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何も悪い事してないのに

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 いつものように、カフェには軍人達が大挙して押し寄せ、ランチを食べている。そこで聞き捨てならない会話を耳にしたアイル。
「今度は本当に攻め込むらしいな。」
「相手がどんな手を使ってくるのか読めないから・・・。」
「だが、この前は銃撃に怯えていたし、武器なんて鉄の棒くらいしか持ってないんじゃないのか?」
そんな会話が聞こえて来て、どうにも聞かずにはいられなくなったアイル。
「何?どこかへ攻め込むの?どこ?やっぱりサルボボ?」
すると、軍人達は声を潜めつつも、アイルにこっそり耳打ちしてくれた。
「いや、地下帝国だよ。あの、獣人間の。」

 その日の夜、アイルは家族のみんなに報告した。
「どう思う?危険じゃないかな?」
アイルにとっては、軍人である恋人のバースが危険な目に遭うかどうか、それが問題なのである。
「どうかな。相手の事が分からないから何とも。それよりも、攻め込む意味はあるんだろうか。何を目的に攻め込むんだろう。」
ロックが言った。
「やっぱりそう来たかぁ。感謝状なんて出してくるから、そうなるんじゃないかと思ってたんだよねえ。」
レインが言った。
「あれだろ、鉄がたくさん採れるんじゃないか?あいつら、やたらと金属の物を持っていたからな。」
メタルも言った。そこで、突然大きな声を出したのがダイヤだった。
「ダメだよ!あの子達、何も僕たちに悪い事してないのに。どうして人間は全てを自分の物にしようとするんだよ!」
みな、ギョッとした。だが、ダイヤは発言後、すぐに席を立って自分の部屋へ行ってしまった。
「ダイヤさん・・・。」
ハイドはその後ろ姿を見送った。いつもなら、すぐにダイヤの元へ行くのに、今日は席を立たない。ここのところ避けられているので、またどうせ部屋には入れてもらえないと思ったのだ。
「ダイヤの言う事は最もだ。また地球の二の舞になるぞ。」
メタルがそう言った。

 ノア星には、地球から移住した人間以外に、動物はいないと思われてきた。地球から移住する時に、あらゆる動物のつがいを持ち込んだのだが、繁殖がままならず、全て絶滅してしまった。ラブフラワーの存在が分かるまで、寿命の短い動物たちが持たなかったのだ。
 そんな中、図鑑や本にはたくさんの動物の写真や絵が載っていた。ダイヤは、実物は見た事がないものの、写真で見る動物が大好きだった。花を愛でるのと同じように、様々な動物の写真を愛でていた。
 部屋に戻ったダイヤは、また図鑑を出して動物の写真を見ていた。あの獣人には棒で突かれて痛い思いをしたが、それでも、人間以外の物に出会えて、後になって感激していたのだ。
 だが、感情的になっているのは、昨今情緒不安定だからでもある。ハイドを追い返したのは自分だが、それでとうとう訪ねて来なくなってしまったハイドに、ダイヤは失望していた。それなら、自分からハイドを訪ねればいいのだが、それも出来ない。完全にこじれてしまっているのだった。

