沼ハマの入り口

夏目碧央

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熱が出た

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 数日後、朝陽から電話が掛かってきた。
「もしもし、どうした?」
にやけが止まらない。会社の廊下で電話に出たのだが、にやけ顔を隠す為に人のいない方へ歩いて行った。
「祐作さん、大変なんだ!里奈が、里奈がなんか、苦しそうにしてるんだ!どうしよう。」
にやけている場合ではなかった。今は午後の7時頃だった。
「今から行くから、待ってろ。」
電話を切ると、速攻帰り支度をした。残りの仕事は持ち帰ればいい。それより、苦しそうとはどういう事だろうか。
 会社の外に出たところで、朝陽に電話を掛けた。里奈は熱があるのか、と聞いてみた。朝陽は初めて発熱の可能性に気づき、おでこに手をやったら熱いという事だった。やれやれ、何も分かっていない。薬局に寄り、風邪薬と解熱剤とで迷ったが、念のため両方買った。それからスポーツドリンクも買った。
 朝陽の家に行くと、待ってましたとばかりに朝陽が飛びついてきた。
「どうしよう、苦しいのかな。ほら、ハアハア言ってるでしょ。」
おろおろしている。だが、確かに真っ赤な顔をした赤ん坊は、呼吸も速く、ぐったりしているように見える。
「お医者さんはもう閉まってるし。困ったよ。」
朝陽の方が体を壊すのではないか、と思うほどの心配ようだ。
「大丈夫だ。ほら、薬買ってきたから。」
カバンから薬の箱を2つ出した。どちらがいいかな、と渡すと、
「祐作さん……これ、7歳以上って書いてあるよ。こっちなんて15歳以上だよ。」
参った。何も分かっていないのはどっちだ。朝陽は今にも泣きそうになっている。
「ちょっと待て。そうだ、母さんに聞いてみよう。」
実家の母に電話を掛けた。
「もしもし、母さん?あのさ、赤ん坊が熱出したみたいで、真っ赤な顔してハアハアいってるんだけど、どうしたらいい?」
思いの他、慌てているらしい。いきなり、そう切り出した。
「赤ん坊?あんたの子?」
当然母親にそう聞かれる。
「いや、違うんだ。知り合いの子なんだけど。」
「そう。とにかく、顔を冷やしてあげて。水分をこまめに与えてね。」
母親がそう言った。
「冷やすって、どうやって?」
「水で濡らしたタオルを、おでこやあごの下に付けてやるの。」
「そっか。大丈夫かな、救急車とか呼ばないでも。」
「子供は良く熱を出すものだから、よほど変じゃなければ大丈夫だと思うよ。一応、明日の朝になったら病院に連れて行った方がいいかもね。」
「ありがとう、母さん。それじゃ。」
電話を切り、タオルを濡らして軽く絞った。それを、言われた通りに顔に当ててやると、里奈は徐々に呼吸を整え始めた。スポーツドリンクを少し飲ませたが、本当にこれを飲ませていいのか不安になり、赤ちゃん用の粉末のジュースに変えた。
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