人口コントロール

旅里 茂

文字の大きさ
上 下
6 / 14
作戦

人口コントロール06

しおりを挟む
第五哨戒部隊のドアを開ける。其処には壁に貼り付けられた、開治少尉の亡骸があった。遅かった。やはり斉藤が何者かに操作されているのだ。
「すまん、開治少尉、貴様にも妻が居たのに…。仇は打つ」
「そうはいうが、大尉、敵の正体は判っているのか?」
確かに。沢渡は今回のミッションを提案した男だ。幾ら非道でもこんな展開は考えられない。すると、黒幕は誰なのか。
「大佐、私に力を貸して欲しい」最早、頼れるのはこの男以外にいない。
「オレは一向に構わない。多分裏では神崎が指示をだしているものと思われる」
神崎は相当な策略家で防衛陸軍の独立部隊を国会招致の際、総理へ直に発足を認めさすような男だ。勿論、衆議院からの多数可決が始まりだが、息の掛かった議員がおり、特に影響力が強かった、副首相の立花竜樹が絡んでいる事を、政治班の記者が其の事実をすっぱ抜き、記事に起こそうとした。しかし編集長から待ったが掛かり、その内容を別の週刊誌にリークする前に、翌日、轢死体として発見された。その責任を感じてか、編集長も自宅で首を吊った。真相は今も闇の中だ。
其の時、扉が無造作に開いた。半壊した女性型アンドロイドが軋みを発てながら、その場に倒れこんだ。
夏木大佐が表情を変えず、倉城に問うた。「正体がばれたな。向こうも中々やる」
データは確りと確保されていれば良いが、此処まで破断していると、無事ではないかも知れない。
夏木が電子メモのリードを伸ばし、アンドロイドの端末に接続する。
データは以外にも無事で、電子メモにアップロードされた。
「こいつ、中国共産党の残党リーダー、王権銀だ」
何故そんな連中が関高電子産業株式会社にいるのか。
「大尉、面白い映像も入っているぞ。滝沢専務だ」馬鹿な、あの爆発の中で焼死した筈なのに。
「多分DNA鑑定はされている。だとすれば焼死したのは、クローンの方だな」
中国共産残党との接触は、何を意味するのか。答えは判っている。受胎アンドロイドの機密事項の受け渡し。
「ム?」夏木大佐が身構えた。なんだ、どうしたんだ。
巨体を後ろ向きに反らし、額から汗が滲み出ている。「ふー。危うくデッドウィルスにやられる処だったぜ」デッドウィルス。最近になって人体に組み込んだ通信用端末や情報処理装置を狙うウィルスが存在すると聞いたことがある。其れに犯されると廃人になると言われている。
どこが発生元か、各セキュリティベンダーも対処に困難しているらしい。
アンドロイドを此処まで動けるようにして、トラップを仕掛けた訳か。
「大佐、これはもう、我々の手には負えないのでは?」倉城が率直な感想を述べた。相当に疲れが噴き出している。
「大尉、オレは一個大体を動かすことが出来る。いざとなれば大規模な作戦を講じる事も可能だ」
しかし、副首相や中国共産残党を相手に幾ら軍の大佐といえど、分が悪い。
下手をすれば市街戦に持ち込まれる可能性もある。
更に防衛海軍となると、正直場違いになる。トップが正式訓示を出す訳が無い。
「無論、オレの息の掛かった精鋭を動かすことになる。心配は無用だ」
「それでは大佐の身が危険になるのでは?また、規律違反として罰せられる事にも…」
「事態は性急に動いている。今判断しなければいけない事案だ」
敵を識別する手段がない。其れとも夏木は既に誰が首謀者なのか、大方の見当をつけているのだろうか。
沢渡に連絡を取るべきだろうか。斉藤の所在も不明だ。
結局の処、沢渡のミッションは方向性が全く異質な物になってしまった。
こうなると、この場所も既に把握されている。
夏木の車に同乗し、横須賀基地に赴く。其処には日本防衛海軍第3艦隊に所属する空母、「リファイン・ドル」が停泊している。
空母入り口にて、監視兵が夏木を見ると一礼して、「夏木大佐、連絡は受けております。只今より第二ウィズ部隊、何時でも順次出来ております」
「ご苦労!これから関高電子産業株式会社に潜入し敵を叩く」
