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第1話 魔法探偵&解決屋 ハーネイト
しおりを挟む「その世界には、あらゆる問題、難事件を魔法と知略、そして武術を持って解決する魔法探偵が存在するという。その者はこの先、全世界の運命を決める戦いに巻き込まれる定めを背負っていた」
地球とは同じ時間を共有しつつも異なる世界「フォーミッド界」というものがある。
アクシミデロ星、それはその世界の中に存在する一つの地球型惑星であった。この星を舞台にある人間、そして英雄たちの、人類存亡をかけた長い戦いが始まる!
オルティネブ東大陸、アクシミデロの中でも北大陸に続いて巨大な面積を誇るその大陸の最東端の街、リンドブルグ。
例えるならば、この中規模の街は地中海の沿岸部に存在するような建物が多く立ち並び、漁業と商業が他の地域よりも盛んなところであり、人口は2500人弱でリアス式海岸が周辺に多く存在し、街自体は沿岸部にある小高い丘に集まっている。
その街に、とある男が事務所を構えていた。全長3kmにも及ぶ砂浜がすぐ近くにある、高さ30メートルはあろうかという絶壁の崖の上に作られた3階建ての白い建物。玄関の上に掲げられている大きな看板には美しい文字でこう書かれていた。
「魔法探偵社&解決屋 ハーネイト事務所」と。そして事務所の窓をよく見れば、事務所の2階に誰かがいる。
「やっと、休めるか」
リビングにある紺色のソファーに腰を掛けて、そのまま背もたれにぐったり寄りかかる若い男。彼こそがこの事務所の主にして世界各地で活動する魔法探偵、そして解決屋であるハーネイトと言う。
本名、ハーネイト・ルシルクルフ・レ-ヴァテイン。 かつてこの星を侵略しに来た宇宙人たちと勇敢に戦った、黒羽の魔術師「ジルバッド・ルシルクルフ・ヴェインバレル」という魔法使いの息子であり弟子でもある。
容姿端麗、濃緑の手入れされた艶やかで少しはねている髪。後ろは長く伸ばして1つに束ね、髪の色と同じリボンで先端部分をまとめている。どこか冷ややかな、しかし穏やかな目付き、紺色のコートの下には日々の仕事で鍛え抜かれた肉体がシャツ越しで見て取れる。
品行方正で明朗快活、いつも会う人ににこやかに接するからか周りからは一般的に好青年のイメージで通っており様々な場所で老若男女に好かれる彼は、この街はおろかこの星に住む人の大多数が知っているほどの有名人である。
「こうして事務所で落ち着けるのも、何日ぶりだっけ、休んだらまた捜索しなければ……」
彼は座った後、少し間をおいてぐたっと横たわり、目を半分開けながら静かに眠りに入ろうとしていた。
この男がどのような人物か。端的に言えば、魔法探偵という仕事と、解決屋という概念を作り上げた魔剣士という存在である。
幼少期に学んだ魔法の力を人のためにいかし、トラブルや難事件の解決に魔法を行使する魔法探偵として彼は世界を股にかけて大活躍していた。
ある時は街を覆うほど巨大な転移生物と戦い、魔法の力を悪用する同業者を捕らえ、時には戦争に介入し、双方の軍を血を流させずに退かせた。その前には、血を使い地を統べようとするおぞましい脅威とも戦い、どうにか勝利を収めてきたと言う。
そして今では国同士の取り決めに関して、交渉の仲立ちや仲裁に携わる発言力を持つようになったという唯一の存在である。
また彼の活動の影響を受けてか、魔法力の有無に関わらず、彼と同様のことを始めるものも台頭し始め、彼はこの一連の仕事を解決屋と称して本格的に仕事を始めることにした。事務所を建てたのもそれが理由である。
そんな彼だが、最近は急増する魔物による事件への対応に追われたり、魔獣退治の講師として各地を回ったりと多忙を極めていた。
彼には幾つもの特殊能力が体に宿っており、それを駆使して異世界から来訪してくる魔物や魔獣、時には悪事を働く魔法使いを相手に戦いを繰り広げ取り締まっている。それが彼のもう1つの顔であった。
しかし、その異能の力を彼自身嫌っているという。その力さえなければひどく辛い、理不尽な目には合わなかったし周りの人と同じような人生を送れただろうとそう思い、けれどもそれがなければ、多くの命が消えていた事も事実であることを自覚していた彼は常に葛藤している。
「解きがいのある事件でもいっそ起きないかな、なんてことは考えてはいけない。事件など、ないほうがいいのだから。何もないのが、一番なんだ。私の出番がないのが、一番の平和なのだからね」
そう心の中で考えながらハーネイトは一時の休みを全身で感じ取っていた。
自身は戦うよりも魔法で多くの人を助けたい。それは初めて魔法を習い扱えるようになった幼少期からずっとそうでありその思いは消してぶれることはなかった。
「魔法は人のために、世のためにあれ」
魔法の師匠であるジルバッドの教えを彼はずっと守って生きてきた。その教えは師匠の亡き後この男が引き継ぎ、多くの魔法使いが彼の手により生まれてきたという。
「折角の休暇、少ないけれどどこか遊びに行ってみたいものだな。メイドたちも休暇からそろそろ戻ってくるし、あとは……」
この前購入した、体のサイズに少し釣り合わないソファーで体を全力で伸ばしてぐったりと寝たまま、まだ休まらない脳内が考えを構築し眠りを妨げる。
この事務所には彼のほかに数年前からメイドと執事たちを雇っているというがその者たちは現在休暇を取っており不在であり現在執事を1人、メイドを2人の計3人雇っていると言う。
最初に事務所を開いたときはしばらく1人で事務所を管理していた手前、彼らが事務所兼家にいなくてもさほど業務に支障はない。もとより何でもそつなく、いやそれ以上こなすことができるからである。
しかしそんな彼には1つの悩みというか、やりたいことがあった。
「時間があるうちに、海で遊びたいな。わざわざ海の見えるいい場所に事務所を立てたのだが……」
彼は海を見ることが好きで、通常なら移動で不便な辺境の街に家と事務所を立てたのも、すべては海を見たいがためであった。
海を眺めていると、昔懐かしいような感覚を覚える。けれども今は休息をとらなければならない。まともに寝ることができるのは何ヶ月ぶりだろうかと彼は薄れゆく意識の中で感じていた。
最近も魔獣絡みの事件が絶えず、しかもはるか遠い西大陸の方でも不穏な動きも見られ、彼はいつも以上に神経を尖らせていた。
しかし東大陸での魔法犯罪の取り締まり及び異世界侵略生物の討伐についての仕事が思ったよりも片付かず、支援組織と連携してどうにか問題を解決したのである。
そのため彼は過労で、普通の人間ならばとうの昔に死んでいるほどに憔悴しきっていた。
その影響からか、外界からの来訪者がたとえ今来たとしても、彼はそれを魔法による探知がまともにできず動けない状態であった。
そうしてようやく彼は落ち着いて深い眠りに入ろうとしていた。それも束の間、事務所に来客者が訪れようとしていた。
その出会いが、長年探していた己の存在意義と役割、能力を知り、のちに全ての世界と未来を守るため、過去に遭遇した悪夢と、それを生み出したある女神との長い戦いの始まりになるきっかけになるとはこの時、彼は全く予想していなかったのであった。
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