Snow Burst~出逢ったのは、大学構内でもなくライブ会場でもなく、雪山だった~

夏目碧央

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壁ドン

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 4月が訪れ、3年生になった。新カリキュラムになり、最初の授業を受けに大学へ向かった。社会心理学の授業を受けに、校舎2階の教室を探して入って行った。どこに座ろうかと、入り口付近で立ち尽くしていると、後ろから急いで入って来た人物と肩がぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい。」
と、言われて振り返ると、なんとその人物は雪哉だった。俺たちはお互い、あっと驚いた顔をしたものの、声も出なかった。だが、授業開始時間が迫っているので、とにかく席に座らなくてはならない。俺が窓際の一番後ろの席を指さすと、雪哉は黙って頷いた。そして、二人でその一番後ろの窓際の机に、並んで座った。
「まさか、同じ授業があるとは思わなかったよ。」
座ってから、俺は言った。
「そうだね。心理学に興味があるの?」
雪哉は意外に明るい声で言った。ずっと俺を避けて来たなんて事は、全然感じさせない。
「経済を語るには、社会心理を勉強するべきだろ?」
真面目な事を、ちょっとおどけて言って見せた。雪哉はニッコリ笑った。そう、これだよ。俺がずっと見たかったのは。
 授業が終わって、教授が去って行った。学生たちもパラパラと立ち上がり、教室を出て行く。このまま昼休みなので、学食や売店に向かうのだろう。雪哉も立ち上がろうとしたが、俺はそれを制した。腕を掴んで。雪哉はパッと不安そうな顔をした。
「ちょっとだけ、話せない?」
俺が言うと、雪哉は目をうるうるさせている。
「約束、あるの?」
もしかして、神田さんと待ち合わせをしているとか?だが、雪哉はフルフルと首を横に振った。雪哉は観念したようで、腕の力を抜いた。俺も腕を放した。
「雪哉さ、俺の事避けてた?」
「・・・ごめんなさい。」
「いや、いいんだ。でも、なんで?神田さんに何か言われたから?」
雪哉は何も答えなかった。つまり、イエスだな。
「神田さんとは、本当につき合ってるの?」
「・・・うん。びっくりしたよね。」
雪哉はそう言って、ちらっと俺の目を見た。
「まあ、そりゃあね。」
ぶったまげた、なんてもんじゃないけどな。
「雪哉は、俺のファンだって言ったよね?それは、本当の事?それとも冗談?」
「冗談なんかじゃないよ、本当だよ。」
良かった。胸のつかえが少し下りた。
「それは、好きなのとは、違うの?」
「え?」
「雪哉は、俺の事が好きなの?」
ちょっと、迫ってみる俺。心なしか、体も迫っていく。雪哉は大きな目を俺にまっすぐに向けた。
「あ・・・憧れ、って言うか。」
言って、雪哉は視線を落した。俺は、パイプ椅子を雪哉の方へ更に寄せた。雪哉の椅子は窓辺の壁にぴったりとくっついている。だから、逃げ場がない。
「俺が、雪哉を好きだって言ったのは、ちゃんと覚えてる?」
壁に片手をつき、雪哉の顔を覗き込む。
「涼介は女の子とつき合ってたし、まさかそんな事になるなんて、思ってなかった。」
雪哉は顔を背けるようにして言う。
「俺の事、知ってたのか。」
「文学部では有名だったよ。涼介が彼女を取っ替え引っ替え作ってる事。梨花ちゃんが涼介と付き合い始めたのだって、僕は元々知ってたんだ。」
梨花にスキー場で会った時、今初めて知ったような事を言っていたはずの雪哉。
「俺ってそんなに有名なの?」
「そうだよ。経済学部でバンドマンのイケメンだって。チャンスがあれば誰でもつき合ってもらえるって。しょっちゅう話題に上ってたよ。」
なんかショック。
「今は、誰ともつき合ってない。俺が、雪哉以外の誰ともつき合う気がないから。雪哉、俺の事、好き?」
「ちょっと、涼介!」
雪哉が俺を押し返そうとするが、俺は止まらない。もう片方の手も壁につき、腕の中に雪哉を閉じ込めた。じっと目を見つめると、雪哉も俺の目を見つめ返した。
「俺の事、好きだろ?」
雪哉の瞳は揺れ、何も言わない。
「俺は、雪哉の事が好きだよ。」
雪哉が何か言うかなと、唇を見た。けれども、雪哉は何も言わない。何も言ってくれない唇を見ていたら、吸い寄せられた。俺は、雪哉の唇を奪った。
 唇が触れた瞬間、雪哉はびくっと体を一瞬震わせた。だが、そのまま体の動きを止めた。俺の心が震える。しかし、唇を放した途端、雪哉は俺を思いっきり押して立ち上がった。
「ダメだよ、ダメ。僕みたいな人間は、一生恋人なんて出来ないって思ってたのに、神田さんが救ってくれたんだ。だから、僕は神田さんを裏切れない。」
「俺だって、神田さんには感謝してるし、あの人はいい人だよ。でもそれと、恋愛とは別だろ?感謝とか、恩義とかで愛し合うのは、違うだろ?」
俺がそう言っても、雪哉は首を横に振り、そして鞄をひっつかんで教室を出て行った。
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