魔闘少女ハーツ・ラバーズ!

ハリエンジュ

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第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』

その7 貴方に憧れていました

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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 
第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』
その7 貴方に憧れていました


teller:河本こうもと 詩織しおり


 あれ。
 私、今まで何をしていたんだろう。

 気がつけば、私は、河本詩織は学校の教室に居た。

 授業中、ではないことに安堵する。
 授業中にぼうっとすることなんて、あってはならないもの。

 ぼんやりした意識を覚醒させる為にぱちん、と両手で頬を軽く叩いてから分厚い参考書を開く。

 勉強、しなきゃ。
 来年にはもう受験生だ。
 このまま学年上位の成績を維持して、模試でも好成績を取って、何とか第一志望の高校に入学して、そこでも頑張って勉強して、医大に進学して。
 そこで医学を学び、父や母がそうしたように私も医者になる。

 それだけが、私の人生の意味。
 他には何も要らない。
 両親の期待に応えるのが全て。

 息抜きで美術部に入ってはいるけれど、美術の道に進むつもりはない。

 私には、両親と同じ道を歩む以外の選択肢は無いように思えた。
 そういう風に育てられたのだから、そういう家庭に生まれてしまったのだから仕方ない。

 そう自分を自分で納得させて、参考書の文字列に目を通す。
 勉強にかまけてばかりで、私の交友関係はひどく狭い。

 クラス委員長として周りには頼りにされているけれど、心の許せる友人なんて物はいなかった。

 でも、それでいいのかもしれない。
 一人の方が、勉強に集中できる。
 一人の方が、ずっと楽だ。

 そう、信じて疑ってなかった筈なのに。

 何でだろう。
 どうしてだろう。
 今日の私、何だか変だ。

 心にぽっかり穴が開いたような感覚がある。

 何かが足りない、誰かが足りない。

 安らぎをくれる存在、楽しさをくれる存在――胸を高鳴らせてくれる存在。

 そんな人達が、私には居たような気がしたのだ。
 あくまで気がするというだけで、確証は持てないのだけれど。

 何で、こんなに落ち着かないの。
 ――何で、こんなに寂しいの。

 文字が追えなくなる。
 心臓がざわつく。

 こんなの、おかしい。
 私が私じゃなくなったみたいだ。

「……あれ?」

 ふと、気付いた。
 頬を、涙が伝っていることに。

「……やだ、私、何で」

 眼鏡を外して、何度も何度も涙を指で拭う。
 それでも、涙は溢れて来るばかりで。

 私、どうしちゃったの。
 ――私、誰を、求めているの。


「しぃちゃん!!」


 悲しくて寂しくて、どうしようもなくなった頃。
 静かだった教室に、声が響いた。

 びっくりして辺りを見回す。
 でも、誰も何かを話している気配はない。


「しぃちゃん! しぃちゃん! 目を開けて!」


 随分と悲痛な声。
 しぃちゃんって、誰のことを指しているのだろう。
 何もわからなかったけれど、何故か私は、泣きながらもその声に耳を傾けた。


「しぃちゃん、ごめん……ごめんなさい! あたし、しぃちゃんの気持ち、全然考えてなかった! お節介焼いて、しぃちゃんを傷付けて……本当にごめんね!」


 何の話だろう。
 だけど、不思議と意識が、その呼びかけから逸らせない。

「あたしね、ただ、しぃちゃんに幸せになってほしかったの! だってしぃちゃんが好きなんだもん、大好きなんだもん! だから、ごめん……だから、目を開けて! あたし、しぃちゃんとずっと友達でいたいよ!」

 ――友達。

 その響きに、心臓がどくんと大きく脈打った。

 私は、この可憐な声を知っている。
 いつも、屈託なく私に声をかけてくれた。

 私は、この子を良く知っている。
 だって、ずっと一緒にいたから。

 初めて会った時、この子は私とは世界が違う人だと思った。
 底抜けに明るくて、誰にでも親しく声をかけることができて、幸せそうな笑顔を振り撒けて。
 堅物な私とは、全然違って。

 憧れだった。
 私にも彼女のような明るさがあれば、もっと毎日が楽しくなるのかなってずっとずっと思ってた。

 ねえ、知ってる?
 私、貴方が『勉強教えて欲しい』って声をかけてくれた時、凄く嬉しかったのよ。
 憧れだった貴方が、私を頼ってくれたのがたまらなく嬉しくて、幸せで。

