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しおりを挟むそれから私は追い出されるようにしてパーティ会場を後にし、馬車に乗って屋敷へと帰ってきた。
既に連絡が入っていたのだろう、出迎えてくれた母は何も言わず私を部屋へと促した。
(婚約破棄かあ)
ドレスを脱ぎ、動きやすい服に着替えシルクの肌触りが心地良いベッドに腰かける。
婚約破棄自体はどうって事ない。
前のアイリーンは王太子の事を盲目的に愛していたみたいだけど今の私は違う。
そもそも前世の記憶を取り戻した今の私に王太子妃なんて務まるはずがない。
王妃教育は学園に通っていた頃から受けていたけど、正直息が詰まる事しかなかった。
だって王族の一員になると四六時中誰かの目の届く範囲にいなければいけない。
何をするにも自由はなくて、豪華な衣服に煌びやかな宝石に囲まれるのは良いとしても、あの膨大な仕事の量。
ない、ありえない。
国政も外交もこなして尚且つ世継ぎも生んで更に王太子に何かがあった時は代理として出向かなければならない。
自由時間?何それ?
食事の時間ですら仕事の話をしているくらいなのだ。
息を抜けるのは入浴中と睡眠中のみ。
ブラック企業も真っ青だ。
無理無理無理無理絶対無理。
現代だったら女子大生やってたはずなんだよ?
勉強はともかく、バイトしたりサークル活動したり新しい恋愛したり青春を謳歌する予定だったのだ。
それを何が悲しくて好きでもない王太子の傍で身を粉にして働かなければならないのか。
だから婚約破棄は万々歳。
万々歳だけど……
(……どうなったっけ、この後)
小説では王太子とミリーの盛大な結婚式が描かれ幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたしで終わったけれど、悪役令嬢の末路はさらりとしか描かれてなかった。
断罪されて婚約破棄されてざまあみろと思ってた私はさらりとしたその描写を同じくさらりと読み流してしまっていてあまり良く覚えてない。
(確か平民落ちしたんだっけ?修道院送り?いやどっかの年寄りじいさんの後妻に入ったんだっけ?あれ?国外追放だっけ?)
同じような小説を読み漁っていたからどれが正解なのかがわからない。
今頃は父が呼び出されているはずだから、帰ってきたら説明してくれるだろう。
平民落ちだったら良いなあ。
この国は戦争もなく平和だし、平民でもそこまで酷い暮らしはしていない。
働くのは必須だけど、のんびり働きながら細々と暮らしていくのも悪くない。
修道院送りだとちょっと制限ありそうだけど、まあ良いかな。
衣食住は保障してくれるだろうし。
年寄りじいさんの後妻はちょっと嫌だなあ。
さすがにおじいちゃんくらいの年齢の人と結婚はないわー。
おじさんでも嫌だけど。
国外追放も、まあ良いかもしれない。
むしろ色んな国を旅して歩くというのも楽しそう。
こうなると一番微妙なのはこのまま公爵家に残ることかもしれない。
だって残るって事は社交界にも顔出さないといけないし、そうなると物凄く屈辱的な目に合うのは必須。
誹謗中傷、果ては私、アイリーンがしたような嫌がらせを受けるに決まっている。
身から出た錆だからどうしようもないけど、面倒の一言に尽きる。
しかも王太子とミリーと顔を合わせる可能性も高い。
面倒だ。
ものすごく面倒だ。
けれど公爵家に籍を置くのなら避けては通れない。
傍らにあったクッションを抱え込みごろりと転がる。
うわあああ、さすがシルク、めっちゃ気持ち良い。
このまま寝たら気持ち良いだろうなあ。
ていうか寝る、寝ちゃう。
シーツの心地良さに目を瞑るとそのままうとうとしてしまい、メイドが扉をノックして声を掛けられるまですっかりと眠ってしまっていた。
*
さて、平民落ちか修道院送りか後妻か国外追放のどれだろうかと思っていた私の処分はというと。
「身分の剥奪、ですか」
「申し訳ない、それが精一杯だった……!」
決定された処分を伝えた後、父は勢い良く頭を下げた。
謝られる必要性が全く感じられないんですけど。
身分剥奪って、つまりは平民落ちって事だよね?