考え込んでいる倉城に夏木が声を掛けた。「どうした、大尉。」
「大佐、私には実は妻がおります。更に沢渡によって意識不明にされています」
夏木がその言葉に返した。「其の情報は既に私の記憶に入力されている。沢渡は少子化担当大臣でそれ以前は、防衛大臣を務めていた。其の時に面識があったのだ」
「其れで、初めての監査官役として私に武器を渡した経緯ですね」
夏木が怪訝な表情を見せた。
「大尉。オレは其の会社に進入する情報を得てなかったぜ。あれは防衛海軍の上層部からの達しだ」
そんなバカな。沢渡を通じての事ではなかったのか。すると沢渡と防衛海軍が別々に倉城を利用し、滝沢の懐に忍ばせたというのか。
其処までして、受胎用アンドロイドの情報が国家機密並みの扱いを受けているというのか。
すると、例の中国共産残党の連中との接点が専務の滝沢ということか。
沢渡は其の情報を得ていた筈だ。すると倉城が死ぬ事を前提で寄越したのか。
だが、今考えられる事は、中国共産残党を殲滅したあと、滝沢を捕獲する。
作戦を空母内で作戦会議を開き、突入方法を検討する。
立体映像の陣営予定の映像を見ながら、夏木大佐の右腕である立花少佐が、作戦説明を行う。
概要はヘリから降下して屋上を制圧。最上階からの第一小隊から第三小隊を投入させる。
敵の保有する戦闘ロボットの数は計り知れないが、高出力レーザー砲を第一小隊が携帯。その後、第二小隊が突入し、滝沢の身柄を拘束する。
中国共産残党も武装している可能性が大なので、RJ7.25mm機関砲を携帯する。
緊急性においても冷静さが必要だ。
夏樹の電子メモに突如連絡が入った。
倉城の妻を保護したとの一報だった。倉城は安堵した。同時に「大佐、有り難う御座います」夏木は倉城の肩をポンと叩き笑顔を見せた。
あとは裏切り者の、いや、初めから仕組まれた斉藤を見つけなければいけない。
開治の仇を討つために。
夏木が号令を出す。「作戦決行は23:00に実行する」
全員が戦闘服に身を包む。超硬貨プラスチックの防弾服を着て、倉城にも同様の設備を手渡される。
情報操作にて関高電子産業株式会社の半径2キロを封鎖する。
時間が迫る。空母よりOHJ―12戦略ヘリにて飛び立つ。
サイレンサーを搭載したヘリの消音は恐ろしい程、静かだ。
ヘリの中、隊員達の表情は硬い。
突如、倉城の電子メモに連絡が入った。夏木が傍受する。
「大尉、貴様、何を考えている?」それは沢渡からだった。妻を救助して貰った情報で、足がついたのだ。それは既に考慮した結果だ。
「佐渡さん、あんたとの関係はこれまでだ。議員辞表でも書いておくんだな」
歯軋りが聞こえる程の声で「私を裏切るつもりか?貴様、頭が狂ったのか?」
「狂っているのは、あんただよ。妻が最早私の加護に入った以上、あんたの言う事を聞かなくて済む」
「私を愚弄するとは、許せん!目に物を見せてくれる」其処へ夏木が割って入った。「沢渡、オレの事を覚えているか?コードナンバーを確認すれば判る筈だ」
「貴様!ファルコン?貴様も絡んでいたのか?だからか!倉城が動けたのは!」
夏木が続けた。「我々の作戦に干渉すれば、直ちに貴様の首も飛ぶぞ」
「バカを言うな。私が防衛海軍の司令官、福崎大将に一言言えば…」
突如、ノイズが入り、音声が途切れた。
「なんだ、これは?」倉城と夏木が突然の妨害受信に戸惑った。
「やっと回線周波をキャッチした」聞きなれない声が二人の脳内に響いた。
「私はチャイナ評議会の陳宗栄。倉城大尉、貴殿に取って置きの情報を与えよう」
何故、此方の名前を知っている。それに電子メモには生体ロックが掛かっている。
突破するにはそれを解除するコードが必要だ。
夏木が「チャイナ評議会、聞いた事があるぜ。確か共産残党狩りを行っている組織だそうだな」
「其の通り。5名の共産党幹部が日本に入国した事を察知し、コンタクト出来る人物を探していた」「よく、我々の事を探し当てたな」夏木の億さない態度。
しおりを挟む

処理中です...