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ヒューマンライフ~憧憬
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大統領が外国訪問する際は、パートナーと共に大統領専用機で出かける。以前、遥貴が国王として外国を訪問し、その傍に未来がついていたのと、見た目としてはあまり変わらない。歩く順番が変わったくらいだった。遥貴も友好国の首脳、国王たちとは既に面識があり、
「ずいぶん大人になられましたな。」
「お勉強の方はいかがですか?」
などと声をかけてもらえた。遥貴は春から大学に進学し、クローン技術について学ぶべく、まずは生物やバイオテクノロジーについて勉強していた。
遥貴にとっての故郷、イギリスにも訪問した。すると、かつて遥貴が通っていた学校の先生や、友達数人が会いに来てくれた。
「まさか、あなたがKingになるなんてね。先生驚いちゃったわ。」
「僕も驚きましたよ。こっちに住んでいた時には、父が国王だったなんて全然知らなかったのですから。」
「それと、ご結婚おめでとう。以前言ってたわよね、たまにしか会えない人がいて、外国に帰ってしまって悲しくてつらいって。もしかしたら、その人があなたの大統領?」
「先生・・・全てお見通しですね。」
遥貴は照れて頭をかいた。
「よかったわね。」
先生は遥貴にハグをしてくれた。あの頃も、守ってくれた。未来が帰ってしまって悲しくてふさぎ込んでいた時も、先生はハグしてくれて、遥貴の話を聞いてくれたのだった。
「先生、みんな、お元気で。」
「遥貴、また遊びに来いよ。」
「またうちに遊びに来てね。」
友達も口々にそう言ってくれた。懐かしい人たちとのひと時だった。
5年後。遥貴は大学を卒業した。未来の大統領任期も終わった。初めて、何でもない「人間」になれた遥貴だった。大統領のパートナーでもなく、王族でもなく、実は身柄を狙われている国王の隠し子でもなく。誰も注目しない存在。そして、住むところも自由、行くところも自由。
「これが「人」なんだな。あぁー!僕は自由だあー!」
新しく住むところを見つけ、未来と共に引っ越した一戸建ての住宅。首都郊外の高台にある家だった。その家の寝室、置いたばかりのベッドに横になって、遥貴は叫んだのだった。
「ん?どうした、急に。」
未来が現れて、くすっと笑った。未来は実年齢よりもだいぶ若く見えた。実はもうすぐ50歳だが、30代の頃と変わらない。若い恋人がいれば自然とそうなるのかもしれない。恋人とはいえ配偶者だ。きちんと籍を入れていた。
「僕やっと、ただの人になれたな、と思って。」
寝転がったまま遥貴が言うと、未来がベッドに膝をつき、両手を遥貴の頭の横についた。
「やっと、二人きりになれたな。今までずっと、部屋の外には人がいる状況だっただろ。いつもいつも遠慮してたんだ。これからは、声を出しても大丈夫だな。」
「遠慮、してたの?あれで・・・?」
未来はしばし遥貴と見つめ合い、それから唇を見て、首筋を見て、胸を見て、それから更に視線を下へ滑らせていく。遥貴はゴクリと唾を飲み込んだ。次の瞬間、未来がガバッと遥貴に覆いかぶさった。
「ちょっと、まだ片付いてないよ!未来!」
遥貴が未来の肩に手をかけてそう言ったが、びくともしない。
「うるさい。そんなの後でいいだろ。」
未来がそう言って、遥貴のシャツに手をかけた時、下の方でガチャっと音がした。
「手伝いに来たぞー。おー、広いなあ。」
「お邪魔しまーす。」
健斗と尊人が勝手に入って来た。未来はギクリとして手を止め、顔をしかめた。遥貴は目をパチクリさせたが、次の瞬間自分の親が現れたので、慌てて未来の下から抜け出した。
「パパ、ダディ、いらっしゃい。」
遥貴が立ち上がって健斗と尊人のところへ歩いて行くと、未来はゆっくりとベッドから降り、むすっとした顔で来客を見た。
「あれ?怒ってる?」
尊人が未来に無邪気に問うと、
「べつに。」
未来は苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴って、ガチャリとドアが開いた。
「お邪魔しまーす。また来たわよー!」
