聞こえ、全員が向くとそこには活動を停止したゾンビや魔獣を抱きかかえたキースがこちらに向かってきていた。
「バッチしよぉハーネイトちゃん、貴方とホミルド先生のおかげで、もうビンビンよぉ」
「そ、そうっすか、ってまさかあなたも戦っていたのですか?」
ハーネイトに対しお礼を言いながら、自分も街の危機を救うため少し無理を押して戦ったことを告げた。
「街の危機に、私が出なくてどうするのよ」
「だからって、無茶ししすぎっすよ大先輩」
「ああ、しかしその体でよくゾンビたちを」
「あの後、ヴァルハという男が来てねえ、あるアイテムを渡してくれたのよん」
そういうとキースはポケットから薄い一枚の被膜のようなものを出してハーネイトたちに見せつけた。これは張るだけで身体の再生能力を物理的に引き出し傷を素早く治す治療アイテムであった。ヴァルハはハーネイトの仲間が自身らのせいで傷ついたことについて申し訳ないと思い、ホミルドから話を聞いてキースにこれを送ったのであった。
「それのおかげで、傷が早く治ったのか、あとで礼を言わなければな。それとキースさんもだけどみんな魔法習った方がいいね。でないと私も安心して治療魔法かけられない。まあ、緑の龍の力もあるけど、あれも制約あるみたいだし」
もっとも全員が魔法の素養があるならば、ハーネイトはもっと素早く、確実に傷や病を除く周りの人たちのダメージを修復できる。彼はそう思い独り言を口に出した。
「師匠、それにみんな!お疲れ様であります! 」
「無事ですか?皆さん。それにヴァルターとメッサーも」
少し離れたところにいたリシェルとエレクトリールも彼の傍に近寄り声をかけた。
「大丈夫だよリシェル、エレクトリール。問題はひとまず解決した。君たちもお疲れ様、後ろから的確に支援してくれるから安心して戦えるよ」
「そういっていただければ嬉しい限りですが、街の被害が……」
「雷を撃ちすぎてしまって……ごめんなさいハーネイトさん!」
「仕方ないなあ、今日は疲れた。明日の朝全てを修理しよう。創金術でね」
2人にそういう予定だと告げた後、ハーネイトは事後報告のためにヴァルハに電話をかけたのであった。
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