魔闘少女ハーツ・ラバーズ!

ハリエンジュ

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第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』

その5 歪んだ愛情

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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』
その5 歪んだ愛情


teller:穂村ほむら ミク


 小学校からの帰り道を、一人歩く。
 たった一人で、一人ぼっちで。

 ぼくはいつも一人きりだ。
 血縁上はぼくの父と母にあたるあの人たちが、ぼくの世界を奪ってから。
 ぼくから大切な友達を、友達がいる温かい世界を奪ったあの人たちを、両親と呼びたくはない。
 彼らは、たまたまぼくをこの世に産み落としただけの人たち。
 憎いと思ったこともあったけど、最近ではもう何だか、どうでも良くなってきた。
 無関心というか、感情が麻痺しているというか。
 年々ぼくの心が死に行く音が聞こえるのは、気のせいじゃないと思う。

 でも。

 ふと、立ち止まる。
 5月の心地いい風が、吹き付けてくる。

 彼と――ネスと交流している時。
 その時だけ、ぼくの心は僅かに動いている気がする。

 それはきっと、彼がぼくらの敵だから。
 ぼくの苦しみを終わらせてくれる人だから。
 ぼくを――ぼくの友達の元に、送ってくれるかもしれない人だから。

 だから期待してしまうし、希望だって抱いてしまう。
 彼を応援してしまう。

 でも彼はぼくを見る時、何だかひどく悲しそうな顔をする。
 同情しているような、迷っているような。

 そんな顔、しないでほしい。
 そんな優しい想いは要らないから、冷酷に、無慈悲に、ぼくから全てを奪い去ってほしい。
 そうすることで、ぼくはやっと救われるのだから。

「――穂村ミクちゃん?」

 突然。
 名前を呼ばれた。
 自然と足下を見ていた顔を上げると、不思議な人が立っていた。

 毒々しい程に鮮やかな桃色の髪、黒い猫耳と尻尾、これまた黒いゴシックロリータ調のドレス。

 何かの、コスプレだろうか。
 この人、どうしてぼくの名前を知っているんだろう。

「きみ、誰?」

 とりあえず、訊ねてみる。

「ネスくんの、友達みたいなもの」

「……ネスの?」

 そう言われてみれば、服装がそれっぽいかもしれない。
 じゃあ、このお姉さんもぼくたち地球人の敵なんだろうか。
 お姉さんが、ゆっくりと口を開く。

「貴方、ネスくんのこと好きでしょ」

「少なくとも、他の人よりは」

 否定はしない、動揺もしない。
 ただ淡々と、ぼくの事実を述べる。
 ネスのことは、別に嫌いじゃない。
 それだけ。
 たったそれだけ。

「ネスくんのこと、愛してるでしょ」

「愛してはいない」

 それは、ちょっと違うと思う。
 だから今度は否定をした。

 ぼくはもう、誰も愛さないと決めた。
 こんな世界に何も期待をしないって、とうの昔に決めたんだ。
 世界の無価値さを、わかってしまったんだ。

「――嘘」

 静かな声が、ぼくを襲う。
 何故か、呼吸が止まりそうになった。
 同時に、金縛りに遭ったかのように身体が動かなくなる。
 視線が、桃色のお姉さんから逸らせない。

「貴方は誰かを愛してる。何かに焦がれて止まない顔をしてる。私にはわかる」

「……違う」

 何だろう。
 胸がざわざわする。

 動揺してる?
 嘘、そんなはずない。
 だって、ぼくの心はもう死んでるんだから。

 でも、確かに頭の中で警鐘が鳴っている気がする。
 早く逃げ出したいのに、足が全く動かない。

 お姉さんが近付いてきて、ぼくの両頬に手を添える、触れる。
 体温が、いやに冷たかった。

「私が、貴方の愛を解き放ってあげる。私はアガペラバー。黒のハーツ・ラバーにして純愛のハーツ・ラバー。……おいで、エモーション」

 こつん。
 アガペラバーと名乗ったお姉さんの額が、ぼくの額に触れる。

 瞬間、心臓が一気に騒ぎ出した。
 かつてない動悸、かつてない感情の昂ぶり。
 想いが搔き乱される、死んでいた心が無理矢理叩き起こされる。

 ぐるぐる、ごちゃごちゃ。
 頭の中が、もうわけがわからなくなる。
 視界に、黒い靄のような物が現れる。
 それらは簡単にぼくの四肢に纏わりつき、飲み込み――。

「……いやっ……」

 不快感で一杯になったかと思えば、ぼくはそのまま靄に縛り付けられて。
 振り返ると、黒い塊。
 ぼくは、この塊に磔にされていた。
 同時に、声が聴こえる。
 泣き叫ぶような、悲痛な声。
 その声は――紛れもないぼくの、声だった。

『会いたい……会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい!!!!』

 塊が叫ぶ。
 ぼくの声で。
 ぼくは、そんなこと思ってないのに。

 愕然としてる中、アガペラバーは呟いた。

「さあ、早く来て。ハーツ・ラバー」

 その瞳に、ハイライトなんてなくて。
 闇しかないのに冷たくない、熱を含んだ瞳で、彼女は言った。

「――私の愛の力で、全部飲み込んであげる」
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