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黙ってちゃわかんねーって。
第8話 メイド?冥土?低迷どう?
しおりを挟む履修。ウジ。ジンバブエ。エクアドル。ルームシェア。アンインストール。ルービックキューブ。ブーイング。グリル。ルート(√)。吐瀉物。つっかえ棒。有象無象。雨林。
…………あ。んを付けてしまった。くそ、何度もる攻めで攻め落とそうとしていたのに、まさかこっちの凡ミスで負けるとは。……まだまだ鍛錬が足りないか。
よし、ひとりしりとり、終わり。
あれから何時間たっただろうか。一時間とはいわずとも、三時間くらいはたっただろうか。
この部屋には窓がないので、朝昼晩の違いは一切わからない。
あるものといえば、まず目に入るのは、とても良質とはいえないベッド。すでにもう薄汚れていて、所々綻びている。次は、普通の机だ。なんの変哲もない普通の木の机。引き戸などはもちろんついておらず、ただシンプルな台としての役割しか果たさない。そんな机だ。その上には、この部屋唯一の照明がある。それはどうやらランプのようで、よく見えないが、火が燃えているのがわかる。
そして、うん、最後の物なんだけれど。なんというか、これはどうも、触れづらいな。
まず、この部屋は恐ろしく狭い。精々四畳あるかないかくらいだ。だから家具もおけるものが限られていて、寝具、机ときてその次に置かれている――――
収納。この部屋唯一の収納。その木製のクローゼットは、これから嵐でも来るのかと、もう使えないからゴミにでもだすのかと、中に何かいるのかというのように、木の板で大量に釘を、真っ黒な釘を打たれて、その役割を果たせなくなっていた。
なんだぁ?こりゃあ。
初めて見た時から、ずっと気になっている。いや、気から外している。
あまりに異質すぎる。
普通の釘ならともかく、その釘はとにかく黒い。錆や元々の色というわけでもないようだ。それに、釘の打ち方が素人目からみても乱雑で適当だ。
暴力的とも言っていい。
感情の、込みにこもったクローゼット。
ここに怪しさを感じなければ、人間失格だろう。
……ちょっと近づいてみようかな。
僕は単なる好奇心でそう思った。
「…………………」
僕はベットから起き上がり、例のクローゼットに近づく。
一歩、二歩、三歩。もう目の前に来てしまった。さすがの狭さだ。
そして僕は、もっとも目に付いたあの、黒い釘に、手を伸ばして、触れ――――
その時、あの重苦しい扉から、コンコン、と軽い音が鳴った。
ほう、あの扉は自然に音を出すのか。生きているのかもしれない。
僕の興味は、その扉へと俊敏に傾く。
「あの……第二軍団長様のペッ、ご友人の方~起きてらっしゃいますか~?」
どうやら扉がひとりでに鳴ったのではなく、誰かのノックだったようだ。
ふむ、残念だ。
僕は体を扉の方に向けて、内開きの扉を開ける。ものすごく荘厳な音を立てて、二分くらいかかってやっと開く。
というか、この狭さなのに扉は内開きなのか。どんな設計だよ。
で、扉の向こうにいた人物。ノックの音源である人間。僕の好奇心の軌道を逸らした人。それは。
真っ黒な髪の、丈の長いロングスカートのメイドメイドの服に身を包んだ、僕よりも10㎝は身長が小さく小柄で――――なんか、そうだな……
もうとんでもなく、庇護欲促進効果の高そうな娘だった。
ただ、その衝撃的な髪型に目を瞑ればだが。
「えとぉ~その、第二軍団長様に城の案内を頼まれて……それと、もう朝ですので朝食の方も……」
と、おじおじして彼女は言う。ん?もう朝?てっきりまだ深夜だと思っていたのだけれど。しりとりって時間をつぶす能力が高いんだな。たしかに、言われてみればそれくらい経ってたような気がする。
というか、あの彼女が僕に間接的とはいえ、案内をしてくれるなんて、意外と優しいところもあるんだな。先日は血も涙もないなんて言ったけれど、それは取り消すべきだな。うん、反省反省。
「……そうか、もう朝だったのか。君が案内してくれるのかい?」
「あ、はい。そうです。そうなってます。もうご準備はできていますか?」
「準備も何も、僕はもとから何も持っていないよ」
「そうですか。では、早速行きましょう」
僕は部屋を一瞥して、あの忌々しかった首輪を一瞬見て、扉を閉める。
「あ、わたしが閉めておきますよ」
閉めてくれた。10秒もかからなかった。なんで?