「麗良さん!いらっしゃい!」
麗良が入って来たので、遥貴が階段を駆け下りた。
「わあ、麗良さん、久しぶり!」
「その節はどうも。ずいぶん昔だけれど。」
健斗と尊人が久しぶりに会った麗良に挨拶をした。
「あらあ、健斗さんに尊人さん!お久しぶり!あなたたち、結婚したんだってね!おめでとう!」
来客同士盛り上がる。どこで引っ越しを聞きつけたのか、麗良は神出鬼没である。しばらくわいわい話した面々は、そのうち家の中を見学し始めた。
「ここ二人にしては広いな。俺たちもちょくちょく泊まりに来ようぜ。」
「いいね。健斗、俺たちも近くに引っ越そうか。」
「いっそここに一緒に住んじゃえばー?親戚なんだしさ。」
勝手にそんな事を言っている。遥貴は傍で聞いていて苦笑い。未来は仏頂面である。
「そういえば未来さん、立派に初代大統領を務めたわね。お疲れ様。」
ふと、麗良が未来に言った。
「これからどうするの?未来さん。」
未来は仏頂面を解除して、
「遥貴と二人っきりで暮らすんだ。常に心配して、忙しく働いて、やっと穏やかな生活を手に入れたんだから。」
と言って少し微笑んだ。
「そうよね。ずっと尊人さんと遥貴君を守ってきて、気苦労も多かったでしょうね。危ない目にも遭ったわよねえ。よく皆生きてたわ。」
麗良は遠い目をして言った。
「だから、邪魔しないでくれよ。お二人さん、聞いてる?」
未来は少し離れたところにいる健斗と尊人に言った。健斗も尊人も振り返って、未来を見た。
「いろいろあったな。遥貴が生まれてここまで大きくなったんだ、そりゃ長い年月が経ったわけだよな。」
健斗がしみじみと言った。
「未来、遥貴をこれからもよろしく頼むよ。俺の分身だが、遥貴には遥貴の人生がある。」
尊人がそう言って、そばで黙って聞いている遥貴の方を見た。
「遥貴が悲しい思いをしたり、傷つけられたりしたら、俺も黙ってはいないぞ。近くで見守っているからな。」
尊人はそう言って未来を見た。
「分かってるよ。俺は遥貴を幸せにする。だから、ちょくちょく邪魔しに来るなよ。」
「はいはい。」
口を尖らせる未来に、尊人は思わず笑った。
誰だって、お飾り人形にはなりたくない。
操り人形なんてまっぴらだ。
神様扱いもされたくない。
みんな同じ人間だ。ただの、人間でいたい。
たとえ王だとしても。
完
「ずいぶん大人になられましたな。」
「お勉強の方はいかがですか?」
などと声をかけてもらえた。遥貴は春から大学に進学し、クローン技術について学ぶべく、まずは生物やバイオテクノロジーについて勉強していた。
遥貴にとっての故郷、イギリスにも訪問した。すると、かつて遥貴が通っていた学校の先生や、友達数人が会いに来てくれた。
「まさか、あなたがKingになるなんてね。先生驚いちゃったわ。」
「僕も驚きましたよ。こっちに住んでいた時には、父が国王だったなんて全然知らなかったのですから。」
「それと、ご結婚おめでとう。以前言ってたわよね、たまにしか会えない人がいて、外国に帰ってしまって悲しくてつらいって。もしかしたら、その人があなたの大統領?」
「先生・・・全てお見通しですね。」
遥貴は照れて頭をかいた。
「よかったわね。」
先生は遥貴にハグをしてくれた。あの頃も、守ってくれた。未来が帰ってしまって悲しくてふさぎ込んでいた時も、先生はハグしてくれて、遥貴の話を聞いてくれたのだった。
「先生、みんな、お元気で。」
「遥貴、また遊びに来いよ。」
「またうちに遊びに来てね。」
友達も口々にそう言ってくれた。懐かしい人たちとのひと時だった。
5年後。遥貴は大学を卒業した。未来の大統領任期も終わった。初めて、何でもない「人間」になれた遥貴だった。大統領のパートナーでもなく、王族でもなく、実は身柄を狙われている国王の隠し子でもなく。誰も注目しない存在。そして、住むところも自由、行くところも自由。
「これが「人」なんだな。あぁー!僕は自由だあー!」
新しく住むところを見つけ、未来と共に引っ越した一戸建ての住宅。首都郊外の高台にある家だった。その家の寝室、置いたばかりのベッドに横になって、遥貴は叫んだのだった。
「ん?どうした、急に。」
