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魔法少女

寒気

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 軽快な発射音と共に薬莢が排出され、辺りを金色に変える。

 そして眼前の獣たちはハチの巣にされた。胴体に穴が開き、頭部が欠損し、手足がもげる。

 1つのマガジンが空になるころには、半数が息絶えていたが、進行は止まらない。

「楽勝だな。石を投げても倒せんじゃねーか?」

 咲がマガジンを捨て、タクティカルベストから新しいマガジンを取り出す。

「アレは可愛くない、アレは可愛くない」

 聡里は自分に言い聞かせるように、可愛くないと連呼する。可愛いもの好きの彼女からすれば、動物は可愛いものに分類される。なので必死に自分をだましている。恐らく目や口が無い事が、唯一の可愛くないポイントとして耐えられているのだろう。

 そんな聡里に、苦笑いを浮かべていた咲だが、不意にゾクリと寒気がよぎった。何処からか何かに見られている。

 どこかで感じたことのある、気持ち悪い感覚。

(どこでだ?)

 思い出そうとしてもうまくいかない。

(気のせいか? でも)

「吾観利、どうした?」

 竜聖の問い掛けに頭を振る。

「いや、何でもない」

 頭に引っ掛かりを覚えながらも、仕事に集中しなおす。

「そろそろグレネード投げとくか」

 藤十郎がそう言うと、右手で腰のグレネードを取り外し、レバーを握りながらピンを抜く。

「撃ち方止め」

 竜聖が指示を出し、全員がそれに従う。

「オラよっと!」

 オーバースローで放たれるグレネードは、群れの中に入り込み爆発した。

 爆風に晒されながら、土煙が晴れるのを待つ。

 少しずつ視界が晴れると、そこには無傷なものなどいなかった。即死はしなかったものの、まともに歩行できることは無い。

 終わりを確信した面々が安堵の表情を作る。相手が動けないとなれば、後は銃で止めを刺していくだけの事。終わりを確信した事もうなずける。だが、今回は違った。

 動いていたライオンとワニがぶつかった。バシっという音と共に、その2種が融合したのだ。

 ジタバタと動き続けると、次は犬とぶつかった。そして同じように混ざり合う。

 その見た目は、ライオンの頭と前足。犬の胴体とワニの後ろ脚と尻尾と言う不格好な形。しかし、3匹の動物が融合した事で、手足が生えそろい身体を引きずりながら歩き出した。

 その道中にはまだ生きている動物がいる。ぶつかるたびに吸収し融合してパーツが増える。

 あっけに取られていた咲たちだが、いつまでも棒立ちでは無い。誰の合図も無く、引き金に指をかけ、狙う。

 数十発の鉛玉が化け物に当たるが、前足がちぎれても7本目のひづめが身体を支え、頭もすでに3つ存在する。

「完全に化け物じゃねーか」

 咲がSG550の引き金を絞る。

「いうなればキメラだな」

 HK416のマガジンを捨てながら竜聖も頷く。

 そのキメラは、あまり動く気配が無い。なので、残りカスが寄せ集まっただけの、薄気味悪い全高2メートル、全長4メートルほどのオブジェの様でもあった。

「このまま終わるわけねーよな」

 引き金を引く全員が感じていたことを、咲が代表して述べた。

 彼らの経験上、相手が行動を止める時は2つ。完全に死亡したか、覚醒間近か。

「気を抜くなよ」

 竜聖がそう言った瞬間、キメラは行動に出た。
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