そんな力持ちな彼女は「では、わたしについてきてください!はぐれると、二度と出れませんからね!」
と、脅し文句を言うのであった。
……脅し文句だよな?本当に出れないとかじゃないよな?
「ここは城の地下一階で、本来は倉庫に使われているところなんです。お城と同じ広さがあって景色も全く変わりません。もうほとんど使われていませんので人通りも少ないです。なので、本物の迷路より迷路になってます。おそらくあなたは今後もあそこで寝起きするでしょうから、なるべく道を覚えてくださいね」
と、コツコツと音を鳴らし、歩きながら彼女は僕に教えてくれた。
どんだけ広いんだ、この城。
「ねぇ君……あぁ名前、何ていうの?」
「ミリンです」
みりん……いや、ここは異世界だ。名前に違和感を覚えるのはやめよう。
多分ここには、醤油もお酢もないだろうし。
「ミリン……ちゃん、ここは倉庫だっていうけれど、僕の部屋、って言っていいのかわからないけど、あそこはとても部屋として機能してないぜ。収納だって――――」
収納。クローゼット。本来感情など感じようもない無機物であるのに。
怨念とか怒りとか苦しみとか、そんなのがあれにはあった。
結局のところ、正体不明のままだ。
「なかったし」
僕はそうぬけぬけとぬかす。だが、たしかにあそこには収納などはない。
もとから、ない。
ミリンちゃんは答える。
「……あぁ、あそこは……その……」
初対面の時のようにおじおじするミリンちゃん。なんだ?なんかやましいことでもあるのか?
たとえば、人が死んだとか。
安直だけれど。
「あそこは、第二軍団長様のペット……じゃなくてご友人様のためにだけ存在している部屋なんです。だから、あそこだけなんですよ、家具がおいてある場所というのは。通称、犬小屋です」
ペット……そういえば僕はペットなんだった。そしてあそこはそう、犬小屋、犬小屋だ。あの彼女も、そう言っていたし。
ん? 僕今、あの彼女のペットなのか?
冗談じゃない。
冗談であれ。
凶弾に命を奪われるぐらいの不幸だ。
「えーっと、確か……ここです。多分」
急にミリンちゃんが立ち止まる。なので僕も足を止める。
ミリンちゃんが見ているのは、僕の部屋と同様のあの重苦しい扉だった。
? ここです。っていうから、てっきり、上への階段でもあるのかとおもったけれど。
「ここです。って、なにが……」
僕は間抜けそうに辺りをきょろきょろと見渡してそう言う。
当たり前のことだが、あの扉ぐらいしかない。あとは眺めの変わらない、無駄に長い廊下だけ。
「ねぇ、ミリンちゃん……」
あれ、いない。
え、いない。
??? いない?
えええっええっえええ???
どこいった?
「こっちですよ。こっち」
と、ミリンちゃんの声が聞こえてくる。扉の向こう側にいるようだ。
「その扉から、中に入ってくださーい」
扉……また、何分もかけて開けるのか…
と、僕は扉の輪っか状のノブを持って。思い切り押す。それにしたがって、扉もギギギギと苦しそうな音を出して開か――――ない。あれ?めちゃくちゃ重いぞ。押しても押しても動きすらしない。
試しに引いてみるけれど、これも同様。うんともすんともごんともいわない。
「ミリンちゃん……これどうやって開けたの……」
見た目にそぐわず、すごい怪力だ。
「あれ、見てなかったんですか?そこは開きませんよ。普通に通り抜けられので、そのまま歩いて来てください」
? どういうこと? 通り抜ける? うん?
