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1【妊娠】
1-13 妊娠生活(8)
しおりを挟む恐怖で強く目を瞑りながらも、咄嗟にお腹だけは一番に守った。
僕の身体がどうなろうと、やっとできた楓真くんとの子は絶対に守る。そう誓った。
だけど、覚悟した激しい痛みは……いつまで経ってもやってこない。
むしろ、力強い腕に抱かれている感覚――
「……つ、かささん、大丈夫…ですか」
すぐ耳元で聞こえる声。
確かに、僕は階段から落ちていた。現にいま3階と2階の中間の踊り場に横たわっている――後ろから抱きしめる楓真くんと共に。
「ふ、うま…くん?」
「……ん、痛いとこ、ない?」
「ない、僕は全然…そんな事より楓真くんは……」
何が起きたのか、信じられない事に楓真くんもあの体勢から瞬時に僕を庇って一緒に落ちていた。しかも、完全に僕の下敷きになっている。
現状を把握すると慌てて楓真くんの上からどくよう軋む身体を無理やり起こし、地べたにぺたりと座り込む。
「よかっ……た…」
「ふう、ま…くん?ねぇ、楓真くん……」
僕の無事を確認した途端、プツリと糸の切れた玩具のように完全に意識を飛ばす楓真くん。よく見ると後頭部の辺りから地面に赤い水溜まりがじわじわと広がっている。
「―――っ楓真くん!!」
階段の上からは激しい子供の泣き声、集まる野次馬たち、看護師が慌ただしく指示を出す声、色んな声がひとつの塊となってざわめき合う。それなのに、目の前の楓真くんはうんともすんとも言わない。
途端、息の仕方がわからなくなった。
吸おうとしても、吐こうとしても、ひっ、ひっ、と引き攣って上手くいかない。
次から次へと溢れる大粒の涙が楓真くんの顔を濡らし、震えの止まらない手が先の方からだんだん冷たくなっていく。
必死に楓真くんにすがりついた。
「ふ、まくっ、ぅ、ふま―――」
こんなに僕が呼んでいるのに……
いつもなら、『ふ』だけで気付いて反応してくれるのに……
「二名階段から転落。そのうち一名妊娠中、一名後頭部から出血有り。先生呼んで来て!担架!早く!!」
「橘さーん?大丈夫ですかー!?ちょっと番の方から離れましょうねー……っ!?橘さん!?落ち着いてくださーい!橘さん!ゆっくり息を吐きましょう、ゆっくり、ゆっくりーー」
どうして、なんで、こんな事に……
やだ、楓真くんと引き離さないで、やめて、一緒がいい、やだ、怖い、楓真くん―――
いまだうまく息ができず、みるみる悪化していく呼吸はもはや過呼吸を引き起こそうとしていた。
看護師にゆっくり呼吸するよう声をかけられているが全然いうことを聞かない自分の身体。そしてとうとう、受け入れられない現実から目を背けるかのように、突如プツリと視界がブラックアウトし、楓真くんの傍で寄り添い合うよう僕までも意識を失った。
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