魔闘少女ハーツ・ラバーズ!

ハリエンジュ

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第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』

その7 助けたい

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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』
その7 助けたい


teller:小枝さえだ こずえ


「愛歌ちゃん! ゼロットさん!」

「こずこず、しぃちゃん、ちー姉!」

「やっと来やがったか!」

 私と詩織ちゃんと千雪さんは、一足先にアニマの出現場所に着いていた愛歌ちゃんとゼロットさんの元に慌てて駆けつけて、今ようやく合流したところだ。

 携帯電話に連絡が届いた時は、心臓が跳ねた。
 戦うのはやっぱりまだ怖いけど、今日も私は、私の大切な世界の為に頑張らなきゃ。

「ちょっと……何、あれ……」

 声を上げたのは、千雪さん。
 千雪さんの視線を追って顔を上げて、私も息を呑む。

 空に、黒い、どこまでも黒いハートマークが浮かんでいた。

 あれが、今回のアニマ……?

「ねえ……真ん中に女の子が磔にされてない……!?」

 詩織ちゃんの声で、中心部に括りつけられている人影にようやく気付く。

 栗色のボブショート、緑色のヘアピン。
 それは、私が良く良く知っている姿で。

「ミクちゃん……どうして……!?」

 穂村ミクちゃん。
 私が、何故か放っておけない女の子。
 その子が、アニマに囚われていた。

 心臓が、嫌な意味で高鳴る。

「こずこず、あの子のこと知ってるの?」

「うん……」

 知り合いと言えば、知り合いだ。
 だからぎこちなく頷くと、愛歌ちゃんが私の顔を覗き込んで、笑いかけて。

「だったら、絶対に助けなきゃね!」

 少し、呆気に取られてしまった。

 どこまでも前向きな愛歌ちゃん。
 明るく優しい女の子。私の、大好きな友達。
 愛歌ちゃんがいつもみたいに笑ってくれると、凄く安心する。
 こんな私でも、なんだってできそうな気がする。
 だから。

「……うん……!」

 今度は、はっきりと力強く頷いた。

 ミクちゃんには、確かに拒絶されたけど。
 『嫌い』だと言われたけれど、悲しかったけれど、辛かったけれど。

 私――やっぱり、ミクちゃんを諦めたくない。

 そんな私を見て、愛歌ちゃんは満足そうに笑って。
 詩織ちゃんは、片手にラブセイバーを出現させる。

「みんな、行くわよ!」
 
 凛としたその姿に、つい惚れ惚れとしてしまう。

「オッケー!」

 千雪さんも笑って、ラブセイバーを構える。
 私と愛歌ちゃんも、それに続いた。

「ハーツ・ラバー! アイ・ブレイク・ミー!」

 私達は、揃ってラブセイバーを自らの心臓に突き刺した。
 胸が熱くなる、輝いた空間に一瞬身体が浮く。
 気付いたら服装がいつものドレスに変わっていて、変身が完了していて。

「小さな体に満ちる勇気! 炎の戦士・ブレイブラバー!」

「はしゃいじゃえ! 楽しんじゃえ! 歌の戦士・カーニバルラバー!」

「恋する乙女の底力! 氷の戦士・ロマンスラバー!」

「全部ぶっ飛ばす無敵の拳! 魂の戦士・シャウトラバー!」

 変身を終えて名乗りを上げた私たちは、ミクちゃんを捕えているハート型アニマと対峙する。
 どこから攻撃しよう、と考えていた頃。

 目の前に、ふっと突然、一人の女の子が現れた。

 桃色の髪、黒い猫耳と尻尾、黒いドレス。
 ハイライトの無い、ぼんやりとした瞳。
 彼女の纏うドレスは、私たちハーツ・ラバーの物と似ている気がした。

 女の子が、口を開く。

「はじめまして、ハーツ・ラバー。――と言っても、私もハーツ・ラバーだけど」

 私も、ハーツ・ラバー?
 どういう意味だろう。

 私が困惑していると、ゼロットさんが叫んだ。

「アガペ……!!」

 アガペ?
 それが、この人の名前なんだろうか。

 ゼロットさんから視線を移し、アガペさんを見る。

 その時、私は思わず戦慄した。
 彼女が、ぼうっと熱の籠った瞳でゼロットさんを見つめていたからだ。

「ダーリン……会いたかった……」

 彼女の瞳から、彼女の纏う空気から感じるのは、焦げ付くような愛情。

「ダーリン……ダーリン、ダーリン、ダーリン……愛してる……愛してるわ……」

 うわ言のように、熱に浮かされたようにアガペさんは愛の言葉をひたすらに吐き出す。

 何だろう。
 たったそれだけのことが、何故だかひどく恐ろしく感じてしまう。

「だ、ダーリンって……ゼロット、あの子、貴方の何なの?」

 詩織ちゃんの問いかけに、ゼロットさんは少し黙ったあと。

「……何でもねえよ」

 吐き捨てるように、そう言った。

 ど……どう見ても、何でもないようには思えないんだけど……。

 ゼロットさんとアガペさんの関係は気になるけど、でも、それよりも先にミクちゃんを助けなきゃ。
 なんて、考えていた時だった。

「おい、アガペ!!」

 アガペさんの横に、大きな人影が現れた。

 ――ネスさん。
 いつも私たちに容赦のない敵意を向けて来るネスさん。

 だから、一瞬びくりと身が竦んでしまったのだけれど。

「何でミクなんだよ!? 別にあいつじゃなくても良かったじゃねえか!!」

 ……え?

