「神造生体兵器 ハーネイト」 二人の英雄王伝説

トッキー

文字の大きさ
3 / 204

第1話 魔法探偵&解決屋 ハーネイト

しおりを挟む
 
 
「その世界には、あらゆる問題、難事件を魔法と知略、そして武術を持って解決する魔法探偵が存在するという。その者はこの先、全世界の運命を決める戦いに巻き込まれる定めを背負っていた」


 地球とは同じ時間を共有しつつも異なる世界「フォーミッド界」というものがある。
 
 アクシミデロ星、それはその世界の中に存在する一つの地球型惑星であった。この星を舞台にある人間、そして英雄たちの、人類存亡をかけた長い戦いが始まる!



 オルティネブ東大陸、アクシミデロの中でも北大陸に続いて巨大な面積を誇るその大陸の最東端の街、リンドブルグ。

 例えるならば、この中規模の街は地中海の沿岸部に存在するような建物が多く立ち並び、漁業と商業が他の地域よりも盛んなところであり、人口は2500人弱でリアス式海岸が周辺に多く存在し、街自体は沿岸部にある小高い丘に集まっている。

 その街に、とある男が事務所を構えていた。全長3kmにも及ぶ砂浜がすぐ近くにある、高さ30メートルはあろうかという絶壁の崖の上に作られた3階建ての白い建物。玄関の上に掲げられている大きな看板には美しい文字でこう書かれていた。

「魔法探偵社&解決屋 ハーネイト事務所」と。そして事務所の窓をよく見れば、事務所の2階に誰かがいる。

「やっと、休めるか」

 リビングにある紺色のソファーに腰を掛けて、そのまま背もたれにぐったり寄りかかる若い男。彼こそがこの事務所の主にして世界各地で活動する魔法探偵、そして解決屋であるハーネイトと言う。

 本名、ハーネイト・ルシルクルフ・レ-ヴァテイン。 かつてこの星を侵略しに来た宇宙人たちと勇敢に戦った、黒羽の魔術師「ジルバッド・ルシルクルフ・ヴェインバレル」という魔法使いの息子であり弟子でもある。

 容姿端麗、濃緑の手入れされた艶やかで少しはねている髪。後ろは長く伸ばして1つに束ね、髪の色と同じリボンで先端部分をまとめている。どこか冷ややかな、しかし穏やかな目付き、紺色のコートの下には日々の仕事で鍛え抜かれた肉体がシャツ越しで見て取れる。

 品行方正で明朗快活、いつも会う人ににこやかに接するからか周りからは一般的に好青年のイメージで通っており様々な場所で老若男女に好かれる彼は、この街はおろかこの星に住む人の大多数が知っているほどの有名人である。

「こうして事務所で落ち着けるのも、何日ぶりだっけ、休んだらまた捜索しなければ……」

 彼は座った後、少し間をおいてぐたっと横たわり、目を半分開けながら静かに眠りに入ろうとしていた。

 この男がどのような人物か。端的に言えば、魔法探偵という仕事と、解決屋という概念を作り上げた魔剣士という存在である。

  幼少期に学んだ魔法の力を人のためにいかし、トラブルや難事件の解決に魔法を行使する魔法探偵として彼は世界を股にかけて大活躍していた。

 ある時は街を覆うほど巨大な転移生物と戦い、魔法の力を悪用する同業者を捕らえ、時には戦争に介入し、双方の軍を血を流させずに退かせた。その前には、血を使い地を統べようとするおぞましい脅威とも戦い、どうにか勝利を収めてきたと言う。

 そして今では国同士の取り決めに関して、交渉の仲立ちや仲裁に携わる発言力を持つようになったという唯一の存在である。

 また彼の活動の影響を受けてか、魔法力の有無に関わらず、彼と同様のことを始めるものも台頭し始め、彼はこの一連の仕事を解決屋と称して本格的に仕事を始めることにした。事務所を建てたのもそれが理由である。

 そんな彼だが、最近は急増する魔物による事件への対応に追われたり、魔獣退治の講師として各地を回ったりと多忙を極めていた。

 彼には幾つもの特殊能力が体に宿っており、それを駆使して異世界から来訪してくる魔物や魔獣、時には悪事を働く魔法使いを相手に戦いを繰り広げ取り締まっている。それが彼のもう1つの顔であった。

 しかし、その異能の力を彼自身嫌っているという。その力さえなければひどく辛い、理不尽な目には合わなかったし周りの人と同じような人生を送れただろうとそう思い、けれどもそれがなければ、多くの命が消えていた事も事実であることを自覚していた彼は常に葛藤している。

「解きがいのある事件でもいっそ起きないかな、なんてことは考えてはいけない。事件など、ないほうがいいのだから。何もないのが、一番なんだ。私の出番がないのが、一番の平和なのだからね」

 そう心の中で考えながらハーネイトは一時の休みを全身で感じ取っていた。

 自身は戦うよりも魔法で多くの人を助けたい。それは初めて魔法を習い扱えるようになった幼少期からずっとそうでありその思いは消してぶれることはなかった。

「魔法は人のために、世のためにあれ」

 魔法の師匠であるジルバッドの教えを彼はずっと守って生きてきた。その教えは師匠の亡き後この男が引き継ぎ、多くの魔法使いが彼の手により生まれてきたという。

「折角の休暇、少ないけれどどこか遊びに行ってみたいものだな。メイドたちも休暇からそろそろ戻ってくるし、あとは……」

 この前購入した、体のサイズに少し釣り合わないソファーで体を全力で伸ばしてぐったりと寝たまま、まだ休まらない脳内が考えを構築し眠りを妨げる。

 この事務所には彼のほかに数年前からメイドと執事たちを雇っているというがその者たちは現在休暇を取っており不在であり現在執事を1人、メイドを2人の計3人雇っていると言う。

 最初に事務所を開いたときはしばらく1人で事務所を管理していた手前、彼らが事務所兼家にいなくてもさほど業務に支障はない。もとより何でもそつなく、いやそれ以上こなすことができるからである。

 しかしそんな彼には1つの悩みというか、やりたいことがあった。

「時間があるうちに、海で遊びたいな。わざわざ海の見えるいい場所に事務所を立てたのだが……」

 彼は海を見ることが好きで、通常なら移動で不便な辺境の街に家と事務所を立てたのも、すべては海を見たいがためであった。

 海を眺めていると、昔懐かしいような感覚を覚える。けれども今は休息をとらなければならない。まともに寝ることができるのは何ヶ月ぶりだろうかと彼は薄れゆく意識の中で感じていた。

 最近も魔獣絡みの事件が絶えず、しかもはるか遠い西大陸の方でも不穏な動きも見られ、彼はいつも以上に神経を尖らせていた。

 しかし東大陸での魔法犯罪の取り締まり及び異世界侵略生物の討伐についての仕事が思ったよりも片付かず、支援組織と連携してどうにか問題を解決したのである。

 そのため彼は過労で、普通の人間ならばとうの昔に死んでいるほどに憔悴しきっていた。

 その影響からか、外界からの来訪者がたとえ今来たとしても、彼はそれを魔法による探知がまともにできず動けない状態であった。

 そうしてようやく彼は落ち着いて深い眠りに入ろうとしていた。それも束の間、事務所に来客者が訪れようとしていた。

 その出会いが、長年探していた己の存在意義と役割、能力を知り、のちに全ての世界と未来を守るため、過去に遭遇した悪夢と、それを生み出したある女神との長い戦いの始まりになるきっかけになるとはこの時、彼は全く予想していなかったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...