転生したら鎧だったので、自分で動けない。だから呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します!

月影 朔

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第1章:忘れられたダンジョン編

第14話:ダンジョンの縄張り主

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(リリア……。なんだか、やべえのがいるぞ……)

 俺の魂から伝わる警報レベルの緊張に、リリアもまた息をのんだ。

 ジャイアントバットの群れを撃退した安心感など、一瞬で吹き飛んでしまった。

 俺の《共振探知レゾナンス・ソナー》がとらえる、ほらあなの奥からの「響き」。

 それはこれまで戦ったどの魔物とも、全く違うものだった。

 ジャイアントバットの超音波が甲高い高周波の音の集まりだったとすれば、今俺が感じているこの響きは、低く、重く、そして巨大なただ一つの振動源から発せられている。

 巨大な工場のプレス機が、大地そのものを揺らしているような、底知れない力を秘めた振動だ。

「アルマ、この霊素の圧……今までの魔物とはケタが違いますわ……!」

 リリアの魂もまた、その普通じゃない気配を《霊素視エーテルビジョン》でとらえていた。

(進むか、退くか)

 正直、今の俺たちの状態でこんな化け物と戦いたいとは少しも思わない。
 鎧はボロボロ、魂は疲れきっている。
 だが、退くという選択肢は安全なのか?

(引き返したって、さっきのゴブリンの残りが仲間を連れて戻ってるかもしれねえ。どっちに進んでも地獄なら、前に進むしかねえよな!)

 我ながらとんでもなく前向きな結論だった。
 しかしリリアもまた、俺のその狂気じみた決意に静かに頷いてくれた。

「ええ。わたくしたちの道は、常に前にしかありませんわ」

(決まりだな。行こうぜ、相棒)

 俺たちは覚悟を決め、通路のさらに奥へと足を踏み入れた。

 ◇ ◇ ◇

 一歩進むごとに《共振探知レゾナンス・ソナー》がとらえる「響き」は、より大きく、よりはっきりとなっていく。

 それと同時に周りの景色も、目に見えて変わっていった。

 湿った苔むした通路は、いつしか乾ききった硬い岩へと変わっていた。
壁には巨大な獣が爪をといだかのような、深く鋭い傷跡が無数に刻まれている。

 そして鼻をつく、かすかな硫黄の匂い。
まるで火山の火口にでも近づいているかのようだ。

 やがて狭い通路を抜けた先、俺たちの目の前に広大なドーム状の空間が広がった。

(なんだ、ここは……)

 地底湖のあったほらあなよりもさらに巨大な空間。
床一面が地熱で温められ、あちこちから立ち上る湯気が空間全体をぼんやりと照らし出している。

 そして、その湯気の向こう側、広場の中央にそれはいた。

「…………あれは……」

 リリアが息をのむ。
 彼女の魂から伝わってくるのは恐れ。そして絶望。

「《ロックリザード》……! 
この第一階層の『主』と呼ばれる、岩トカゲの王ですわ……!」

 小山のように巨大な影が、ゆっくりと動いている。

 全長は路線バス一台分はあろうか。
全身をおおうのは溶岩が冷え固まったかのような、赤黒く鈍い光を放つ甲羅。

 それはもはや生き物のウロコというより、鉱石の集まりと呼ぶべきものだった。

 巨大な脇腹が規則正しく、しかし地を揺るがすほどの迫力で上下している。

 そのたびにワニのように横に張り出した鼻先から、「シュゴーッ」という熱い息が白い湯気となって噴き出された。

 その周りにはゴブリンやコウモリのものだろうか、無数の真新しい骨が、食い散らかした残がいのように散らばっていた。

 間違いなくこいつが、このダンジョン第一階層の生態系の頂点。
この縄張りの絶対的な支配者だ。

 その圧倒的な存在感を前に、俺の魂は本能的な恐怖でカタカタと震えていた。

(やべえ……。
レベルが違う……!)

