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1【妊娠】

1-28 出産(4)

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「ふうま…くん……」
「よかった、目が覚めて本当によかった…!」
 
 
 ホッと安堵の表情を見せる楓真くんに頭を撫でられながら身体はなまりのように重く思うように動かせず、せめて視線だけでも状況把握をしようと至る所にさまよわす。ちょうど視界の端で点滴を入れ替えてくれていた看護師が先生を呼んできますと慌てて病室を出ていくのをぼんやり見届けながら再び楓真くんへと視線を戻した。
 
 
「僕、どれくらい……」
「半日くらいです」
「半日……」
 
 
 窓の外へ視線を向ければ、手術を始めた午前中の明るさは消え去り外は月が輝く夜になっていた。
 
 
「一時は本当に危なくて…よく耐えてくれました、戻ってきてくれてありがとう」
 
 
 どれだけ楓真くんに心配をかけてしまったのか、それは真っ赤に染まった泣き腫らした目が物語っていた。
 
 
「心配かけてごめんね…ただいま」
「おかえりなさい、つかささん」

 
 まだ起き上がれそうにない僕の代わりに楓真くんがチュッと一つキスを落としていく。一瞬触れた優しいキスがじわりと心を温めた。
 ふふっと笑い合ったところで急に大事なことを思い出す。
 
 
「あっ、子供たち……子供たちは!?無事だよね!?」
「大丈夫です、二人とも元気に生まれてきてくれましたつかささんが頑張ってくれたおかげです」
「よかった……」
 
 
 楓真くんの笑顔が子供たちの無事を告げ、心から安堵する。この笑顔は絶対に嘘をつかない。早く会いたいな、そう言って二人で笑っていると扉がノックされドクターと看護師数名が入ってくる。
 
 
 枕元に立ったドクターに名前を確認され、ひと通りの状態を見ていったドクターは、うん、と頷くとよく頑張りましたと微笑み、今は麻酔が効いているから痛みは感じないが切れたらすぐに知らせるよう言うと続いて簡単に諸注意を説明していく。
 とにかく絶対安静、これを軸に話されていく説明を楓真くんと共に真剣に聞き、最後になにか質問は、と聞かれてとりあえず大丈夫と答えて終わった。
 
 
「それじゃあ……お会いしますか?お子さん方に」
「!会えますか!?」
 
 
 ドクターの提案に嬉しさのあまりつい身体を起こそうとしてすぐさま看護師に絶対安静と止められながら楓真くんと顔いっぱいに喜びを分かち合う。呼んできます、と言って全員が一度病室から出ていくと再び楓真くんと二人きりになる。
 
 
「実は俺もまだ会えてないんです…」
「じゃあ一緒に初対面だね」
「はい…わぁドキドキする…」
 
 
 二人で手を握り合い、扉の方にじっと視線を送り続ける。そしてまもなく開いた扉から、看護師二名に抱かれた小さなお包みがやってきた。まだこの距離と体制では何も見えない。なのに、既に感極まった視界は水の膜で覆われていた。
 
 
「元気な二卵生の双子の赤ちゃんです。お母さん、本当によく頑張りました」
 
 
 寝たままの角度でよく見えるように看護師が傾けてくれた腕の中に、小さな手をギュッと握ったかわいい赤子達がそれぞれ存在した。
 
 こちらが先に産まれたお兄ちゃんです、と言われた方の子は、しっかり目を開け元気そうに、んぱんぱ口を動かし、パッと見楓真くんの面影をもった男の子。
 弟くんです、と言われた方の子は、目は閉じているものの起きてはいるのか、んあぁ~とのんびり声を上げこちらは僕の面影をもった男の子。
 
 二つの生命が確かにこの世に誕生していた。
 
 震えてしまう手を強く握って開いてで落ち着かせ、看護師に抱かれた双子の間にそっと伸ばすと親指と小指を小さな手がそれぞれキュッと握ってくる。すぐさまわっと楓真くんと目を合わせた。
 
 
「うわ、うわぁ…ふ、まく…かわいい…ね、」
「本当に…本当にかわいい…俺とつかささんの子、なんですね…」
 
 
 自分たちが掴んだ指を不思議そうに見つめるかわいい二人をポロポロ涙を流しながら見つめ続ける。楓真くんもまた目を潤ませながら、そんな僕と双子を優しいお父さんの目で見つめていた。
 
 
「御門さんの体力が回復したらお子さんと一緒に過ごせるようにしますね。その為に絶対安静で頑張って回復に努めてください」
 
 
 看護師のその言葉に強く頷き、またね、早く元気になるからね、と双子に囁き握られた指を引こうとするも、キュッと握った小さな手が離れない。つい楓真くんと目を合わせ再び引いてみるがついに双子が同時に泣き出してしまった。
 慌てる僕ら二人に対して慣れた看護師はヨシヨシとうまく双子をあやしてくれる。泣き止むのはあっという間だった。
 
 
「赤ちゃんって不思議ですよね、本能で産んでくれた人の事を察するんです。私たちには全然でした」
「そうなんですか……」
「そして、一番の気分屋さんです。もう寝てる」
「わ…ホントだ…楓真くんみて」
「ホントですね…二人してスヤスヤだ」
 
 
 泣き疲れたのか濡れた目をそのままに、あっという間にスヤスヤ眠る可愛い天使たち。このまま戻りますね、と静かに告げた看護師にありがとうございました、と頭を下げ、また明日ねと双子に小さく挨拶をし見送った。
 
 
「……はぁ、なんか、緊張しました」
「ふふ、なんか楓真くんたじたじだったよね、抱いてみるか聞かれた時、全力で首振ってたもん」
「だってぇ…怖いじゃないですか…落としてしまったらって思うと……」
「だね。幼い命、僕達が全力で守っていこうね」
 
「……はい。つかささんも、双子達も、まとめて俺が大切にします」
 
 
 当然のように僕の事も大切にする、と付け加えて言ってくれる楓真くんに目を丸くしながらふにゃっと笑い、僕も、と続けた。
 
 
「僕も、楓真くんと双子達、一生大切にします」
 
 
 
 
 
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