 ネスさんは、予想外の台詞を口にした。
 何で、ネスさんがミクちゃんの名前を。

「だって、私が一番愛を感じたのはこの子だもの」

 アガペさんが、悪びれもせずに告げる。

「……愛……?」

 思わず聞き返すと、アガペさんは私をじいっと見つめて告げた。

「そう、私は純愛のハーツ・ラバー、アガペラバー。ヒトは誰しも心の奥底に愛を隠してる。私の力はそんなヒトの本当の愛情を――本音を解き放つ力。こんな風に」

 そう言うなり、アガペさんが手を組んで祈り出す。
 途端にハート型アニマが振動し――声が聴こえた。

『会いたい……会いたい会いたい会いたい会いたい、会いたい!!』

 この声は知っている。
 ミクちゃんの声だ。
 でも、ミクちゃんはこんなに感情的に叫ぶ子だっただろうか。

 視線をやれば、アニマに磔にされたミクちゃんが苦しそうに呻いているのが見えて。

「ミクちゃん!」

 その間も、声はずっと鳴り止まなくて。

『一人は嫌、一人は嫌、一人にしないで……っ!!』

「ちがう……っ!」

 『声』に被さるように、ミクちゃんが叫ぶ。
 初めて聴いた、ミクちゃんの大きな声。

「こんなの、ぼくの本心じゃない!!」

 叫ぶミクちゃんを見て、ずきりと胸が痛む。
 ミクちゃんの顔を見て、私ははっとした。

 ――泣いてる。

 涙がぼろぼろと溢れ、ミクちゃんの頬を伝っていた。
 アガペさんの横に居たネスさんが一瞬息を呑んだように見えたのは、気のせいだろうか。

 ……ううん、今はそんなこと気にしちゃいられない。

「ミクちゃん!!」

 ミクちゃんを、助けなきゃ。
 高く高く飛び、アニマに殴りかかろうとする。
 だけど。

「無駄だよ。そんな拳じゃ、私の愛の壁には届かない」

 アガペさんがぱちんと指を鳴らすのが視界の端に見えた。
 かと思ったら、目の前にバリアのような壁が出現して。
 私の全てはバリアに弾かれ、拳はアニマの表面には届かない。
 勢い良く、身体が地面に叩きつけられる。

「ブレイブちゃん!!」

 シャウトさんが駆け寄り、私を抱き起こしてくれる。
 その間にカーニバルちゃんとロマンスちゃんがそれぞれアニマに向かって行ったけど、全てアガペさんが作った見えない壁に阻まれて攻撃は届かなかった。
 カーニバルちゃんとロマンスちゃんが、バリアに弾き返されて、倒れ込む。
 息を切らす二人の姿を見ていたら、胸が痛くなった。
 シャウトさんも、悔しそうに舌打ちをする。
 攻撃したいけど、あのバリアを何とかしないと。

 私たちが策を巡らせている間に、ミクちゃんの心の声が大きくなる。
 まるで超音波のようなそれが、激しく鼓膜を揺さぶってくる。

『寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい……』

 これが、ミクちゃんの本心なの?
 全てに心を閉ざしているようで、本当は孤独感に押し潰されそうだったの……?

 孤独。
 孤独の辛さなら、私もわかる。
 鈴原くんが出会ってくれるまで、私はずっと寂しかったんだから。

「もうやめろ! アガペ!」

 ゼロットさんが叫ぶ。
 それでも、アガペさんは首を横に振った。

「やめない。ごめんね、ダーリン。でも、これもダーリンの為だから」

 アガペさんの言葉に、ゼロットさんが押し黙る。
 次の瞬間、シャウトさんが舌打ちして。

「……ち、くしょう!!」

 とうとう痺れを切らしたのか、シャウトさんがアニマを蹴り飛ばそうとする。
 だけど空中に発生したバリアで足を滑らせて、急速に落下してしまった。
 シャウトさんが地面に沈む音が響く。

 気がつけば、私たちハーツ・ラバーはみんなボロボロで。

「ミク……ちゃん……」

 倒れたままアニマに手を伸ばしても、勿論届く筈もない。

「――もうやだ」

 声が、聴こえた。
 でも、心の声なんかじゃない。
 これは、ミクちゃんが自発的に発した声だ。

「くるしい……苦しいよ……」

 ミクちゃんが、また、泣いている。
 大粒の涙を零して、弱々しく泣いている。

「もうやだ……ぼくを見ないで……こんな苦しい思いするくらいなら……消えちゃった方がマシだよ……」

 その台詞を言った途端。
 ハート形のアニマが、より一層激しく振動した。
 アガペさんが、呟く。

「そう、そのまま愛に飲み込まれて……楽になって」

 飲み込まれる?
 嫌な予感がしてミクちゃんを見たら――胸が、ざわっとした。

 ミクちゃんの身体が、ずぶずぶとアニマの中に沈んでいる。
 彼女が完全に取り込まれたら、どうなってしまうんだろう。

 痛みも苦しみも無視して立ち上がって、私は衝動的に駆け寄ろうとする。
 だって、だって、まだ諦めたくない。あの子を、助けたい。

 その時‎だった。

「――――ミクッ!!!!」

 ネスさんが、突然叫んで。
 ミクちゃんに向かって手を伸ばして――彼は何の迷いもなく、ミクちゃんの元に、アニマの中に飛び込んで行った。
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