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3:第一王子の発情期(1)
「そういえばジェイド」
家族水入らずでのお茶会もそろそろお開きというタイミングの時だった。不意にお母様が思い出したかのように僕を呼ぶ。その瞬間、何を言われるのかだいたい予想はついていた。
「体調に変わりはない?」
ほら、きた。この話。
「……はい、薬も欠かさず毎日飲んでます」
「うん、突然来たりするから十分用心してね」
心配をにじませたお母様の表情は他にも何か言いたげではあったものの、大丈夫と笑顔を送ればそれ以上の言葉は続かなかった。
正直この話題はフィアンセの申し出よりも苦手だ。
一度流れた微妙な雰囲気に誰も次の話題が見つからず不自然な沈黙が続く。
いっその事もう席を立ってしまおうか…?そう思い始めた、そんな時だった。
「クオーツ様、そろそろ……」
「もうそんな時間かい?」
空気を読んだのか、たまたま本当に時間が来ただけなのか、どちらにせよ丁度良かった。マリンの申し訳なさそうな進言に便乗し、逃げるかのように席を立つ。
突然立ち上がった僕に一気に視線が注がれたが、その勢いのまま適当な言い訳を並べ立て退室を申し出れば、特に止められることなく両親二人に見送られすんなり部屋を後にする。
この時なぜか一緒に出てきたニックスと並んで歩き出した。
お母様はいまだ僕の発情期が来ないことを心配している。
そんなお母様には申し訳ないが僕としては発情期が来ないことはまったく気にしていない。
ただ、長年の計画であるラルドとの既成事実のためにもみすみす機会を無駄にする事だけは絶対に避けなくてはと焦ってはいた。
これまでの経験上、悲しきかな、ただ迫るだけでは上手くかわされてしまう。相手にもされない。なら、アルファの理性を焼き切るくらい強烈なフェロモンをぶつけるしか、ラルドとどうにかなるなんて無理なのだろう…だから、オメガの発情期を最後の奥の手として絶対に使う、そう強く決めていた。
少しでも片鱗が見えたものならラルドを監禁してしばらくふたりきりで───…
「っ!?!?」
ひとりブツブツつぶやきながら歩き続けていると、不意にうなじに迫る人肌の感触にぶわっと寒気が走った。
「な、なに!?びっくりしたぁ…突然やめてよ……うなじはデリケートな場所だって、ニックスも知ってるでしょ?」
「ねぇ兄さん、妄想にふけってるところごめんなんだけど、一応伝えとくね」
「……なに」
「さっき抱き上げた時も感じたけど最近兄さんのにおい強いかも」
「え!?僕臭い!?」
王族として清潔さには人一倍気を付けているつもりだが、言われたショックに自分のにおいをかぎまくる。
……よくわからない。
「別に臭くないけど」
「じゃなくて。父様達はお互いのフェロモンしか感じないから気付かなかったみたいだね」
「?」
いまいちニックスが何を言いたいのかがわからない。
頭の上のはてなマークを正確に読み取ったニックスは、はぁと一つため息をつくと再び僕のうなじに顔を近づけすんと息を吸い込む。
「だから、兄さんのフェロモン。漏れ出てるよって」
「ちょ…やめてよニックス、 そこくすぐったいから。今すぐ離れて」
「はいはい」
しっしっと追いやり距離をとる。弟とはいえニックスはアルファ。不意打ちの接触は影響が出る。
今だゾワゾワするうなじをゴシゴシ擦りながら言われた言葉を反すうする。
「ふむ、でもそうか……フェロモンの過剰分泌…これはもしかしたらもしかして、決戦の日がいよいよもうすぐなのかも……ふふふ…ラルドの予定確認しとかないと……」
「……」
何か言いたそうな目で見つめてくるニックスの視線に気づかないほど僕は完全に浮き足立っていた。
発情期の恐ろしさを微塵も理解しないまま───
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