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2【動き出す思惑】
2-10真っ黒な贈り物(5)
しおりを挟む黒に映える真っ赤なリボンをそっと引き、梱包を解いていく楓真くん。
その動きがやけにスローモーションに見える目の錯覚に何度も瞬きを繰り返していると、あっという間に黒い包装紙は開かれ、中からブリキでできたアンティーク調の豪華で手の込んだ外箱が姿を現した。
中身を予想するにも、万年筆等にしては大きく、ワインにしては小さい、例えるのが難しい長方形の箱。
やはり開けてみなくてはわからない贈り物に、「開けます」という楓真くんの声に小さく頷き、外箱の留め具を外す手をじっと見守った。
縦にロックされている簡易な鍵を解除し、ブック形式に開く箱。
そんな豪華な箱から姿を現したのは、クッション代わりの柔らかそうな梱包材に囲まれた
一輪の真っ黒な薔薇―――
「薔薇……?」
「―――っ、」
「楓真くん!?」
全てほんの一瞬の出来事だった。
突然ブリキの箱とローテーブルがガシャンっとぶつかる派手な音が聞こえたかと思えば、それはそんな音が鳴るほど激しく箱を投げ出し、遠くに遠ざけた楓真くんの行動だった。
楓真くんにしては珍しい乱暴な行為に驚き目を見開いている間にも、みるみるうちに苦しそうに鼻を押さえだす楓真くんは、しまいにはソファから崩れ落ちローテーブルにもたれ掛かるように蹲ってしまった。
「ふう…ま…くん…?」
一体楓真くんに何が起きているのか咄嗟に理解できなかった。
僕には何も感じない、ただの花にしか見えないこの贈り物が原因なのか、何かに耐えるよう小刻みに震える楓真くんに声をかけながら恐る恐る手を伸ばしそっと触れようとした――瞬間。
「だい…じょう―――」
「触らないで!!」
「っ」
予想もしなかった楓真くんの怒鳴り声に本気でビクッと震え、伸ばしかけた手も中途半端に止まった。
そんな僕の様子にはっとしながらも、余裕は無いのか小さくすみません…と聞こえてくる声は震えている。
「、お願いだから、いま、俺に、触らないでください…」
歯を食いしばり、ふーふーと苦しそうに息をする楓真くんの腕の隙間からちらっと見えた耳や首筋は真っ赤に朱が差している。
怒鳴られびっくりしてしまったが、すぐに楓真くんの様子のおかしさに我に返り、言われた通り今はとりあえず触れないよう気をつけながらも心配で傍を離れられずにいると、不意に鼻腔を掠める嗅ぎなれた香り。
「……?これ……」
すぐにこれが楓真くんのフェロモンだと気付き、一度意識した途端、だんだんその香りがきつく強くなっていくのがわかる。
この状況にひとつ思い当たる節があるとするならば……
「楓真くん…もしかして、ラット…」
「っ、すみ…ません、どうにか…抑えるので…つかささんは一旦、外…出てくださ……」
「なんで!?こんな状態の楓真くんを一人になんて」
「俺の!!理性が、切れる前に…お願い…します…あなたを傷つけたく……ない」
「楓真くん……」
ローテーブルの上に置いた手の甲に青筋が浮かぶほどキツく握りしめ震える手。
理性を失ったアルファのラットは下手したら自ら濡れることの出来る男体オメガの身体であっても傷つく可能性がゼロではない。
それほど、理性を失ったアルファは獣だった。
だけど―――
「楓真くん、僕は楓真くんの番だよ。楓真くんの番で、オメガだ。どうして今楓真くんがこうなってしまったのかはまだよくわからないけど、あきらかに故意的に引き出されてしまってるこんなラットを見過ごせない……」
「つかさ…さん…」
ふぅー…と大きく深呼吸をし、決意を固める。
「本当だったら職場でなんて、絶対にダメ。ダメだけど、これは緊急事態…だから……」
「つかさ、さん…?一体、何を……」
ソファとローテーブルの狭い隙間の床で力なくローテーブルにしなだれかかる楓真くんの身体をゆっくり絨毯の上に押し倒し、腰の当たりを跨ぐよう膝立ちで見下ろしながらスーツのジャケットのボタンをひとつ、またひとつ、外し脱いでいく光景を楓真くんは瞬きひとつせず目を見開きながら見つめてくる。
「楓真くん……」
「つかさ、さん…だめ、だめだから…危ない、から…」
「大丈夫、僕が……楽にしてあげる…」
「だ――っ、」
だめを繰り返す唇を言葉ごと塞いでしまう。
いまだ理性との戦いの狭間で揺れる固い意思を示すかのように固く閉ざす唇が崩落し迎え入れてくれるまで何度もキスの角度を変え、入れてと乞い願う。
そして――とうとう降参したのか、ゆるく開かれていくその中へすかさず入れたと思ったその瞬間、視界は大きく反転し、気付けば僕が天井を見上げていた。
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