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1【職場復帰】
1-11特殊バフside楓真(2)
しおりを挟む会長室、社長室から目と鼻の先にある秘書課。
その扉を控え目にノックしそっと顔を覗かせると、静かな室内にカタカタとキーボードを叩く音だけが響く中、視線は迷うことなく綺麗な姿勢でパソコンに向かうつかささんをとらえた。
あぁ、ホントにいる…そこで仕事してる…
その存在を改めて自分の目で確かめ、実感すると、にやけそうになる顔を必死に堪え平常心を貼り付けながら再びつかささんへ目をやった瞬間、ふと気付く。目を瞑っても目蓋の裏にそっくりそのまま思い浮かべれるほど見てきた大好きなつかささんの顔に、見慣れない細い銀縁フレームの眼鏡がかけられているということに。
「は……はぁぁっ!?なんですかその特殊装備!聞いてないんですが!!」
「えっ楓真くん!?」
潜んで覗いていた事など頭からすっぽ抜け、バンッと派手な音を立て現れた俺に目を丸くして立ち上がるつかささん。
呆気に取られたようにきょとんと一心に俺を見つめてくる、そんな表情もめちゃくちゃかわいかった。
他の秘書課メンバーからの視線を綺麗に無視し、つかささんだけをぽけーっと眺めていると、スーツに銀縁眼鏡という『ザ男子の妄想ど真ん中の秘書』を体現したようなつかささんがささっと近付いてくる。
「楓――社長?どうかされましたか?」
「えーー…何それヤバぁ…」
「……は?」
自分の社長という肩書きも忘れ、ぽかんとするつかささんを置き去りに絶賛俺の頭は一気に妄想が膨れ上がっていた。
これはまるで、俺たちがただの社長と秘書という関係性ではなく、実は恋人同士だということを隠すため、つい口から出かけてしまった普段の名前呼びを必死に留め社長と言い直す、極秘社内恋愛をするには欠かせないシチュエーション。
今まさにそれが目の前で繰り広げられている。
社長、俺。
秘書、つかささん。
そして、秘密の社内恋愛――誰にもバレないようスリルを味わいながらする恋愛。
そんなん、高揚感が止まらない。
「社長?」
「……今日も俺の秘書が激マブプリチー」
誰も現実に引き戻してくれないせいで妄想は勝手に暴走し、口から出る言葉も全員目が点になる事態を起こしていた。
「……花ちゃん先輩、社長って、あんな感じでしたっけ……?もっとクールな印象だったんですけど」
「うん…あの状態の楓真くんは使い物にならないただのつかささんラブ状態だね」
「……へー」
「おい馬鹿楓真、いい加減現実戻ってこないとお前の威厳がどんどん消え失せてくぞー」
べしっと頭を叩かれる衝撃にハッと我に返る。
痛む後頭部を押さえながら叩かれた方に目をやれば秘書課のボスこと知弦さんが呆れた表情で叩いた手をブラブラ振っていた。
「あ…すみません、ついあまりにも眼鏡姿のつかささんがセクシーすぎて興奮しました」
「馬鹿だろ」
「~~っ!見ないでください…」
「えーなんでぇ、あっ外さないでっもっと俺に見せてくださいつかささん~~っ」
頬を赤く染め眼鏡を外そうとするつかささんの後ろから覗き込むようにしてしつこく付け回す。
そんなやり取りをしていると、はぁと大きなため息とともに、「お前は何をしに来たんだ」という知弦さんの言葉でやっと自分がここへ来た目的を思い出した。
「そうだ、つかささん。俺を担当してくださるチームの方たちに挨拶がしたくて来ました、お時間頂いてもいいですか?」
「ちゃんと目的があって来たんだね…、私は問題ないですが――水嶋さん、大丈夫ですか」
「いいぞ行ってこい」
適当にしっしっと手を振り許可を出す知弦さんに感謝を告げ、爽やかな新人くんと共に遠巻きにこちらを眺めていた花ちゃんに向けて来て来てと手招きをする。
つかささん、花ちゃん、そしていまだよく話したことのない名前だけは知っている中途採用の松野さん、その三人を連れ自分の部屋――社長室へと向かうため扉の方へ歩みを向けた。
完全に部屋を出る前、ふと思い出した父さんからの伝言、会長が呼んでいたことを知弦さんに伝えれば「それを早く言え」とまた俺の頭をはたいて先に出たその背中を見送った。
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