怒涛のソロ活(末っ子4)

夏目碧央

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活動休止

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 「え?!ユウキ兄さんが事故?」
会社に出社した俺は、リーダーのタケル兄さんの言葉に、思わず素っ頓狂な声を出した。
「ああ。バイクで出勤する途中、トラックと接触したって。」
どうも、社内がバタついていると思ったらそういう事だったのか。
「それで、ユウキ兄さんの具合は?命に別状はないんですよね?」
俺が切羽詰まった様子で尋ねると、何も言葉は発しないが、テツヤ兄さんも俺の隣で棒立ちになってタケル兄さんをじっと見つめた。
「大丈夫、命に別状はないそうだ。だが、足を骨折して入院だって。」
「え……。」
入院するほどの怪我なのか。それはけっこう大事(おおごと)ではないのか。

 俺たちは、ユウキ兄さん抜きで一日仕事をした。一刻も早く病院に駆け付けたいところなのだが、そうもいかない。メンバーはみな、少し苛立っている様子だった。やっと仕事を終え、着替えやメイク落としをしていると、マネージャーのイッセイさんが姿を現した。今日一日、イッセイさんは俺たちと行動を共にしてはいなかった。
「みんな、お疲れさん。ユウキの事だけど。」
イッセイさんがそう言うや否や、6人のメンバーはガバッとイッセイさんを囲んだ。イッセイさんは一瞬たじろいだ。
「……すごい目だな。」
イッセイさんが俺たちを見渡して息をのむ。
「それで、どうなんですか?ユウキ兄さんの具合は。」
タケル兄さんが先を促す。
「ああ、うん。えーと、左足首と右腰椎の骨折で、3か月の入院。元のように踊れるようになるには、最低6か月、だそうだ。」
イッセイさんがメモを見ながら言った。
「半年……。そんなにかかるんですか。」
タケル兄さんが言った。俺たちもみな、黙っているがそう思っている。
「今後の事は、少し考えてみるよ。ユウキなしで予定通りのスケジュールをこなすのか、色々とキャンセルするのか。」
イッセイさんが言った。

 翌日、出社した俺たちに、イッセイさんと社長は話があると言った。
「昨日、お開きになった後、マサトから話があったんだ。」
イッセイさんはそう言葉を発し、マサト兄さんの方を見た。すると、マサト兄さんが俺たちみんなに向かって話し始めた。
「実はさ、前からダンス留学をしたいと思っていたんだ。でも、なかなかスケジュールの事を考えると言い出せずにいて……。」
マサト兄さんが言葉を切ったので、イッセイさんが後を引き取った。
「マサトはアメリカにダンス留学をしに行きたいそうだ。ちょうどユウキの怪我で半年かそれ以上、7人揃っての活動が出来そうにない。今がそのチャンスと捉えて、マサトにはこの機にアメリカに行ってもらおうと思う。」
イッセイさんがそう言った。ちょっと、何を言われたのかよく分からなかった。ユウキ兄さんがいなくて、マサト兄さんもいなくなる?
「それなら……僕はその間に語学留学に行きたいな。なかなか英語が上達しないから、ちゃんと留学して、しゃべれるようになりたい。」
一番年上のシン兄さんが言った。
「それはいいね。これを機に、今までできなかった事を、それぞれやるのがいいだろう。」
社長が口を開いた。更に、
「そこで、君たちには今後1年間、活動を休止してもらおうと思う。グループとしての活動を休止して、個人活動をしてもらう。異存はないね?」
と言って全員を見渡した。待てよ。シン兄さんもいなくなる?でも、他のメンバーはここに残って、個人活動?個人で何をするって?わけが分からない。
「分かりました。僕たちは1年間、グループの活動を休止ですね。」
タケル兄さんが納得したという風に、首を縦に何度も振って言った。納得できたのか。ちょっと待てよ、ユウキ兄さんの事は?ユウキ兄さんの大けがを、チャンスにするとか何とか?俺は全然納得できない。
「レイジ、納得できないって顔をしてるな。」
突然、社長に名前を呼ばれて驚いた。
「え?僕、ですか?」
「あはは、レイジは顔に出るからな。」
カズキ兄さんが横で笑った。
「あ、いえ。その……大丈夫です。」
何と言えばいいのか分からず、俺はそう言った。そして、社長とイッセイさんは部屋を出て行った。
「みんな、突然こんな事言いだしてごめん。ユウキ兄さんの怪我を喜んでいるわけじゃないのに、なんか……。」
マサト兄さんが途中で言葉を失った。タケル兄さんがマサト兄さんの背中をポンポンと叩いた。するとカズキ兄さんが、
「分かってますよ。俺たち、何年一緒にいると思ってるんですか。マサト兄さんがユウキ兄さんの怪我を心配していないわけがないし、ましてや喜んでるなんて思うわけがないじゃないですか。」
と言った。カズキ兄さんはいつもこうやって、すぐに慰めの言葉を言える。すごいな。
「とにかくさ、ユウキのお見舞いに行こうぜ。差し入れ何がいいかな。」
シン兄さんが言った。
「そうですね。まず連絡を取ってみましょう。ICUにいるわけじゃないんでしょ?」
タケル兄さんが言った。
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