歩いてこいっていっても……目の前はただの扉だし……
まぁ、言われた通り、やってみるか……
そして僕は扉を前にして、一歩踏み出す。つま先が扉に埋まり、足から徐々に全身が扉と重なる。
不思議な感覚だ。重いと思っていたものが、実は軽かった時のようなあの違和感。ぶつかると思っていたので、すこし転びそうになった。
……なんだこれ……まるで、まるで魔法……
昨日から僕、ずっと魔法魔法言ってるな。
もう認めるか。さすがに。
「……すごいねこれ……なんて魔法だい?物を透過するなんて、僕には信じられないな……」
扉を通り抜け、すり抜けた先に、薄暗い部屋の中、ミリンちゃんは立っていた。
その奥には、上へと続くであろう階段がある。
しかし、そのミリンちゃんは、きょとんとした顔をしている。
今更だけど、きょとんってどんな顔だよ。京都の誤字変換かって。文字だけじゃ伝わらない表情ナンバーワンだろ。
「……あなたは魔法の事に関しては一切の無知だと聞かされているのですけれど……」
…………
――――己が全知を装うことが、皆にわかってしまうときほど、地獄に落ちたい気分もない。
嘘格言。
ハズカシイ。
まったくもって恨みを向ける方向を間違っているけれど、筋違いも軸違いも時空違いもわかっているけれど――――
何してくれてんだ!あの女!
僕は魂で叫んだ。
魂なんて無いと思うけど。
「まぁ……とりあえず行きましょう。お腹がすいているでしょうし……」
そう、ミリンちゃんが言ってから、僕たちは階段を昇って行った。
階段を昇った先は、さっきと同じような、というか同じ部屋で、じめったい感じも同様の部屋だった。
ここも同じように扉を通り抜けて部屋を出るのだろうか?
「ここの扉、他と比べて固いんですよね」
むん、と口を鳴らして腕まくり。
すり抜けは?
ないの?
じゃあ地下のあれって入った人を出れなくする目的しかないってこと?
……悪趣味だ。しかもめったに人が入らないので、今のところ僕に焦点向きまくりの、いやがらせだ。
僕、道覚えてるよな、ちゃんと。
地図が欲しいところだった。
そんな心配を余所に、ミリンちゃんが「よいしょ~~!!」とやけに男勝りな声を上げて、扉を内側に開く。
それを棒立ちで見守る僕。
立場が逆だろう。
「ふぅ……開きましたよ。行きましょうか」
「…………」
「なんですか?」
そのトリプルテール……ツインテールとポニーテールを無理やり融合させた髪型を、冷静になって見ていたんですよ。とはもちろん言わない。それが至極無理を通っている髪型だという突っ込みも、ものすごくしたいけれどしない。自制心ぶんぶんでいきましょう。
「なんでも……ない……です」
なんでもなくないけど。どうやったらそんな髪になるんだ?髪の毛の量と密度が、常人の5倍くらいないとマネできないだろ。というか、なんでそんな髪型でも、ひどく似合っているように 見えるんだ?
……まぁ、かわいいからいいか。
かわいいは正義だ。
昔、僕は、己のかわいさで人を殺したやつを見たことがある。
あいつは、たしかにかわいかったんだろう。
僕には理解しかねたが。
扉の向こうは、あの綺麗で豪華絢爛な廊下に繋がっていた。窓から入る日光が、目に刺さる。
足取りを変えず、僕たちは歩む。そういえば、どこに向かってるんだ?
