ネットの闇より来たるキョンシー ~憑依系配信者の受難~

月影 朔

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第49話 桜井の視点:システムの穴

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 アークの監禁部屋に移されてから、数日が経過した。時間の感覚は曖昧だ。部屋に窓はなく、外界との繋がりは完全に断たれている。食事と短い検査の時間以外は、ただ一人。体は拘束されていないが、霊的な力は抑制されており、壁のセンサーが常に私の霊的な波動と、おそらく思考パターンまで監視している。

 でも、私はただ座って絶望しているわけにはいかない。悠人くんが…もし生きているなら…きっと私を探してくれる。そして、 Harvest 計画を止めなければならない。そのためには、まず、この状況を理解し、ここから抜け出す方法を見つけ出す必要がある。

 私は、私の武器である「観察」と「分析」を開始した。たとえノートPCがなくても、私の目は、耳は、そして脳は機能している。かすかな霊感と、技術的な知識。それが、私の唯一の頼りだ。

 監禁部屋の構造。壁の継ぎ目、床の材質、天井の換気口。霊感で、壁に埋め込まれたセンサーの霊的な波動パターンを読み取ろうとする。非常に微弱で複雑だが、特定の周波数で波打っているのが分かる。霊的な探知センサーだ。

 部屋の外の音。廊下を歩く足音のパターン。警備員、研究員、メンテナンス担当者…それぞれ足音も、発する霊的な気配も違う。彼らの巡回ルートや、交代の時間を推測する。定期的に聞こえる、特定の機械音や、霊的なエネルギーが脈打つ音。それは、おそらく Harvest 計画のプロセスに関わる音だろう。霊感に、遠くで、霊的なエネルギーが強制的に「収穫」されているような感覚が伝わってくる。ぞっとするが、それがアークの機能だ。

 食事を運んでくる警備員、検査を行う研究員との短い接触時間。彼らの顔には、感情がほとんどない。しかし、瞳の動き、声のトーン、そしてかすかに発する霊的な波動から、彼らが完全な霊的義体ではないこと…人間であること…そして、その中に、僅かな「揺らぎ」があることに気づき始める。彼らは、完全に洗脳されているわけではないのかもしれない。恐怖、疲労、あるいは、かすかな罪悪感のようなもの…それを霊感で、そして表情や仕草から読み取ろうとする。

 アーク全体のシステム。霊感で、施設の霊的なエネルギーの流れを感じ取る。それは、物理的な配線やネットワークケーブルと重なり合っている。霊的な力は、まるでネットワーク上のデータのように、決められた経路を流れ、特定のノードで処理されている。壁のセンサー、自動ドア、監視カメラ…それら全てが、霊的なシステムとデジタルネットワークに融合している。私が外で見てきた融合霊術が、ここでは巨大な施設全体として構築されている。

 私の技術者としての脳は、この融合されたシステムを理解しようとフル回転する。霊的なエネルギーはデータストリーム。結界はファイアウォール。霊符はアクセスキーや暗号化プロトコル。霊的な探知はネットワーク監視。 Harvest は、霊的なエネルギーという「リソース」を、ネットワークを通じて「処理」し、「分配」するプロセス。

 彼らのシステムは強固だ。しかし、システムである以上、必ず穴がある。バグがある。

 毎日繰り返されるルーチンの中に、微かな「ズレ」を探す。警備員の巡回ルートの僅かな変化。特定の時間帯に、霊的な監視が僅かに弱まる瞬間。メンテナンス作業の隙間。

 食事を運んでくる一人の警備員。他の者より、かすかに霊的な波動が不安定だ。そして、目を合わせる瞬間、一瞬だけ、恐怖のようなものが浮かんだ気がした。彼は… Harvest 計画の何かを知っている? あるいは、この状況に怯えている?

 私は、その警備員に、僅かな合図を送ってみた。食事のトレイに、食事とは関係ない場所に、意図的に小さな傷をつける。それが、私からのメッセージであることに気づくか? 気づいたとして、反応するか?

 数日後、その警備員が食事を持ってきた時、トレイの同じ場所に、新しい、しかし私とは違う傷がつけられていた。

 !

 彼は気づいた! そして…反応した!

 希望の光が見えた。神理技術協会という、冷たく巨大なシステムの中にも、完全に染まりきっていない人間がいる。彼らのシステムは完璧ではない。

 私は、その警備員との、目に見えない、声に出さないコミュニケーションを試みることにした。傷のパターン、食器の配置、ゴミの出し方…私の持つ、あらゆる技術的な思考と霊感を動員して、彼との間に、密かな「通信プロトコル」を確立する。

 同時に、監禁部屋の霊的なセンサーの隙間、霊的な波動が最も薄くなる瞬間を探し、外部との接触を試みる方法…あるいは、施設のシステムに干渉する方法を模索する。幽体離脱のような、精神的な方法でネットワークにアクセスできないか? 霊的なエネルギーを特定の周波数に調整し、外部のネットワークに「信号」を送る?

 Harvest 計画の恐ろしい音が、壁を通して聞こえてくる。桜井を救い出し、 Harvest 計画を止めるという悠人くんの無念。そして、アークにいるであろう桜井自身の安全。そのために、私はここで力をつけなければならない。アークのシステムを理解し、攻略方法を見つけ出す。

 監禁部屋の壁の向こうから聞こえる、霊的な波動処理の音。私は、その音を霊的なコードとして、私の脳に記録していく。それは、 Harvest のシステムを理解するための、最初の手がかりだ。

 桜井の、アーク内部での孤独な、しかしシステム解析と抵抗に満ちた戦いは、次の段階へ進む。監禁部屋という檻の中で、彼女は、神理技術協会の巨大なシステムの「穴」を探し始めたのだ。
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