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3:第一王子の発情期(2)
逃げるように去ったお茶会から数時間後───
あっという間に夕食の時間がやって来た。
先程の気まずさはきれいさっぱりリセットされ、他愛もない会話を織り交ぜながら、時たま聞こえるカトラリーの擦れる音。
今日の夕食は僕とニックスとお母様の三人。あれからお父様は政務が終わらなかったのだろう、夕食時に不在なのは珍しいことではない。
ただ、お母様が居るということは……当然、専属護衛騎士であるラルドも同じ空間に存在し、テーブルから離れた壁際で手を組み待機していた。
そちら側を意識しないようツンとすまして食事を続ける。それでも、かまって欲しい気持ちは最後まで大人しく身を潜めていられなかった。
「……あ」
突如、ガシャンッと響く不協和音。
僕のフォークが床へ落ち、全員の視線がそれへと注がれる。
もちろんすべてはタイミングを見計らった行動、いま一番近くにいるのは───ラルドだった。
「ジェイド様、お怪我は」
「……ないよ」
床に落ちたフォークを拾うべく素早い身のこなしで僕のすぐ足元に膝をつき、怪我がないかを窺い見る。
普段この男を見上げることはあっても見下ろすことは非常に稀。軽い優越感に口角が上がりそうになる。
視線が交わることわずか数秒。
胸の鼓動はトクトクと速度を早めていく。
昔はもっと気軽に言葉を交わせていた気がするのに、今は咄嗟に何も思いつかない。
あぁもういっその事、そのガッシリした太い首に腕を回して抱きつきたい───
「すぐに新しいものをお持ち致します」
「……お願い」
ラルドの声で我に返る。
スっと立ち上がり、お母様に一言声をかけてから去って行く大きな背中を視線で追いながら自然と漏れ出る僕のため息に、呆れを込めた失笑が横から重なる。
「兄さん、わざとらしすぎ」
「手が滑っちゃったの」
「ジェイドお行儀悪いよ~気をつけて」
いつまでも小さな子供に注意するかのように、めっと頬を膨らませるお母様。
かわいい仕草がさまになるなぁ僕もやろう、と頭のメモに記していると、再び隣からふっと笑われる気配を感じそちらに視線を向ければ、じとーと僕を見るニックス。お返しにべっと舌を出し、ラルドの戻りを待つ。
正直、手が滑ったのはあながち間違いではなかった。
ラルドが去った今も僅かに心臓はペースを早め、空調が効きすぎているのか、無性に手汗が止まらない。
こんな事は初めてで自分の手のひらをじっと見つめながら小さく首を傾げていると、正面に座るお母様から今度は心配そうな声が飛んでくる。
「大丈夫?なんだか顔色よくない気がするけど……」
「特にこれといって不調は無いんですけど……念の為今日は早めに休むことにします」
「そうだね、ゆっくり休んで。何かあったらすぐにしらせてね」
余計な心配をかけないためニコリと笑みを浮かべるも、意識した途端ますます熱を帯びていく気がする。
何かを含んだニックスの視線には無視を貫き、熱い体から意識を逸らそうと無理に話題転換にいそしんでいると、本来の持ち場担当であろうメイドの手により新しいフォークが届けられた。
「え…」と漏れ出た声と共にサッと壁際を見やれば、既に元いた場所で待機の姿勢をとるラルドを見とめ、左胸辺りがツキンと痛む。
直接届けに来てくれればいいのに……。
ギュッと握りしめた拳をテーブルの下に隠し、気持ちは一気に急降下した。
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