魔闘少女ハーツ・ラバーズ!

ハリエンジュ

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第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』

その9 未来

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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第十一話『未来を夢見て! フューチャーラバー誕生!』
その9 未来


teller:穂村ほむら ミク


 ぼくは、目の前の光景に言葉を失っていた。
 もう二度と会えないと、見えないと思っていたぼくの友達。
 みんなが、一斉にぼくの前に居る、居てくれる。

『ミクちゃんっ』

 みんなの中から一歩前に出て来たのは、浴衣を着た8歳ぐらいの女の子。
 ぼくが一番仲が良かった友達――さゆり、だった。

「さゆり……何で……」

『私たち、ずっとミクちゃんを見てたよ。ずっとミクちゃんの傍にいた。ミクちゃんが、私たちのこと見えなくなっても、ずっと』

 その言葉に、台詞に、思わず叫んでしまう。
 怒鳴るような声。
 みっともなく歪んでるだろう、ぼくの顔。

「何で、今更……っ!」

 なんで今更見えるの。
 今までずっとずっと、何も見えなかったじゃないか。
 何も、応えてくれなかったじゃないか。

 それでも、叫ぶぼくに向かって、さゆりは笑っていた。

『ここが、ミクちゃんの愛の世界だからだよ。誰かに、ミクちゃんがしまっていた愛が呼び起こされたの。ミクちゃんがずっと私たちを愛してくれてたから、愛の奇跡が起きたの。だから、またこうして会えたんだよ』

 彼女のそんな台詞を聞いた途端。
 堰を切ったように感情が溢れ出した。
 涙が、零れた。

 嬉しいような、苦しいような不思議な感覚。
 叫んだのが、怒鳴ったのが馬鹿らしくなるくらい。

 今更、彼らに会えたことを――心が喜び始めている。

 ああ、なんだ。
 ぼくの世界は、まだ消えてなんていなかったんだ。

「ごめん……っ、ごめん……ぼく……気がつかなくて……」

『ううん、いいの。それが本当の、あるべき世界の姿だから』

「……え……?」

 さゆりが微笑む。
 どこまでも優しく。
 そんな優しい表情のまま、さゆりはぼくにとっては残酷な言葉を言う。

『ミクちゃんは、私たちなんて見えない方がいいんだよ』

「……なんでっ」

 反論しようとした瞬間、さゆりに抱き締められる。
 何の体温も感じないけど、ぼく、さゆりに触れてる、触れられてる。
 それだけで、ぼく、嬉しいのに。

『私たちね。ミクちゃんには、今、を生きてほしい。ミクちゃんには、私たちと違って未来があるんだよ。だから、ミクちゃんにだけは幸せになってほしい』

「……っやだ……!」

 駄々をこねる子どものように、ぼくは泣き叫ぶ。
 実際子どもだけれど。
 でも、ここまで幼いとは思っていなかったんだけどな。

「ぼく、このままがいいよ。ずっとみんなと一緒にいたいよ」

『ミクちゃん』

 窘めるように、さゆりに優しく名前を呼ばれる。
 その響きがあまりに穏やかで、また涙が溢れた。

『ミクちゃんはね、ミクちゃんが気付いていないだけで、たくさんの人に想われてる、愛されてる。だから、私たちがいなくなったって大丈夫なんだよ』

 みんなが、ぼくに近付いてくる。
 頭を撫でたり、手を握ったり、次々とぼくに触れてくる。
 まるで、これが最後みたいに。

 さゆりが、小首を傾げて笑った。

『生きてね。ミクちゃん。ずっと先の未来まで。……私たちの分まで。私たちは、ずっと見守ってるから』

 そう、さゆりが言った直後。
 光の世界が、崩れ始めた。
 蝋燭の火が消えるように、みんなの姿が次々と消えていく。

「やだ! 行かないで!! ぼくを、置いて行かないで!!」

 必死に手を伸ばす。
 ぼくも、みんなに触れようとする。
 ひとりひとり、名前を呼ぼうとする。

 目の前のさゆりを、抱き締めようとする。

 でも、ぼくの手は簡単に彼女の姿をすり抜けて。

『大好きだよ、ミクちゃん』

 最後に、そんな声が聴こえた。





「ミク! おい、ミク!」

 ネスの呼びかけに、はっと我に返る。
 気がついたら、ぼくはまた、あの暗闇にいた。
 光溢れる世界なんかじゃない。
 みんなの姿はどこにもない。

「ぼけーっとしてんじゃねえよ! ……って、何でお前何泣いてんだよ!?」

 ネスが、ぼくの顔を見てぎょっとする。
 涙が、幾粒も頬を伝って溢れて、止まなかった。
 ネスは少し戸惑った素振りを見せてから、大きな指でごしごしと乱暴にぼくの涙を拭う。
 それから、ぼくの両肩に手を置いてネスは叫んだ。

「いいか、よく聞け! お前の人生は! まだ長いんだよ! お前の物くらい、大事にしろよ!」

 ぼくの人生。
 ぼくの未来。

 考えたこともなかった。
 ぼくはずっと、みんなと過ごした過去に囚われていたから。

 さゆりは、ぼくが多くの人に想われていると言った。
 それは。
 ネスも――ぼくのことを少なからず想ってくれているんだろうか。

「……ネス」

 わざわざこんな闇の中にまでぼくに会いに来てくれた、ぼくたちの、人類の敵に、問いかける。

「ぼくは……未来に夢見てもいいのかな……」

「……はあ? ガキなんだから、そんくらいはしとけ。馬鹿」

 雑な答えだ。
 でも、それで十分だった。
 ぼくは――最初にきみが肯定してくれるなら、頑張れる気がするよ。
 息苦しいと思っていたこの世界でも、やっていける気がするよ。
 だって見えないだけで、ぼくにはみんながついていてくれるんだから。

 ネス。
 きみも、ぼくを見ていてくれるから。

 それなら、どこまでも。
 ――どこまでも、歩いてやろう。

 そう、誓った瞬間。
 どこからか緑色の光が飛んできた。
 ぼくの右手に収まったそれは、大きな剣の形をしていて。
 その剣に触れた瞬間、ぼくは今、自分が何を為すべきか、何を言えばいいのかがわかった、わかってしまった。

 だから。
 ――過去に囚われていた、自分を壊せ。

「ハーツ・ラバー! アイ・ブレイク・ミー!」

 頭に浮かんだ言葉を叫び、緑色の大剣を自分の心臓に思い切り突き刺す。
 途端に胸が熱くなって、でも痛くはなくて。
 ふわふわ、きらきらとした不思議な空間にぼく一人だけの身体が浮かぶ。
 服が捲れていく。
 その下から、緑色のドレスが姿を現す。
 ちょっと子どもっぽいデザインだとは思ったけど、悪い気はしなかった。

 次に目を開けた時は、ぼくもネスも、元の世界に居た。
 目の前には、ぼくという核を失った黒いハートマーク。
 足を地面に縫い付けて、ぼくは思い切り叫ぶ。

「……っ、未来を照らす優しさの光! 癒しの戦士・フューチャーラバー!」

 これが、ぼくの新しい名前。
 生きていく為に新しくスタートを切った――ぼくの、ハーツ・ラバーとしての名前だ。
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