俺がいなくても世界は回るそうなので、ここから出ていくことにしました。ちょっと異世界にでも行ってみます。ウワサの重来者(甘口)

おいなり新九郎

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9 自覚がなかったの?

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アウロンド装具店 ーステラー

 何年ぶりにこの店に帰ってきたか・・・・。ずいぶんと、様変わりしたものよ。
 妾があの家に仕事に出た時は、エマルがまだ若かったし、女将アンナも元気だったな。

「おお、ステラ。店番ありがとう。朝から久しぶりに美味いものをしっかり食ったわ。」
「ふふ、美味しかったでしょう?」
 エマル、年をとったな。まぁこの男だけはそれは関係ないのだけれど。

「改めて紹介するよ。孫のエミルだ。」
 ふうん、この子がエマルとアンナの孫か。
「エミルです。昨日はどうも。」
 ふふふ、冴えない振りをしているが、なかなかの食わせ者よ。

「こちらこそ、昨日はごめんなさいね。私のことは、おじいさんから聞いているのね?」
「はい、少しは・・・。」
「私の正体はあれよ。」
 妾は壁に掛けてある盾付きの籠手を指差した。

 そう、妾は宝の化身。うん、昔話にあるランプの精のような感じかな。

 宝としての名は「海星の涙ステラマリス

 星の海を渡る龍の姫の一人。
 涙という名は、龍の涙が海に落ちる時、その波紋は大きな波となるから。

 天界の主神、震主ふるえぬし様の系譜たる龍の落とした涙が私達。
 故に、父神から「震拳」を授かっている。その音は天をも揺るがす波。

 そして、この右目に宿るは紅き瞳。この世界でたった三つの破邪の瞳。

「おどろいたでしょう?」
「ええ、まぁ。酔っぱらって夢でも見たかと思ってました。」
「なんか、幽霊でも見るような目で私を見てたじゃない?」
「いや、暗い中、ビックリしただけなんです。」
 あはは、あの時のこの子の顔ったら、思い出しただけでも笑いが出る。
「クララが帰りがけに私に手を振ってたものね。バイバイ!ユーレイさんって。」
「あはは、面目ないです。」
「エミル、敬語はいらないわ。私の方が見た目はずいぶん若いんだから。」
「うん。」

「ところで、ステラよ。どうして帰ってくる気になったんだい?」
「それはエマル、よこしまな者が去ったからよ。」
「なるほどな・・・。」
 エマルは孫のエミルの左足をポンと叩いた。
「なんだよぉ、じいちゃん。」

「しばらくは様子を見て問題なかったからね。それで帰ることにした。」
 エミルが首をかしげている。
「話が見えないんだけど。じいちゃん。」

「ふふ、それはの。エリーさんも知らないことなんじゃが、ステラはアルとクララの父親の持ち物ではないんじゃよ。」
「ええ?どうゆうこと?じゃあ誰のものだったの?」
 じいさんのエマルは椅子に腰かけて手を振る。
「まあぁ待て。ワシじゃ。この店のもの。」
 孫のエミルは思いっきり納得のいかない顔をする。
「はああぁ?自分のモノなのに買い取るっておかしくない?」
 仕方がない。二人にお茶でも入れてやろう。

 二人をなだめて、それぞれにお茶と菓子を置いてやるとやがてじいさんが話し始めた。
「アルとクララの父親はな、優秀な聖騎士だったんじゃよ。あやつはこのラーナリー周辺で暴れまわるアッケーノを裏で操る魔王を探っていた。危ない仕事じゃ。家族への報復や危害が及ぶことも心配があった。ある日、彼はワシに相談に来たのだ。邪を払う武器などはないかと・・・。」
 