まぁあらかた予想はつくけれど。
「ミリンちゃん、魔法っていうけど……あーえっと……どういうものなの?」
何も考えずに質問したので、言葉が変になってしまった。
「? あーはいはい、魔法ですね」
通じたようだ。
「んー、でもそうですね何から説明したらいいのやら……」
ミリンちゃんは少しだけ考えて。
「えーっと、まず人間の体内には魔種があります」
マシュ?なんだそれは。シュウマイの略か?いや、升?ナス?
「えーと、魔法はその魔種を使って発動するんですよね」
マシュってなんだ。説明なし?
「そしてその魔法には5つの基本属性と3つの副属性が存在します――――
炎属性、水属性、自然属性、闇属性、光属性、これが基本属性ですね。そして、生命属性、時空間属性、超属性の副属性です。炎は水に弱く、水は自然に弱く、自然は火に弱い。闇と光はお互いに強く、お互いに弱い。――――ここまでは大丈夫ですか?」
なるほど、やったことはないが、rpgにおける属性の三すくみ的なものか。
そして、副属性。生命属性と超属性とやらはともかく――――時空間属性。
僕がここにきた理由。原因。きっかけ。これだけは、いくら考えても不明瞭なままだ。
この、世界。元の、世界。
繋がっているのか。離れているのか。
水平なのか、傾いているのか。
整っているのか。歪んでいるのか。
戻れるのなら、戻りたい。
関係が、あるのかもしれない。
「うん、大丈夫だよ」
「それで、残りの副属性ですが……その、説明がちょっと難しいんですよね……」
まぁ、そうだろうな。生命……属性ならともかく、時空間、超は字面からして意味不明だ。
「生命属性は、動物や人の傷を癒したり、身体能力の向上もできます。まぁそれはいいとして……時空間属性、は、えとー……その、よくわかってないんですよね……魔法にはそれぞれの属性に一人一つ以上適性があるんですよ。炎属性が適性なら、炎属性の魔法が得意になりますし、逆に適性でない魔法を身につけるのは難しい……みたいな」
適性か。僕の適性はなんなんだろうな。僕の周りではよく人が死んでいたから、その点を鑑みれば生命魔法だろうか。はたまた、自然魔法かな。……水は、ちょっと嫌だな。
「で、時空間魔法は適性を持つ人が全く存在しなくて……だからまぁ、時空間魔法がどんなもので、何ができるのか、って言うのはよくわかってないんですよ。超魔法も同様です」
悩んだ顔をして、僕に「ごめんなさい、勉強不足で……」と謝った。
おそらくミリンちゃんのことなので、決して勉強不足なんかではなく、向こうの情報不足なのだろう。
ミリンちゃん。努力家の雰囲気が滲み出ている。
「あ、ここです。着きましたよ。中で待っていてください。すぐに食事を持ってきますので」
そこにはロイヤリティ溢れるこの城に、ピッタリはまっている、同じようなロイヤルな扉があった。
この城は、本当に全てが美しい。
一つ一つが美術品。
気持ち悪い。
ミリンちゃんが扉を開けて、僕を中へ招く。
すぐ目に入ったのは、円卓。全体的に真っ白で、この城の事だから、きっとあの円卓は真円なのだろう。と僕は予想する。
次に目に入ったのは、天井に吊り下げられている荘厳で壮大で脆そうな、シャンデリア。一つ一つが細かく造形されているのが、遠くからでもよくわかる。
いや、遠いからわかんねぇけど。
嘘嘘ポイポイ。
「すごいね……ミリンちゃ――――」
あれ、いねぇ。
あ、そうか料理持ってくるって言ってたもんな。
さて。
一番最初に目に入って、すぐに見なかったことにした”彼”と、対峙するか。
「君は……昨日の……」
そこにいたのは、蒼白にまみれた。青色に溢れた。僕を気絶させた、第三軍団長――――『審判と涼青』ゼルエイスだった。
応援ありがとうございます!
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