黄昏の国家

旅里 茂

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探り合いの果て

黄昏の国家13

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日本海に展開中の一部のオプションは緊急対処の部隊を残して、撤退する事となった。
問題の衛星二機に全力集中させることが、何よりも最優先とされる。
時間は、あと二日を切った。
ニュートリノ・レーザーは稼働域を、衛星の降下軌道を照準として大幅に再設定し直された。
これをギークたちが、その卓越なる能力で照射してくれるのを信じるしかない。
また、その後の不安要素は、果たして放射物を無に出来るかという事だ。
全てが初めての事である。状況は高沢から角安に連絡が入る。
日本政府も、ようやく軍事衛星二機の確認が取れたようだ。
角安は中越総理に、緊急速報を神戸に出すことを要請した。
大気圏上で破壊できれば良いのだが、そのシステムが未だ構築出来ていない。
2028年にアメリカが、高出力レーザーを装備した衛星を打ち上げた。
ダミー衛星も打ち上げ、レーザーでの破壊を試し成功を収めた。しかし、その後に大きな問題が起きた。
情報が正確でなかった為、或いは意図的にそう操作されたのかも知れない。
ダミー衛星の破片がいわゆるスペースデブリとなり、ISSマーク2に直撃し、可成りのダメージを受け死者も二人出した事故が起こっている。
これを踏まえ、国連では衛星にレーザー兵器を搭載することを禁止する、スペース・ノー・ウォーセクターと言われる制度を導入し、各国が批准するよう定めた。
しかし、現状は自国の防衛の為と、その約束は反故にされている。
しばしば地球規模での対策を取ることがあるが、まともに機能した事が無い。
国連もまた、形骸化している。
アメリカは事故後、一旦衛星レーザーの搭載は凍結させたが、三年後には打ち上げを完了している。
勿論、ロシアやインドなど続けて打ち上げていた。
状況が分かってから水面下でアメリカに、中国の件の衛星二基を撃破して欲しいとの打診をしたが、既に軌道上、破壊してもその破片が広範囲に落ちる可能性があることが判明し急遽中止したのだ。
緊張感が高まる中で、衛星二機はほぼ、同列の軌道を辿って降下している。
誰しもが考えなかったことだが、中国政府からはコントロール不能を宣言しているが、実は制御しているのではあるまいか。
そんな考えが日本政府とオーイックスに広がり始めた。
オーイックスの総合管理センターでは、衛星のコントロール信号の解読を試みるも広域波で圧縮を掛けた通信の為、可成りのチャンネルを使っても捕まえることが出来ない。
やはりコントロールされている可能性が大だ。
しかし、中国への抗議は無駄だろう。そこで窓口として連絡を取れた唯一のものが、中国民主改革党であった。
表面上は、どれだけ弱体化はしたとしても、未だ勢力を持つ中国共産党が抑え込んでいる状況だが、各地域でレジスタンスが立ち上がっている現実がある。
そんな中国民主改革党に台湾を通して、アクセスを試みる事だった。
台湾の動きは俊敏であった。すぐにオーイックスからの連絡を通してくれた。
その結果、やはり中国共産党が衛星のコントロールを取っていることを突き止めたのだ。
オーイックスから日本政府に通して中国に抗議し衛星の安全コースへの軌道修正を伝えた。しかし、あくまで白を切る。
時は一刻と迫る。日本政府からオーイックスへ伝達が入る。中国との会話は破断した。高沢はその事実を静かに受け入れた。
最早、サキナたち、ギークたちに委ねるしかない。はじめから分かっていたことだ。
そう自分に言い聞かせた。高沢は角安に礼を言い、重い足取りで防衛ビッグ・マーカーに足を運んだ。
沢田が高沢の姿を確認すると、足早に近付いてくる。
「衛星二機の軌道状況をソート中です。あと十五時間程で大気圏に突入するかと思われます」
「判った、引き続き動向を綿密にチェックしてくれ」
「判りました」そう沢田は言って、少し間をあけ「私はまだ、ギークたちを信じておりません。ですが、今回のこの危機を脱することが本当に出来るのなら、私はギークたちを受け入れます」
高沢は頷いて、ギークたちの待つ軍需コントロール室に向かった。
そこでは、意識を回復した多田室長が椅子に座り、状況を確認していた。高沢に気付くと、「リュクスタ、申し訳御座いません、こんな緊急時に倒れまして…」
いささか自虐的な言葉使いだが、それには反応せずギークたちとの対応を正した。
問題なく意思疎通はしているとのことで、言葉上の形ではあるが、それはそれで好ましい。
軍需コントロール室は円形になっており、それに沿って椅子が並べられている。
ギークたちは静かに目を閉じていた。
時たま発する電子音が、やけに大きく聞こえる。
その時だった。サキナが静かに囁いた。
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