恐らく身分や家柄を第一に考えるアイリーンが最も嫌がる罰を考えた結果なのだろう。
確かに前の私だったら身分剥奪は最も嫌な処罰だったかもしれない。
今の私にとってはひゃっほー!だけどね!
「明日にでも、お前はこの屋敷から出て行かなくてはならない」
「明日ですか?」
おっとそれはさすがに早すぎる。
一日で荷造りしないといけないじゃん。
「住む家は用意してある。もちろん必要な物もすぐに手配する。街の中にある集合住宅のひとつだ」
紙を渡される。
家までの地図と集合住宅の名前、そして管理人の名前が記されている。
街の中心で生活するには困らない、むしろ好条件の場所だ。
元公爵家令嬢という事もあり優遇されたのだろうか。
罰なのに優遇する意味がわからないけれど、父が相当頑張ったのだろう。
腐っても公爵家の元令嬢をそんじょそこらの場所に置いておく訳にはいかないという理由もあるかもしれない。
用意するのが早すぎると思うが、元々公爵家が管理している建物のひとつなのだろう。
「アイリーン、お前の言いたい事は良くわかる。平民だなんて冗談ではないと思っているだろう?何故自分がと言いたい気持ちも良くわかる」
「へ?」
黙って紙を見つめる私に父が話を続ける。
ああ、私が発狂して文句を言い出すだろうと思っているんだな。
前の私だったら……
『冗談ですわよね?何故私が身分を剥奪されなければなりませんの!?』
『悪いのは己の身を弁えずにラインハルト様に色目を使ったあの女狐の方ですわ!』
『婚約破棄だなんて……私意外に将来の王妃が務まると思いまして!?』
『嫌よ、絶対に嫌!下民達に混ざって生活をするくらいなら死んだ方がマシよ!』
まあこのくらいは言うだろう。
我ながらお前は何様だと言いたい。
身分に関係なく、イジメ、ダメ、絶対。
下民呼ばわりも、ダメ。
「相手が男爵令嬢だったからこの程度で済んだのだ、頼む、これを受け入れなければお前は……」
「わかりました」
「ああやはりそうか、嫌だと言うと思っていたが、だが……え?」
「お父様、私、わかりましたと言いました」
「わかっ、わかった、のか?」
私の返事に父や母ばかりか傍らで待機していた執事やメイド達まで目をまんまるにしている。
「ええ、明日この場所に引っ越せばよろしいんでしょう?荷物は好きに持って行って構わないのかしら?」
「あ、ああ、ある程度は自由にしていいとのお達しだが……」
「わかりました。それでは私は早速荷造りを致しますのでこれで失礼します」
それにしても身に染み付いた言葉遣いというのは不思議だ。
普通の女子高生だった私がお嬢様言葉を平然と使いこなせるとは。
「……アイリーン?」
「はい?」
「お前、本当にアイリーンか?」
「嫌だわお父様、可愛い愛娘の顔をお忘れになったの?」
「顔は間違いなく我が愛しの娘だが、しかし……」
中身が違いすぎると言いたいんだろうな。
そりゃそうだ、元の高飛車お嬢様と私とは性格が違いすぎるんだから。
「お父様、私今までの行いを反省しましたの。ですからこんな寛大な処分で済んで感謝しておりますわ」
「アイリーン……!」
にっこりと微笑みながら言うと、今度はみんなの表情が感動したように変わる。
言うならば、あのアイリーンが、お嬢様が……!というところだろうか。
普通なら屋敷から追い出されると言われれば絶望するに違いない。
でも別に殺される訳じゃないし、これ以上の罰がある訳でもない。
会おうと思えばいつでも……とは言わないが会えなくなる訳じゃない。
悲観する必要なんて全くない。
というよりも私は憧れの一人暮らしに既に胸躍ってます。
大学進学を期に一人暮らししたかったんだけど、親が許可してくれなくて出来なかったんだよね。
だから私にとっては罰というよりもご褒美だ。
こうして公爵令嬢だった私は街で生活をする事になった。
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