 翌日、カフェではまた、例の地下への作戦についての話が軍人達の間でなされていた。そこに、とうとう情緒不安定なダイヤが突っ込んでいった。
「ダメだよ!」
以下省略するが、昨晩家族の前で言ったのと同じ事を、叫ぶようにして言った。
「えっ。」
軍人達が固まる中、カフェの一隅から立ち上がって真ん中へ歩み出た軍人がいた。
「あっ、兵団長どの!」
ある軍人がそう言うと、店にいた軍人達が立ち上がって敬礼をした。
「良い、休憩中だ。食事を続けなさい。」
兵団長はそう言って、手で座るように支持した。軍人達は座った。だが、兵団長が立っているので、そちらを注目している。
「確かに、彼らは我々に何か悪い事をしたわけでは無い。だが、今後どうなるのか、何をしてくるのかは分からない。」
兵団長はダイヤに向かって言った。
「そんなの、話し合えばいいじゃない。」
ダイヤが言うと、
「話し合う?話が通じる相手ではないだろう?」
と、兵団長が言った。
「でも、昔の地球では、国によって言葉が違っていたそうじゃないですか。」
と言ったのは、アイルだった。
「違っていたのに、何とかお互いの言葉を理解しあって、通訳が出来るようになったと聞いていますよ。」
アイルが続けた。
「そうだ。よく歴史を勉強しているじゃないか。だが、それは人間同士の話だ。獣と話し合おうなどと、誰も思わないだろう?あの地下の生物は、二本足で歩いてはいるが、顔は獣だ。言葉を話しているとは思えん。」
兵団長が言った。
「でも!野生の動物は守られるべきでしょう?」
ダイヤがやはり感情的に言う。
「誤解しないでくれ。我々は、彼らを絶滅させようとしているのではない。放っておくとチーバ国が攻めていって、貴重な地下資源を奪うかもしれん。だから、こちらが先手を打って、あの獣たちを管理しつつ、地下資源を守ろうという事なのだ。」
兵団長の言う事は正しいようにも聞こえるが、ダイヤの胸には危険信号が点滅する。
「違う、地下資源を守るって言ってるけど、奪うんでしょ?管理するって、結局閉じ込めるんでしょ?それは、もし僕たち人間がそうされたら嫌な事じゃないか!その嫌な事を、あの子達にはするの?ねえ、お願い。そうっとしておいてあげて!」
ダイヤがそう言って、一歩兵団長の方へ近づき、両手を祈るように組み合わせて、兵団長を見上げた。
「う、ダイヤちゃん・・・。」
兵団長は手を後ろに組んでいたのだが、ダイヤが近づいて来たので、両手を広げた。抱きしめるのかと思うような仕草をしたが、途中で止めた兵団長。そして、やはり手をまた後ろに組んで、くるりと後ろを向き、3歩歩き、くるりと向き直ってまたこちらへ3歩歩いてきた。
「だが・・・。」
兵団長がそう言いかけると、畳みかけるように、
「お願い!兵団長さん、攻め込むなんて止めて!あのまま、そうっとしておいてあげて!」
と、ダイヤが言った。そして、じーっと兵団長の顔を見上げる。
「うーん、ダイヤちゃんにそう言われると・・・。分かった、分かった。地下に攻め込むのは止めよう。数人で調査するだけにする。それならいいか?」
兵団長がダイヤに問う。
「はい!」
ダイヤが嬉しそうに返事をすると、
「その代わりと言ってはなんだが、ダイヤちゃん、今度私とデートしてくれないかな?」
兵団長は、ダイヤの大ファンなのである。
「え?」
ダイヤがきょとんとすると、
「ちょっと待ったー!」
そこへ、外から様子をうかがっていたハイドが大声を出した。そして、ひらりと窓から中へ、飛び込んで来た。
「兵団長どの、立派なご決断をしたのに、交換条件を出してはいけませんよ。それでは、ダイヤさんにやらされたみたいになっちゃうでしょ。作戦の変更は兵団長殿独自のご英断として、まずは実行しましょうよ。デートはその後で、別の話として進めた方がいいですよ。ね?」
ハイドがそう言った。兵団長はひらりと入って来たハイドに面食らったが、言われた事に対し、腕組みをして考えた。
「うーん、確かに交換条件はまずいか。そうだ、私の責任で決めた事だ。地下への作戦は一旦中止し、調査への変更とする。デートの話はまた別だ。」
兵団長がそう言ったので、ダイヤもハイドもホッとした。
「それで、デートは・・・。」
兵団長がそう言いかけた時、
「デートの話はまた後で。ここで話したら、やっぱり交換条件みたいになっちゃうから。」
ハイドがニッコリしながらそう言った。
「ああ、そうか?そうだな。よし、分かった。早速作戦の変更の手続きをしなくてはな。それじゃ、お会計を頼むよ。」
兵団長がそう言ったので、
「はーい、こちらへどうぞー。」
アイルが素早くレジへ移動して、そう声を掛けた。
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