未来が現れて、くすっと笑った。未来は実年齢よりもだいぶ若く見えた。実はもうすぐ50歳だが、30代の頃と変わらない。若い恋人がいれば自然とそうなるのかもしれない。恋人とはいえ配偶者だ。きちんと籍を入れていた。
「僕やっと、ただの人になれたな、と思って。」
寝転がったまま遥貴が言うと、未来がベッドに膝をつき、両手を遥貴の頭の横についた。
「やっと、二人きりになれたな。今までずっと、部屋の外には人がいる状況だっただろ。いつもいつも遠慮してたんだ。これからは、声を出しても大丈夫だな。」
「遠慮、してたの?あれで・・・?」
未来はしばし遥貴と見つめ合い、それから唇を見て、首筋を見て、胸を見て、それから更に視線を下へ滑らせていく。遥貴はゴクリと唾を飲み込んだ。次の瞬間、未来がガバッと遥貴に覆いかぶさった。
「ちょっと、まだ片付いてないよ!未来!」
遥貴が未来の肩に手をかけてそう言ったが、びくともしない。
「うるさい。そんなの後でいいだろ。」
未来がそう言って、遥貴のシャツに手をかけた時、下の方でガチャっと音がした。
「手伝いに来たぞー。おー、広いなあ。」
「お邪魔しまーす。」
健斗と尊人が勝手に入って来た。未来はギクリとして手を止め、顔をしかめた。遥貴は目をパチクリさせたが、次の瞬間自分の親が現れたので、慌てて未来の下から抜け出した。
「パパ、ダディ、いらっしゃい。」
遥貴が立ち上がって健斗と尊人のところへ歩いて行くと、未来はゆっくりとベッドから降り、むすっとした顔で来客を見た。
「あれ?怒ってる?」
尊人が未来に無邪気に問うと、
「べつに。」
未来は苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴って、ガチャリとドアが開いた。
「お邪魔しまーす。また来たわよー!」
「麗良さん!いらっしゃい!」
麗良が入って来たので、遥貴が階段を駆け下りた。
「わあ、麗良さん、久しぶり!」
「その節はどうも。ずいぶん昔だけれど。」
健斗と尊人が久しぶりに会った麗良に挨拶をした。
「あらあ、健斗さんに尊人さん!お久しぶり!あなたたち、結婚したんだってね!おめでとう!」
来客同士盛り上がる。どこで引っ越しを聞きつけたのか、麗良は神出鬼没である。しばらくわいわい話した面々は、そのうち家の中を見学し始めた。
「ここ二人にしては広いな。俺たちもちょくちょく泊まりに来ようぜ。」
「いいね。健斗、俺たちも近くに引っ越そうか。」
「いっそここに一緒に住んじゃえばー?親戚なんだしさ。」
勝手にそんな事を言っている。遥貴は傍で聞いていて苦笑い。未来は仏頂面である。
「そういえば未来さん、立派に初代大統領を務めたわね。お疲れ様。」
ふと、麗良が未来に言った。
「これからどうするの?未来さん。」
未来は仏頂面を解除して、
「遥貴と二人っきりで暮らすんだ。常に心配して、忙しく働いて、やっと穏やかな生活を手に入れたんだから。」
と言って少し微笑んだ。
「そうよね。ずっと尊人さんと遥貴君を守ってきて、気苦労も多かったでしょうね。危ない目にも遭ったわよねえ。よく皆生きてたわ。」
麗良は遠い目をして言った。
「だから、邪魔しないでくれよ。お二人さん、聞いてる?」
未来は少し離れたところにいる健斗と尊人に言った。健斗も尊人も振り返って、未来を見た。
「いろいろあったな。遥貴が生まれてここまで大きくなったんだ、そりゃ長い年月が経ったわけだよな。」
健斗がしみじみと言った。
「未来、遥貴をこれからもよろしく頼むよ。俺の分身だが、遥貴には遥貴の人生がある。」
尊人がそう言って、そばで黙って聞いている遥貴の方を見た。
「遥貴が悲しい思いをしたり、傷つけられたりしたら、俺も黙ってはいないぞ。近くで見守っているからな。」
尊人はそう言って未来を見た。
「分かってるよ。俺は遥貴を幸せにする。だから、ちょくちょく邪魔しに来るなよ。」
「はいはい。」
口を尖らせる未来に、尊人は思わず笑った。
誰だって、お飾り人形にはなりたくない。
操り人形なんてまっぴらだ。
神様扱いもされたくない。
みんな同じ人間だ。ただの、人間でいたい。
たとえ王だとしても。
完
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