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第九話『愛歌トキメキ! 千雪にアコガレ熱視線!』
その5 騙す
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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第九話『愛歌トキメキ! 千雪にアコガレ熱視線!』
その5 騙す
teller:小枝 こずえ
気がつけば、もう5月。
本来ならお父さんとお母さんが料理修行から帰って来てもいい頃の筈だけど、どうも修行が長引いているらしい。
生活費はまだ残してもらえているけど……二人とも、元気にしてるのかな。
いつも明るく前向きなお父さんとお母さんだけど、さすがに心配になってしまう。
「ねえ、こずえちゃん」
唐突に名前を呼ばれて振り向くと、スーパーの袋を片手に提げた千雪さんが立ち止まっていた。
辺りが夕焼けに染まる中、千雪さんの長い黒髪が靡く。
その様が、何とも綺麗だと思った。
千雪さんは、私の夕ご飯の買い出しの手伝いをしてくれている。
何度も遠慮したのだけれど、『食べさせてもらってる身だから』と千雪さんも頑なに譲らず。
こうして、二人でスーパーの袋を分担して持ちながら家路に着いている。
そんな千雪さんは、何故か今はひどく険しい表情をしていて。
千雪さんが、ゆっくりと口を開く。
「愛歌ちゃんってどんな子?」
愛歌ちゃん。
予想外の言葉に目を丸くしてしまう。
千雪さんと愛歌ちゃんの間に、私が知らない内に何かあったのだろうか。
不思議に思う気持ちはあったけれど、とりあえず疑問に答えようと、私も口を開く。
「愛歌ちゃんは……凄く明るくて、人懐っこくて……とっても可愛らしくて華やかな女の子です……」
頭に浮かんだままの感想を伝えた。
それでも千雪さんの表情は難しいままで、私はどう補足説明を入れたものか思案してから、おずおずとまた声を発した。
「あと……あの、愛歌ちゃんはアイドルを目指していて……私はその夢を、凄く応援しています……」
「……アイドル、かあ」
ぽつりと呟いて、千雪さんは一瞬夕空を仰ぐ。
それから千雪さんは、道端に落ちていた小石をころん、ころんと蹴りながら歩き始めた。
「やっぱり私とは、何もかもが違うや」
「違う……?」
「愛歌ちゃんがさ、私に憧れてるって言ってくれたんだ」
心なしか、千雪さんの声のトーンがいつもより落ちていた。
千雪さんが蹴った小石がまた、道を転がる。
「でも私、憧れられる資格なんてない。モデルなんてやりたくもなかったし、そんな姿を憧れられても困るっていうか……申し訳ないんだ。……私、愛歌ちゃんの他にも沢山の女の子騙してきたのかなあ……」
「だ……騙してなんかいません……っ」
思わず、少し大きな声を上げてしまった。
千雪さんもさすがにびっくりしたのか、足を止め、目を丸くして私を見ている。
途端に大声を出したことが恥ずかしくなったけど、私はそれでも千雪さんに伝えたくて、途切れ途切れの口調でも、言った。
「千雪さんが望んだ形じゃないとは思うんですけど……千雪さんが女の子たちに夢を与えたのは事実だから……それは……千雪さんにとって誇っていい部分だと……私は思います……」
そこまで言って、はっとする。
私、何を言ってるんだろう。
千雪さんの苦しみも、時折見せる彼女の影も、何一つ理解していないくせに。
「ご、ごめんなさい……偉そうに……」
「……ううん」
だけど、焦る私とは対照的に、千雪さんは穏やかに微笑んでいて。
「……ありがと」
私の好きな笑い方をして、私を見つめてくれた。
それがやっぱり、泣きそうなくらいに綺麗だった。
第九話『愛歌トキメキ! 千雪にアコガレ熱視線!』
その5 騙す
teller:小枝 こずえ
気がつけば、もう5月。
本来ならお父さんとお母さんが料理修行から帰って来てもいい頃の筈だけど、どうも修行が長引いているらしい。
生活費はまだ残してもらえているけど……二人とも、元気にしてるのかな。
いつも明るく前向きなお父さんとお母さんだけど、さすがに心配になってしまう。
「ねえ、こずえちゃん」
唐突に名前を呼ばれて振り向くと、スーパーの袋を片手に提げた千雪さんが立ち止まっていた。
辺りが夕焼けに染まる中、千雪さんの長い黒髪が靡く。
その様が、何とも綺麗だと思った。
千雪さんは、私の夕ご飯の買い出しの手伝いをしてくれている。
何度も遠慮したのだけれど、『食べさせてもらってる身だから』と千雪さんも頑なに譲らず。
こうして、二人でスーパーの袋を分担して持ちながら家路に着いている。
そんな千雪さんは、何故か今はひどく険しい表情をしていて。
千雪さんが、ゆっくりと口を開く。
「愛歌ちゃんってどんな子?」
愛歌ちゃん。
予想外の言葉に目を丸くしてしまう。
千雪さんと愛歌ちゃんの間に、私が知らない内に何かあったのだろうか。
不思議に思う気持ちはあったけれど、とりあえず疑問に答えようと、私も口を開く。
「愛歌ちゃんは……凄く明るくて、人懐っこくて……とっても可愛らしくて華やかな女の子です……」
頭に浮かんだままの感想を伝えた。
それでも千雪さんの表情は難しいままで、私はどう補足説明を入れたものか思案してから、おずおずとまた声を発した。
「あと……あの、愛歌ちゃんはアイドルを目指していて……私はその夢を、凄く応援しています……」
「……アイドル、かあ」
ぽつりと呟いて、千雪さんは一瞬夕空を仰ぐ。
それから千雪さんは、道端に落ちていた小石をころん、ころんと蹴りながら歩き始めた。
「やっぱり私とは、何もかもが違うや」
「違う……?」
「愛歌ちゃんがさ、私に憧れてるって言ってくれたんだ」
心なしか、千雪さんの声のトーンがいつもより落ちていた。
千雪さんが蹴った小石がまた、道を転がる。
「でも私、憧れられる資格なんてない。モデルなんてやりたくもなかったし、そんな姿を憧れられても困るっていうか……申し訳ないんだ。……私、愛歌ちゃんの他にも沢山の女の子騙してきたのかなあ……」
「だ……騙してなんかいません……っ」
思わず、少し大きな声を上げてしまった。
千雪さんもさすがにびっくりしたのか、足を止め、目を丸くして私を見ている。
途端に大声を出したことが恥ずかしくなったけど、私はそれでも千雪さんに伝えたくて、途切れ途切れの口調でも、言った。
「千雪さんが望んだ形じゃないとは思うんですけど……千雪さんが女の子たちに夢を与えたのは事実だから……それは……千雪さんにとって誇っていい部分だと……私は思います……」
そこまで言って、はっとする。
私、何を言ってるんだろう。
千雪さんの苦しみも、時折見せる彼女の影も、何一つ理解していないくせに。
「ご、ごめんなさい……偉そうに……」
「……ううん」
だけど、焦る私とは対照的に、千雪さんは穏やかに微笑んでいて。
「……ありがと」
私の好きな笑い方をして、私を見つめてくれた。
それがやっぱり、泣きそうなくらいに綺麗だった。
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