怒涛のソロ活(末っ子4)

夏目碧央

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誠会

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 「カンパーイ!」
誠会のメンバーと俺、6人での飲み会が始まった。ジュンさん行きつけの店の個室。ジョッキをカチンと合わせると、一斉にグビグビとビールを飲む。
「プハー!」
「美味い!」
「しみる~!」
思い思いに声を出す面々。この人たち、本当に面白い。ドラマに出ている人達が目の前にいるのが不思議だ。これはドラマなんじゃないか、とさえ思えてくる。
「いやー、いい映画だったよ。」
「俺泣けたわ。」
アサヒさんとソウさんが言った。
「ありがとう、みんな!今日は飲んでくれ!奢りじゃないけどね。」
ケイタさんが言った。そして俺にも、
「ほら、レイジもいっぱい食えよ。」
と言ってくれたので、
「はい。」
と言って俺は笑った。
「あ、そうだ。俺さ、まだあのブランドのアンバサダーだからさ、この指輪が安く買えるんだよね。レイジの分も買ってあげるよ。」
ジュンさんがさらっと言った。
 え?指輪、俺にもくれるの?というか、その指輪、ジュンさんからのプレゼントだったのか。予想と違った。みんなで友情の証だとか言って、デザインとかもみんなで考えたりして、意味の深い代物だと思っていた。
「でも、いいんですか?俺、誠会のメンバーじゃないのに……。」
俺が恐縮して言うと、
「何言ってんの。誠会って、テツヤが名前つけただけで、単なる友達同士の集まりなんだからさ。俺が元々仲の良かったアサヒを引っ張り込んだのと同じように、テツヤが元々仲の良いレイジを入れてもいいんじゃない?」
ジュンさんがそう言ってくれて、他の人達もうんうん、と頷いた。既に口の中にはお肉がいっぱい、という人もいる。
「ありがとうございます。」
とにかく俺はお礼を言った。はっ、服の事で頭がいっぱいですっかり忘れていたけれど、この人達はテツヤ兄さんにベタベタする、俺の敵だった。指輪なんかもらっていいものか……。

 飲んで食って2時間くらい経ったので、みんなで店を出た。真夜中の、静かな街。コンビニに寄って水などを買い込み、ちょっと騒ぎながら歩いた。普段、こんな風に街で騒いだりできない面々。これからタクシーで各々帰るわけだが、しばし「普通の若者」のようにふるまった。
「お前らは、こんな風に騒いだりした事ないだろ?」
ケイタさんが俺とテツヤ兄さんに向かって言った。
「今、グループの活動が休止してるからできるけど、今までは時間もなかったからね。」
テツヤ兄さんが言った。
「あっちへ連れられ、こっちへ連れられってな。アイドルは会社の車での移動しかできないよな。レイジなんて、電車の乗り方知らないんじゃないのか?」
ソウさんが言った。
「いや、知ってますよ。デビューして2年くらいまでは電車で移動してましたから。」
俺が言うと、
「そう?最初からブレイクしたわけじゃないのか。」
ソウさんが言う。
「俺たち、けっこう下積みしてんだよ。」
テツヤ兄さんが言って笑った。
「今は、皆さんだって街で騒げないでしょ?電車にも乗れないんじゃないですか?」
俺が言うと、
「それがね、けっこう街で騒ぐシーンとか、演じる事があるのよ。」
「そうそう。」
ケイタさんとアサヒさんが言った。
「それに、俺が一人で電車に乗っていても、誰も気づかないよ。アイドルと違って、役者ってのはそういう生き物だからね。普通の、さえない役なんかもよくやってるから。」
ケイタさんがさらに言った。ケイタさんは華やかな顔じゃないけど、実力派だ。なんだかんだ、恋愛ものの主役をやる事も多いのは、やっぱり男前だからだと思うが。
「あ、そうだ。レイジの指輪を買っちゃおう。明日になったら忘れちゃうからな。」
ジュンさんが指輪の事を思い出し、スマホを出して何やらやっていた。
「あ、あの、本当にいいんですか?」
俺が言うと、
「いいから、いいから。」
いい感じに酔っているジュンさんが、気前良くそう言って、何やらスマホで操作して、俺の為に指輪を注文したようだった。敵?仲間?俺の頭の中は混乱している。でも、こうやって6人でいると、テツヤ兄さんは俺の傍にいてくれる。これはこれで悪くない。
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