電車くん

旅里 茂

文字の大きさ
1 / 1

電車くん

しおりを挟む
 雨上がりのぽかぽか曜日。
サカ君はいつもの通りを一人で歩いていました。
少し進むと、ながーい無機質な壁がずーっと並んでいます。
これは、電車の工場だよと、親戚のお兄ちゃんに教わりました。
すると突然、「ピーッ!」という甲高い汽笛が聞こえました。

なんだろうとサカ君は足を止めて、壁の隙間から覗いてみました。
ちょっと見えにくいですが、幾つもある車庫の中に、一両の電車を見つけました。
出来立てのピカピカした車体が綺麗でした。
すると、その電車と目が合いました。
活き良いよく走り出して、サカ君の居る壁の近くの線路まで来て、「ぼく、電車くん、よろしくね」
ちょっと照れくさかったけど「ぼくは、サカ!よろしくね」と挨拶。
「サカ君か、いい名前だね」
電車くんは前後ろと見回したあと、サカ君に「ちょっと向こうの遮断機の所まで来て。」と言いました。
小走りで走り出したサカ君とあわすように電車くんも動きました。
遮断機の前で立ち止まると、電車くんがドアを開けて言いました。
「ちょっと乗ってみる?」
ワクワクする気持ちが抑えられなくて、サカ君は電車くんの内部に乗り込みました。新品のぴかぴかです。
嬉しさの余り、電車くんの中を走り回って、「発車するから席に座って」といわれました。
さぁ、いよいよ出発です。
信号を確認していよいよ出発です。
汽笛を鳴らして、電車くんがゆっくりと動き始めました。

ガタンゴトン。軽快に走り出した電車くんにサカ君が問い掛けました。
「電車くんは兄弟はいないの?」
「兄弟ならたくさん居るよ。僕と同じラインで作られた、牽引車のEFおじさん、夜走る寝台車のお兄さんやお姉さんたちだよ」
サカ君はその答えにいいなと思いました。
「僕ね、兄弟がいない一人っ子なんだ、兄弟いいな」
ちょっぴり羨ましく思ったサカ君でした。
「じゃ、僕がサカ君のお兄さんになってあげるよ」
サカ君はくすっと笑っていいました。
「電車くんの方があとから出来たんだから、弟でしょ」
少し考えた末に電車くんが答えました。
「そっか、そうだね。宜しく、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんか…。いい感じだね。
サカ君は上機嫌で電車くんもまんざらではないようです。
窓を開けたサカ君は、入り込む風の心地良さに浸っていました。
するとその瞬間、電車くん急ブレーキをかけました。
どうしたのでしょうか?
サカ君も心配になって電車くんに問い掛けました。
「子ネコ君が線路の上にいたんだよ。あーびっくりした」
ビックリしたのはサカ君も同様でした。
幸い、子ネコくんは怪我一つありませんでした。
サカ君が電車くんに話して、一緒に乗ろうといいましたが、子ネコ君は首を横に振りました。
お母さんネコとはぐれてしまったらしいのです。
事情を知ったサカ君と電車くんは、お母さんネコを見つけようと思いました。
同時にそういうと、同じことを考えていたことが判って大笑いです。
「子ネコ君、大丈夫!きっと見つかるよ」そう言ってサカ君が励ましました。
子ネコ君も今度は深くうなずいて電車くんに乗り込みました。
さぁ、お母さんネコを探す旅の始まりです。

サカ君が子ネコ君にこんな話をしました。
「僕ね、幼稚園の頃、迷子になってね、泣いていたんだ。そしたらネコさんが来て、ホッペをすりすりしてくれたんだよ。とっても暖かくてこそばかったよ。そしたら直ぐにお母さんに会えたんだ」
その話を聞いた子ネコ君は、サカ君のホッペにすりすりしました。
「あははは」子ネコ君も「うふふふ」とお互い笑い合いました。
すると窓から、小鳥さんが入ってきました。
「たいへんだ!たいへんだ!」と何事でしょう?大騒ぎです。
「お母様がお母様が!」
サカ君と子ネコ君は兎に角、小鳥さんに落ち着くように言いました。
「ゴメンなさい。お空を飛んでいる時に調子が悪いといって急降下して、ぐすん」
どうやら、大変なことが起きたみたいです。
サカ君は電車くんに言いました。
「どうしよう!小鳥さんのお母さんがいなくなっちゃたんだって!」
電車くんは少し考えているようでした。
そしてそっと言いました。
「大丈夫だよ。小鳥さんのお母さんは…」その時です。
凄い雷とともに大粒の雨が降り始めました。
開けていた窓からも大粒の雨が入り込んできたので、サカ君は慌てて窓を閉めました。
みんな少し心細くなってきました。
電車くんが先程言いかけたことを再開しました。
「小鳥さんのお母さんなら、郵便室のところを見てごらん」
みんながいっせいに郵便室に入りました。
すると綺麗な羽を持ったお母さん鳥が居るでは有りませんか
「お母様!」小鳥さんは涙を一杯に目にためて、近付きました。
でも反応が有りません。
心配でもう一度、小鳥さんが声をかけました。
すると、ふと目を覚ましたのでした。
みんなから歓声があがりました。
「娘、ゴメンね、体調が悪くて急降下したら、電車さんに助けられたの」
「え、そうなの?電車くん」
「うん、鳥さんが落ちてきたからとっさに窓を開けてそこに入れたんだ」
電車くんの機転で、小鳥さんのお母さんは無事でした。
「お母様、無事で良かった」
「心配かけてごめんね」
とにかく良かったとみんなホッとしました。
すると電車くんは急に止まったのでした。
「どうしたの?電車くん、何かあったの?」
「窓の外を見てごらん」
すると天気はすっかり晴れ渡っていて、先程の大雨が嘘みたいです。
「あ、お母さんだ!」
子ネコ君が叫びました。
子ネコ君のお母さんは、先に探しにここまで来ていたのでした。
「良かった、坊や、無事だったんだね」
子ネコ君は思い切り甘えています。
サカ君もお母さんに急に会いたくなりました。
「電車くん、僕もなんだか寂しいよ」
電車くんは頷いて、「よし!そろそろ帰るか」
そう言って電車くんはバックをし始めました。

電車くんとみんなが元の工場にたどり着いたのは夕方でした。
すると、線路脇にはサカ君のお母さんが、立っていました。
「お母さん!」
サカ君は思わずお母さんに抱きついていました。
うん、みんなお母さんに会えたね。
「電車くん、ステキな旅をありがとう!みんなにも出会えたしね」
「また、一緒に旅をしようね」
電車くんは夕景を望みながら、みんなと固い約束をしました。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

関谷俊博
2016.08.14 関谷俊博

面白かったです。就学前後の子どもは、きっと喜びます。

2018.12.03 旅里 茂

ご感想を頂きまして有難う御座います。

これは、私が中学生の頃に案を練っていた作品です。
永らく眠らせていた内容だったのですが、喜んで頂き
公開して良かったと実感しております。

子供たちが喜んでくれるのが一番、嬉しいです。

これからも、出来る限り色んな作品を制作していきたいと
考えております。

有難う御座いました。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。