怒涛のソロ活(末っ子4)

夏目碧央

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複雑な服

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 試写会には私服で行く事になっている。そういう時はだいたい、アンバサダーになっているブランドの服を着ればOKなのだ。だが、テツヤ兄さんと一緒に行く場合、2人で多少合わせる方がいいだろう。
「俺さ、いいもの見つけたんだ。これと、これ!」
テツヤ兄さんがスマホで何かを表示させた。覗き込むと、Tシャツ、そしてジャケットが。
「何、これ?」
俺が問うと、テツヤ兄さんはいろいろ説明してくれた。すごく混み入っていて、すぐには理解できなかったのだが、要するに同性愛者だった人が描かれたTシャツと、同性愛を肯定するという意味があるジャケットのようだ。
 以前にも、テツヤ兄さんは同性愛を公表しているデザイナーがデザインした服を着て人前に出た事がある。それから、同性愛を扱った映画を好きだと、さらっとライブ放送で言ってのけた事もある。でも、何となく不思議ちゃんキャラで通っているテツヤ兄さんの事だから、別に騒がれる事もなかった。でも、テツヤ兄さんは天然っぽく見えるけど、なんの意味もなく服や映画を選んだりはしない。つまり、そういう匂わせが好きなのだ。なんと言うか、分かる人には分かるように、こっそりと主張するのが好きというか。
 テツヤ兄さんだけがやっている分には、また何かやってるけど、なんだろうねーで済むだろうが、俺はどうなんだ?しかも、2人で同じようなものを着ようとしているようだが。
「これを着て人前に出るって事は……俺たちは同性愛を肯定していますという事を公表する事になるよね?」
俺が言うと、テツヤ兄さんは我が意を得たりとでも言うような顔で、
「もっと強いメッセージになるだろ?2人で着て出るんだからさ。」
と言った。
「俺たちは恋人同士ですって?」
俺が聞くと、テツヤ兄さんはただニヤッとした。
「でも、そんな事、会社が黙って見てるわけないじゃん。」
かつて、俺たちの仲が噂になった時には、2人で会う事を禁じられた。隣に立つ事さえも、だ。あの時はつらかった。結局、俺とカズキ兄さんの噂も立って、なし崩し的に解除されたのだが。
「この複雑な裏事情はさ、その場では誰も分かんないだろ?」
テツヤ兄さんが言う。
「つまり、強行突破って事?怒られない内に既成事実を作ってしまうと?」
「そういう事!」
テツヤ兄さんがニッコリした。俺があっけに取られていると、テツヤ兄さんはスマホでポチポチとやっている。
「注文しといたから。」
うわ、本当に買っちゃったよ。
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