ネットの闇より来たるキョンシー ~憑依系配信者の受難~

月影 朔

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第26話 施設の静かなる鼓動

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 神理技術協会のサービス入口を抜け、俺と桜井は施設内部へと足を踏み入れた。外の空気とは打って変わって、中はひんやりとして乾燥している。廊下は白く、無機質で、人の気配はほとんどない。しかし、壁の向こうから、微かに機械の作動音や、規則的な電子音が響いてくる。そして、霊感には、外で感じた以上の、濃密で、人工的な霊的なエネルギーが、建物全体に充満しているのが感知できる。

「すごい霊気だ…外とは比べ物にならない…」

「訓練施設とか…実験場とか…?」

 桜井が、小声で囁く。ノートPCを起動し、施設内のネットワークにパッシブスキャンをかける。

『この建物、複数のセキュリティゾーンに分かれてます。最下層に、特に強固なセキュリティがかかってるエリアが…』

 最下層。地下通信施設のサーバーバンクがあったように、奴らの秘密はいつも地下にあるのか。

 人目を避け、監視カメラの死角を縫うように進む。廊下の角を曲がるたびに、緊張が走る。物理的な危険もある。警備員や、あるいは強化された存在が巡回しているかもしれない。

 最初の難関は、通路に設置されたセキュリティドアだ。デジタルロックがかかっているだけでなく、霊感に、ドアそのものが霊的なバリアを兼ねているのが分かる。不用意に解除しようとすれば、霊的な警報が鳴るだろう。

『デジタルロックです。解析には時間が…それに、霊的な護りも一緒に解除しないと…』

 桜井がノートPCとケーブルでドアのパネルに接続する。弘信さんの護符を手に握る。

「霊的な護り…護符で、霊的な周波数を合わせるのか?」

『あるいは…霊的な「鍵」を探すとか…Project Aikoのデータに、ヒントがあるかも…?』

 桜井はノートPCで、 Project Aikoのデータを一部表示する。データの断片に、古びた記号や、ネットワーク図のようなものが混じっている。霊感を集中させ、データから霊的なパターンを読み取る。それは、まるで古代の文字がデジタル化されたかのようだ。

 弘信さんに教わった、霊符の構造解析を応用する。このデジタル化された古代文字や図形が、霊的な「鍵」を示しているのかもしれない。霊的なパターンを組み立てていくと、ある特定の周波数、特定の「形」が浮かび上がる。

「これだ…このパターン…霊的な鍵だ!」

 桜井に伝える。桜井は、そのパターンを元に、ノートPCから特定の霊的な周波数を持つ信号を発生させるプログラムを作成する。

『信号発生させます!ドアの霊的なバチアと同期できるか…!』

 桜井がプログラムを実行。ノートPCから、かすかに、しかし霊的な波動を帯びた信号が放たれる。それは、デジタルロックのパネルに触れる。

 ドアの霊的なバリアが、一瞬、ピカッと光った。しかし、警報音は鳴らない。霊的な鍵が、受け入れられた?

『霊的な護りが…緩みました!今です!デジタルロックを解除します!』

 桜井がデジタルロックの解析を完了させ、ロックが解除される音が響いた。

 ガチャリ。ドアが開く。新たな通路が現れる。
 中に進む。霊的なエネルギーはさらに濃くなる。かすかに、人の話し声や、機械音が増してきた。研究室か何かがあるエリアだろうか。

 通路の脇に、窓がある部屋があった。覗き窓だ。霊感を集中させ、中の様子を探る。部屋は、広々とした研究室のようだ。白い床、最新鋭の機械、そして…白い防護服を着た数名の研究員。彼らは、ガラスの向こうにある、大きな、水槽のような装置を囲んでいる。装置の中には、液体が満たされており、その中で、**人間の形をした、しかし酷く歪んだ「何か」**が、微かに蠢いている…!

 霊感に、その「何か」から、強烈な苦痛と、実験体としての怨嗟が流れ込んでくる! Project Aikoの被験者か!? あるいは、そのデータが生み出した存在か!?

 ぞっとする。ここで、Project Aikoの実験は、まだ、続いている。

 部屋の中の研究員たちは、冷たい、無感情な声で話し合っている。

「…ユニットXXの安定性は…」
「…共鳴周波数の調整を…」
「…次の段階へ…」

 ユニットXX? Project Aiko報告書にあった、 強化キョンシーを示すコードか!? 彼らは 強化キョンシーを、ここで製造、あるいは調整しているのか!?

「【無名の古参】:…探知…注意せよ…」

 Ghost_Source_Locatorのメッセージウィンドウに、師匠からの警告。見ている。師匠も、この光景を感知している?

 霊感を張り巡らせる。この部屋からだけでなく、通路の奥から、複数の、機械的で、冷たい霊的な気配が近づいてきている! 警備員か!? あるいは、警備ロボットのような強化された存在か!?

 隠れなければ。しかし、もう遅いかもしれない。

 研究室のドアが開き、白い防護服を着た研究員が一人、出てきた。その研究員の首筋に、不気味な、コードのようなタトゥーが見える。霊感に、そのタトゥーから、薄く、しかし神理技術協会特有の、あの人工的な霊的なエネルギーを感じる。彼ら自身も、霊的な技術で強化されているのか?

 研究員が、俺たちの隠れている方向に、ゆっくりと顔を向けた。その瞳に、感情は全く見えない。ただ、獲物を見つけたかのような、冷たい光。

「…誰だ…」
 低い、しかし響く声。

 見つかった。
 逃げるか? 戦うか?

 この先に、あの恐ろしい実験体がいる。そして、奴らは強化キョンシーを製造している。 Project Aikoの真実に触れるためには、この研究員を、そして、この施設の奥にある全てを、突き止めなければならない。

「桜井…!」

『はい!いつでも!』

 桜井はノートPCを構え、戦闘プログラムを起動する準備を完了している。弘信さんの護符を握りしめる。

 研究員が、無感情なまま、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。霊感に、彼の霊的なエネルギーが増幅していくのが分かる。物理的な人間だが、霊的な力で強化された、新たなタイプの敵だ!

 神理技術協会の内部での、最初の直接対決が始まろうとしていた。
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