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1【妊娠】
1-10 妊娠生活(5)
しおりを挟む普通だったら3口くらいで食べ終われそうなサイズのドライフルーツを、倍の回数で少しずつ少しずつ含んでいく。すると、最後の一口で楓真くんの人差し指が唇に当たった。―――甘い、指。魔が差したんだと思う。
食べるものが無くなっても離れないその指を、楓真くんの目を見ながらぺろと舐めた瞬間、別の手が後頭部にまわり唇が塞がれるのは一瞬の事だった。
「っんぅ…」
下から掬うように合わさる口が、勢いに押され気づいた時にはソファの背もたれに深くもたれかかっていた。
空気が洩れる隙間もないくらい十字の角度でピタリと重なる唇と唇。お互いの口内を行き来する舌が久しぶりの楓真くんとの接触に歓喜で震えている。
思えば、妊娠が発覚してから一度もこういう行為は無かった。
ここが会社で今すぐやめるべきだと、頭ではわかっていてもなかなかやめることができない。それは楓真くんも同じなのだと、一瞬合った目が語っていた。そっと伸びる手が脇腹を通り下の方へどんどん降りていき、存在を示しかけるその中心へ触れようとした、その瞬間、――トントントン。
長いようで短いその時間の終わりを告げたのは、控えめなノックの音。
「楓真さんいらっしゃいますか?」
そんな外からの問いかけに二人の動きはピタリと止まり、自然と視線は後方のドアへ向かっていた。こんな場面を他人に見られるわけにはいかないすぐに離れなくては、そう思い覆い被さる楓真くんの身体を押しのけようとする僕とは違い、果敢にも無視して行為を続けようとする楓真くんを慌てて止めた。
「っ、楓真くん、人来てるから」
「まだ休憩中なので後ででいいです」
「~~楓真くんっ」
強く抵抗する僕に不満をありありと貼り付けた顔でぶすくれる楓真くん。今度は僕が譲らない姿勢で「人、待たせてる」と再度強い眼差しと共に言えば、数秒間見つめ合ったのち、チュッと一瞬触れて離れる唇。どうやら観念したらしい。
「せっかく久々のつかささんとの甘い雰囲気をぶち壊された…」
「ここ会社だから、むしろ正気に戻してくれて感謝しなきゃだよ」
「二人っきりならセーフ空間」
「~~っ、早く対応してきなさい」
再度聞こえるノック音に、ドアを指さし早く行けと促す。
渋々立ち上がる楓真くんが離れると同時に、ズルズルとソファへ沈み込み、重い両手を持ち上げるように顔を手で覆い隠してしまった。
一体会社で、何をやっているのか……。
安定期に入るまではとお互い自然と課していた禁欲生活がここにきて簡単にリミッターを壊しかけていく。ほんの少し楓真くんに触れて触れられてとしただけでいまだバクバク激しく動く心臓をギュッと抑え、反対の手で平たい腹をそっと撫でる。
突然驚かせちゃってごめんね……心臓の音うるさかったね、なんでもないからね、ゆっくり寝てね。
そう、心の中で話しかけながら、自分の盛り上がりかけていた気持ちも落ち着かせていった。
どうやら今いる外の人物を部屋へ入れるつもりは一切ないらしい。楓真くんがドアの前で中の様子を見せないよう壁になりながら、小さく短くなにか指示を出しているのが背中越しに聞こえてくる。
そんな僕は別に悪い事をしている訳では無いのに何故か存在がバレないよう必死に息を潜め、ソファの影に隠れていた。
そろそろ昼休憩が終わる時間。
今の楓真くんの対応が終わったら、僕も午後の仕事へと戻ろう、それまではこの落ち着く空間で―――そう思いながらそっと目をつむり、ソファへと身を横たえるのだった。
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