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夏目碧央

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昼休みの美術室

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 金曜日は昼休みに会いに行く日。俺はお弁当を持って一目散に美術室に行った。昨日の帰り道に、お弁当を持っていこうと約束しておいたのだ。俺が美術室に到着する頃、柚月さんが美術室の扉を開けようとしているところだった。
「早いな。」
柚月さん、ちょっと照れた顔。
「だってえ、早く柚月さんに会いたいもん。」
「お前、犬がしっぽ振ってるかのごとくだな。」
「犬嫌い?」
「・・・いや、別に。」
ふふ。楽しい。そして、適当に腰かけてお弁当を食べる。二人きりっていいなあ。
 食べ終わると、柚月さんは絵を描き始めた。俺は飲み物を飲みながら、その様子を少し離れて見守る。ちょっかい出したら怒られるだろうなあ。でも、せっかく会いに来たのだから、何か一つしたいよなあ。
 そこで、木の丸椅子に腰かけてキャンバスの方を向いている柚月さんの後ろから、そっと後ろ抱き。
「こら、邪魔するな。」
「急いでるの?」
「そうじゃないけど。」
「じゃあ少しくらい、いいじゃん。」
柚月さんは絵筆を置き、俺の腕を振りほどきながら振り返った。
「琉久、こういうのは辞めろ。俺に手を触れるな。」
「えー!なんで?」
「何でも。」
しゃがみ込んで、上目づかいで柚月さんを見上げる。
「手を触れたらダメなの?」
「ダメ。だって、恋人同士じゃないだろ。友達だろ?」
ふう。友達ならいいって、そういう事か。まあ、いいか。ずっと憧れてて、話もろくにできなかったのだから。今、柚月さんが俺の事が好きで、一緒にいさせてもらえるのだから、それで十分か。
「分かった分かった。じゃあ、背中合わせに座ってもいい?」
「背中合わせ?ああいいよ。」
お許しをいただいたので、丸椅子を持ってきて椅子同士をほとんどくっつけるように置いて、柚月さんがまたキャンバスの方を向いたので、背中をくっつけて座った。うん、背中がくっついているだけでとっても幸せ。寄りかかっているわけじゃないけど、温もりを感じる。昼休みが終わるまでそうしていた。
 チャイムが鳴る。
「よし、それじゃ帰ろうかな。またね。」
俺は柚月さんの手を取ってぎゅっと握った。しかし、柚月さんはその手をさっと引っ込めた。
「だから、俺に触るな。」
冷たいなあ。俺の事好きなはずなのに。めげずにニッコリと笑顔を向けて、俺は先に美術室を出た。胸がズキンとうずく。月曜日まで会えないのか。
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