 そんな貴方と過ごせた毎日は楽しかったけど、やっぱり貴方は私にとってどこか雲の上の存在のように感じられたから、ずっと他人行儀に名前を苗字で呼んでいた。

 でも。
 こんな私を友達だと認めてくれるなら、こんな私を大好きだと言ってくれるのなら。
 私も――。


「……っ、私も、私も貴方とずっと友達でいたい! 大好きよ、愛歌!!」


 そう必死に叫んで、縋るように宙に手を伸ばす。
 静寂の世界にひびが入り、ゆっくりと崩れ行く。

 光が差し込んだ空間で、私は片手を掲げる。
 青いラブセイバーが手の中に顕現し、私は声を上げた。


「ハーツ・ラバー! アイ・ブレイク・ミー!」


 意地っ張りな自分を、友達を傷付けてしまう自分を、壊せ。
 そんな想いを籠めて、私はラブセイバーを自分の心臓部に突き刺した。





「……恋する乙女の底力! 氷の戦士・ロマンスラバー!」

 名乗りを上げて、じっと前を見据える。

 目の前には、ボロボロになったブレイブラバー。
 私が生み出したアニマと戦ったせいで、こんなことになってしまったんだろう。
 ――ごめんなさい、私のせいで。

 悔しくてぎゅ、と下唇を噛み締めていると、横から勢い良く金色の影が飛び出し、思いっ切り抱きつかれた。
 愛歌――ううん、今はカーニバルラバーだ。

「ロマンスちゃん! ロマンスちゃん! よかったぁ!!」

 目に涙を浮かべて喜ぶカーニバルを見て、くす、と笑みが漏れる。
 自分よりずっと背の高いカーニバルの頭を一撫でしてから、私は声をかけた。

「貴方のおかげよ、カーニバル……ありがとう。ブレイブ、怪我は大丈夫?」

「わ……私は平気……ロマンスちゃんが、無事で良かった……」

 心底安心したように笑うブレイブ。
 ああもう、何だって私はこんなに人間関係に恵まれているのかしら。

「何で……歌は、封じた筈なのに……」

 驚いた声を上げたのは、ブレイブとカーニバルに『ナハト』と呼ばれていた痩躯の青年。
 彼もネスと同じ、オーディオの人間なのだろう。

「えへへっ、友情パワーだよ! ナハトさん!」

 ナハトに向かって、カーニバルが笑顔でピースサインを決める。
 ……この子の笑顔を見ていると、本当に何でもできるような気になれるから不思議だ。

「どうするの? これで三対一よ。辺りに人気もない。つまり貴方はアニマも出せないわ。万事休す、と言った所じゃない?」

「……そーかもな」

 降参、とでも言うかのようにナハトが両手を軽く上げる。
 それから、僅かにカーニバルを睨んだ。

「……オレの作戦ほんっと君には通用しないのな、カーニバルラバーちゃん。ったく……君をギャフンと言わせる方法、頑張って考えとくよ」

「かかってこーい!」

 睨まれているのも意に介さず元気良く笑うカーニバルを見て、ナハトが呆れたように溜息を出す。
 それから、彼はふっと姿を消した。

 これで、今日は終わった……と見ていいのかしら。
 そこまで考えて、へなへなと座り込むブレイブを目にしてから慌てて彼女にけ寄る。

「ブレイブ、傷の具合は平気!? ごめんなさい、私が油断したせいで……」

「う、ううん……平気……こんなの、へっちゃら、だよ……それに、ゼロットさんが来てくれれば傷も治るから……」

「治るから良いってものでもないわよ……でも、あのコウモリ、確か治癒能力を持っていたものね……それなら、早く――」


「……河本……なのか……?」


 ――ん?

 今、聞こえてはいけない声が聞こえたような。
 突如響いた第三者の声。

 まさか。
 壊れかけのロボットのように、ギギ、と首を動かして声のした方を見やる。

 そこには、呆然と立ち尽くす――芹沢昴くんの姿があって。

 直後、自分の服装を見てみる。
 ふりふりのドレス、つまりは明らかにおかしな服装。

 ハーツ・ラバーの秘密がバレた、という危険性よりも。

 好きな男の子にコスプレ趣味の変人と思われたかもしれない、という危惧の方が勝って。
 私は。

 終わった……とただただ泣きたくなってしまった――。
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