エマルと目が合った。あんまり悲しい目をしないで、エマル。

「それで、ワシはステラに頼んでその聖騎士の所へ行ってもらうことにした。貸し出しという形でな。いくらワシでもアークはホイホイ売れんのでな。魔王の調査は佳境に入ったらしい。根城を突き留めたんじゃ。踏み込んだ行動が必要になった。しかし何故か、彼はその時にステラを連れては行かなんだ。」
 エマルじいさんは首を振って茶をすすった。
「そこは、私が知っている。彼は、聖騎士ジャスティンは私にこう言ったんだ。」
「ジャスティンだと?」
「知っているのか?エミル?」
「ああ、冒険者時代のラーナリー方面での仕事仲間だよ。凄く確度の高い情報をいつも寄こしてくれた。俺達パーティはサナの国全体で活動してたから助かってたんだ。・・・それで?」
 そう、ジャスティンはあの日こう言ったんだ。
「今日の戦いで、魔王との決着がつくこととなる。私は行かねばならない。しかし家族にも危害が及ぶかも知れない。私は知り過ぎたからだ。破邪の瞳よ、どうか家族を守ってくれまいか?と。そして子どもたちの手に触れないよう、物置に私を隠すと出て行ったまま帰らなかった。」
 エミルが左足を擦りながら言った。
「ジャステインが死んだのは一年前だな。」
「そうね。知っているの?」
「うん、俺がケガをした戦いだ。」
 そうだったのか。エマルじいさんからケガがもとで冒険者を辞めたと聞いたがその時なのね。
「ともかく魔王は討ち取られたけどジャスティンは帰らなかった。」

「魔王?」
 エミルの声が裏返っていた。
「は?魔王なんていたっけ?」
 何を言っているの?エミル。
「何か、そこら辺のアッケーノまとめてる角生えた牛みたいな中ボスいてさ。皆やられたんたんだけど、俺の槍の一撃でやっとこさ勝ったよ。だけどその角で太ももの腱をやられちゃってね。奇襲艇アーヴェでの立ち回りで皆に迷惑かけてもなんだしさ、それに中ボス程度にやられちゃうような実力だし、今後魔王が出てきた時には足でまといになるんで、冒険者辞めて今に至るんだけど。」

「そいつが、魔王じゃよ。自覚がなかったんか?」
 じいさんの言葉にエミルはキョトンとしている。

「エミル、あなた、敵が誰だとか知らないで戦ってたの?」
「うーん。その日、腹を下してて会議に出なかったんだよね。急な招集だったし、勢いでわーって行った感じ。ええ?アイツ魔王だったの?」
「なんとまぁ。」じいさんが呆れている。
「事前情報があったって、いざフタを開けてみると全然違うのがアッケーノとの戦いさ。戦い方は究極、現場で見て決めてた。ただ準備はきちんとするよ。できる限りのことをギリギリで判断して。定められたルールのない戦場だけどね。」

 仕方ない子ね。

「でも、それならどうしてエリーさんにお金をはらったの?」
 そうだよね。それは疑問だろうね。
「ああそれはね。エリーはクカイ病に侵されていて、ジャスティンが帰ってこなくなって生活が苦しくなってきていたのを影から見ていた。悪い奴は来ないことは分かったから、店に帰ろうと思ったけどジャスティンはもう帰らないでしょ?アーク本体を置いてあんまり遠くへ行けなくて困ってたの。それでアルとクララの前に夜、姿を現したってわけ。青白い顔でね。」
 二人を怖がらせるつもりはなかったけれど。
「二人に言ったの。物置から出てきたお父さんのバックラーをアウロンド装具店で売りなさい。そうしたら、お母さんを助けてあげるって。」

「それにの、ワシはジャスティンから、いろいろな情報を分けてもらっておった。商売から身に危険が及ぶ情報までの。その払いをする前にヤツは死におった。その対価を家族に払ったまでよ。ちと色を付けたのは、餞別せんべつじゃ。ワシやステラには、生きていく上で金などさほど重要ではないからの。」
 エミル、お茶のおかわりいれましょうか?
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