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写真の女性

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 山の頂上でバカヤローと叫び、下山して、俺の山岳部生活は終わった。部長を務めてくれた萌ちゃんと共に、後輩たちに拍手で送られた。これから、希望通りの学部に入れるよう、テストを頑張らないといけない。工学部に入るために。工学部に・・・もちろんやりたい事が出来るから。でも、海斗と一緒に暮らすためというのが本音だ。もし、海斗に他に好きな人が出来たら、それでも兄弟の振りをして一緒に暮らすのだろうか。そんな事が出来るのだろうか。
 胸の潰れるような思いで、また夜行バスに乗って地元に帰って来た。朝方に東京に到着し、家に帰って来たのは午前十時頃だった。玄関を開けて海斗の靴があるのを見て、増々胸がざわざわした。不安だ。海斗がどんな風に変わってしまったのか、知るのが怖い。
 母さんが出迎えてくれて、俺は風呂場へ直行した。海斗はまだ寝ているのだろうか。シャワーを浴びて出てくると、バスタオルが取りやすい所に置いてあった。母さんが置いてくれたのだろうと思って手に取り、体を拭いていると、
「はい、パンツ。」
と言って、俺の下着を手に持っている海斗がそこに!
「わっ!いたの?」
俺はびっくりして思わずタオルで前を隠した。
「待ちきれなかったんだよ。岳斗、お帰り。」
と言って、海斗が俺を抱きしめようとする。
「ちょ、ちょっと待て!着替えてから、ねえ!」
俺は必死に海斗の手から下着を取り、海斗に背中を向けた。パンツを履く俺を、海斗は背中から抱きしめた。
「会いたかったよ、岳斗。」
「海斗。」
海斗がバスタオルをスルスルっと引っ張った。そして、二人はハグを・・・
「こら、何やってんの。」
突然ドアが開いて、母さんが睨んだ。きゃー!と叫ぶ一歩手前でとどまった。
「はいはい。」
海斗はニヤついた顔でそう言って、出て行った。お、俺のTシャツどこ?短パンは?ドギマギしながら服を着た。

 なんと言うか、杞憂だったというか。海斗は食事中も俺の顔をジーっと見て、時々
「あーん。」
と言って食べさせてくるし、テレビを見ている時も、テレビじゃなくて俺の事ばっかり見て、時々指で俺の顔とか髪の毛を触ってくる。
「やっぱさあ、岳斗は可愛いなあ。」
うっとりしながらそんな事を言う。甘い。
「岳斗、一緒に風呂入ろうぜ。」
と言った時には、
「まだ早い!」
と、母さんに怒られていた。
 また、毎日一緒にいられる日々がやってきた。鉄道旅行の事、聞きそびれた。誰と一緒だったのか、とか、俺と早く会いたくなかったの?とか。でもバカバカしい。海斗には海斗の交友関係があるのだから。俺が山岳部の合宿に行くのと同じ。会いたくても優先する物はある。海斗にとって、バイトとか授業とか、友達との旅行とか。と、自分に言い聞かせる。それでも、誰と旅行に行ったのか、どうしても知りたかった。
「海斗、帰って来る前の旅行、どこに行ったの?」
誰と行ったのかに興味があったが、まずはどこに行ったのかを聞いた。
「えーと、函館と盛岡と仙台と那須塩原。写真見るか?」
スマホの写真を見せてくれた。景色や建物の写真に交じって、自撮り写真もあった。その後ろに、時々友達が写り込んでいる。
 あっ。見つけてしまった。髪の長い、美人女子。
「これ、後ろに写ってる人、友達?」
思わず聞いた。
「え?ああ、うん。」
お?歯切れが悪いじゃねえか。ちらっと海斗の顔を見ると、俺の視線に気づいてか、海斗も俺を見た。
「何だよ、まさかお前、こういう女が好みなのか?」
む、何とも言えん。心配になるくらい美人。つまり、俺の好みって事なのか?
「違うよ。っていうか、この人も一緒に泊まったの?海斗、まさか女子と同じ部屋に・・・?」
「いや、こいつ全然気にしないんだよ。女子1人だからさ、1人だけ違う部屋なのは嫌だって言うし。」
「そもそも何人で旅行したの?」
「あー、五人。」
「四人男子で、一人女子なんだ。」
「そう。あのさ、工学部って女子が少ないから、そんな感じの割合なんだよ。」
ふーん。でもさ、他に写ってる男子を見ても、特別かっこいい人は見当たらないし、多分、いや間違いなく、この女子は海斗の事が好きなんじゃないかなあ。海斗も、自分で分かってるんじゃないかなあ。
「何だよ、その目は。」
海斗が言った。どんな目でしょうか?
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