 ゴブリンとの連携戦を乗り越え、コウモリの群れを退けたことでほんの少しだけ芽生え始めていた自信が、こっぱみじんに砕けちる。

 あれはダメだ。
勝てない。
整備士の勘がそう告げている。

 あの分厚い装甲、あの巨体。ぶつかればこちらの骨格が一瞬で鉄くずになる。

 幸い、ロックリザードはまだこちらに気づいていないようだった。
どうやら食後の休みを楽しんでいるらしい。

 ◇ ◇ ◇

(今のうちだ。データを取るぞ、リリア! 奴が動く前にやれるだけのことをやる!)

 俺は恐怖で凍りつきそうになる魂にムチを打ち、スキルを発動させた。

 リリアも俺の決意をすぐに読み取り、彼女の《霊素視エーテルビジョン》を最大まで研ぎ澄ませる。

(《機構造解析》、起動!)

 俺の魂の探知機が、遠くからロックリザードの分析を始める。
脳内にその驚くべき防御力の秘密が、設計図となって描き出されていく。

(なんだこの装甲……!? 
単一の素材じゃないぞ! 
何層もの違う鉱物層が完璧なバランスで重なり合った、天然の複合装甲じゃないか!)

 前の世界の戦車の装甲もかくや、というほどの代物だ。
これでは普通の物理攻撃が通るはずがない。

「アルマ、わたくしも視えます……!」

 リリアの案内が俺の分析を強くする。

「全身にまるで分厚い城壁のように高い密度の霊素エーテルがたまっています……! 
ですがほんのわずか……関節や甲羅と甲羅のつなぎ目に、霊素の流れがよどんでいる場所がいくつかありますわ! あそこがおそらくは……!」

(弱点……!)

 どんなに完璧に見える機械にも、必ず設計上の弱点やつなぎ目がある。
それと同じだ。

 俺の設計図とリリアの回路図が、少しのズレもなく同じ「急所」を指し示していた。
勝てるかもしれない。いや、勝つチャンスはゼロじゃない。

(よし……。
このまま奴を起こさずに、静かに通り抜けるぞ)

 それが俺の出した結論だった。
いくら弱点が分かったからといって、こんな化け物と真正面から戦うのはバカのやることだ。

 整備士の基本は安全第一だ。

 俺が抜き足差し足で、この広場を通り抜ける完璧なルートを脳内で計算し始めた、その時だった。

「アルマ、ダメです……!」

 リリアが悲しそうな声を上げた。

「この先へ進む道は、この広場の向こう側にしかありません!
 あの魔物を避けて通ることは不可能ですわ……!」

(……マジかよ)

 彼女の言う通りだった。
このドーム状の広場は巨大な袋小路。そして唯一の出口は、ロックリザードが陣取るそのちょうど真後ろにしか存在しなかった。

 つまりこのダンジョンを先に進むためには、この縄張り主を倒すか、あるいはその横をすり抜けるか、二つに一つ。

(……詰んだか?)

 俺がどうすべきか考えていた、その時。

 ぴくりと、小山のように動かなかったロックリザードのまぶたが、ほんのわずかに動いた。

 そして溶岩のように赤く輝く巨大な片目が、ゆっくりと、ゆっくりと開かれる。

 は虫類特有の、縦に裂けた瞳。
 そこには何の感情も映っていない。ただ絶対的なハンターとしての、冷たい光だけが宿っている。

 その瞳がギロリと、まっすぐに、少しのズレもなく俺たちの姿をとらえた。

「――グルルルルルルルルルルルル……」

 地の底から響くような低い唸り声。
 空気が震える。

(見つかった……!)

 ロックリザードがその巨体を、ゆっくりと、しかし圧倒的な重さを感じさせながら起こし始める。

 その全身から放たれる霊素の圧が、ゴブリンやコウモリなど赤子に思えるほどの密度で俺たちに襲いかかってきた。

 戦いはもはや避けられない。

(やるしか、ないか……!)

 俺がボロボロの鎧の中でリリアと共に覚悟を決めた、その瞬間。

 ロックリザードは最後の警告とばかりに、天をつくほどのものすごい叫び声を上げた。
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