つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~

ハリエンジュ

文字の大きさ
10 / 38
第二話『最愛の人よ』

その1 グラビティ・シスコン

しおりを挟む
★つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~ 第二話『最愛のひとよ』その1 グラビティ・シスコン

 死ねばいいのに。
 ……死ねばいいのに?
 未だかつて幸運にも俺の人生で言われたことのない一言に、俺は愕然としてその場に立ち尽くすことしかできなかった。
 クラスメイトの、牟田むた美冬みふゆに突如として言われた言葉。
 今まであまり交流がなかった上に、牟田弟はてっきり大人しいやつだと思っていたから、正直かなり驚いたし、とてつもなくショックでもあった。
 何だ?
 俺は、何をした?
 何か、牟田弟の気に障ることをしたのか!?
 どうしよう、全く身に覚えがない。
 俺の中二病っぷりがいよいよ鬱陶しくなったのか?
 いやしかし、だからと言って殺意まで……。
 俺が悶々と考えていると、背後からぽん、と肩を叩かれた。
 ぐるぐるの思考のまま振り向くと、気遣わしげにこちらを見下ろす志久しく次郎じろうが立っていた。

「神室? どうした? 水飲み場に行くんじゃなかったのか?」

 志久は牟田弟の姉、すなわち牟田美夏の彼氏だ。
 志久なら、牟田弟のことを少しは何か知っているかもしれない。
 俺は未だに冷静じゃない頭で、なおかつ震える声で呟いた。
 最早いつもの中二病キャラを貼り付ける余裕もない。

「……牟田弟に……いきなり、『死ねばいいのに』って、言われた……」

 そう言うと、志久は『あー……』とばつが悪そうな声を上げて、ぽんぽん、と俺の肩を二回ほど叩いてきた。

「そりゃ災難だったな。美冬はな、重度のシスコンなんだよ」

「シスコン?」

「姉の美夏が、好きで好きで仕方がないっつーわけだな。ありゃもう崇拝に近い。だから美夏と仲良くしてたおまえが、気に食わなかったんだろ」

 仲良く……仲良くしてたか?
 俺と牟田が?
 いまいち実感が湧かない。
 こういうの友達っぽいな、とぼんやり嬉しく思ってはいたが、牟田弟の判定は相当厳しいんじゃないだろうか。
 志久は自分の頭を雑に掻いて、少し気まずそうに言う。

「まあ、実を言うと美夏の彼氏の俺も何回か美冬には暗殺されかけてる」

「暗殺!?」

 学校という空間では俺の妄想の中でしか浮かんでこないし聞かないんじゃないかってくらいの物騒な単語に俺が素っ頓狂な声を上げると、志久は苦く頷いた。

「とりあえず、毒を盛られる、罠を仕掛けられるとかは日常茶飯事だな。やれやれ……」

 ど、毒。
 どうやって調達しているんだ。
 そして牟田弟は何者なんだ。

「俺は丈夫だから何とかなってるけど、おまえはちょっと危ないかもな。南雲はともかく、美夏にはあんまり近付かない方がいいかもしれない。まあ、俺からもフォローは入れるようにするよ」

 丈夫だからって理由で毒とか罠とか何とかなるもんなのか。
 もしかして、志久って普通そうに見えてかなり凄いやつだったりする?
 椋と友達になれて薔薇色の学園生活が送れそうだったのに、早くも波乱の予感が訪れてしまったことに俺の心臓は早鐘を打つ。
 とりあえず、俺を心配してくれているのだろう志久に礼を言おうとした時。

「あ……あの、神室くん……」

 第三者の、声が響いた。
 女子の、弱々しいか細い、けれど綺麗な声。
 振り返ると、天然色の茶髪を一つの三つ編みにまとめており肩から前に垂らした、椋同様眼鏡をかけて、でもどちらかと言うと背は高めな大人しそうな女の子が立っていた。
 クラスメイトの、神戸こうべ愛理あいりだ。
 神戸と話したことは今まで全くない。
 牟田弟以上におとなしい女子だと思っていたから。
 でも、神戸は今こうして俺にどういうわけか話しかけていて。

「……ちょっと、いいかな……?」

 困ったように眉を下げて問いかける神戸に、思わず頷いてしまったのが、更なるトラブルに巻き込まれるきっかけだなんて――わかる筈も、ないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...