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4【就任披露パーティ】
4-10誘拐(5)
しおりを挟む人の顔を無遠慮に見つめてきたかと思えば、サングラスで隠れた目元はわからない代わりに口角がにっと上がり薄気味悪い表情を向けられる。
「あんたは不運にもその場にいてただ巻き込まれただけ。だけど残念ながら逃がしてあげることはできない。諦めな。とりあえず一緒に連れてって、処遇はその時次第って感じ―――ところで、あんたオメガ?」
「っ……」
バース性をストレートに聞いてくる配慮の欠けらも無い質問に咄嗟に答えあぐねているとそのリアクションで察したのか、ふーん…と品定めするような視線を送られる。
そして―――
「!?何を――っ」
急にぐっと近付いてきたかと思えば、抵抗する間もなくネクタイとシャツのボタンを乱暴に乱され、スっと顔が近づいてくる。
咄嗟に距離を取ろうと伸ばした手は強い力で掴まれ、振りほどくこともできず、あらわになった項を無防備に晒していた。
そこをじっと見つめられている。
バク、バク、バク……
静まっていた心臓が再び暴れ出す。
「あー…なるほど。お姫様の匂いしかしないと思ったら、番持ちか」
「っ、やめ、やめて――」
「あーあ、勿体なー…すっげぇそそる顔すんのに」
「やめ――っ」
普段誰にも触れられることの無い、楓真くんの印が刻まれた項の噛み跡にツーっと触れられた瞬間、体中をゾワッと悪寒が走った。
やめて、触らないで、
気持ち悪い…気持ち悪い…気持ち悪い―――!
体は勝手に小刻みに震え、今すぐ振りほどきたいのにどんどん力が抜けていく。
その間にも容赦なく物珍しそうにまじまじと何度もそこを触れられ、気持ち悪さはピークに達しようとした、その時―――突如バシッと豪快な音が耳元で鳴り響き、全ての力から解放された。
「オメガの一番デリケートなとこをずかずかと踏み荒らすな!」
自分を支える余力もなく、ヨロヨロと後ろの壁にもたれかかり荒い呼吸を繰り返しながら滲む視界に映るのは、美樹彦さんの小さな背中。
前に出て庇ってくれている後ろ姿をぼぉっと見つめながらシャツをかきあわせ息を落ち着かせようと何度も深呼吸を繰り返す。
落ち着け、
大丈夫、楓真くんの跡は消されてない、
落ち着け、大丈夫、落ち着け……
触られた感触、温度をリセットするため、そしてそこにちゃんと噛み跡があることを確認するため、項に手を伸ばしギュッと力を込める。
そうする事で暴れていた心臓も少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「いってぇー…おま、下手にこっちが手出せないからって調子に乗ってると痛い目見るぞ」
「やれるもんならやってみろ!そうなったら舌噛みちぎって死んでやる!!そんでもってお前らのボスにざまぁみろって伝えろ!」
美樹彦さんの鋭い声に、ハッと意識が急浮上するように引っ張り起こされる。
慌てて瞬きを繰り返し次第に鮮明に映し出される視界には、変わらず僕の前に出て庇ってくれている美樹彦さんと、今にも拳を振り上げそうなサングラスの彼。
そんな状況にも怯むことなく美樹彦さんの啖呵は止まらなかった。
「この人…―――つかさくんを虐めていいのは僕だけだから!お前らの汚い手で気安く触るな!」
「はぁー…マ~~ジで頭に来た!お望み通り、歯食いしばれよ―――」
「ひっ、」
「―――美樹彦さんっ」
「やめとけ。俺たちのミッションを忘れるな」
回復しきってない力を振り絞り体を起こして華奢な背中を後ろから抱き締め引き寄せる僕の動作と、黙って成り行きを見守っていたもう一人が拳をすんでのところで止める動作、この二つがほぼ同時に展開した。
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