ちょっと事故った人魚姫

ラズ

文字の大きさ
上 下
4 / 73
第1章 虚像の輝きと冷たい光

魔女と人魚姫

しおりを挟む
暗く冷たい深海を泳いでいくとほのかな光が見える。
チラホラ見えるチョウチンアンコウの光ではなく、温かな光だ。
明かりの正体を知っているわたしは、誘われるように泳いで行った。

「お婆さん!いますか?!」

そこにあるのは洞窟。奥まで明かりはあるけど、家主の許可なく入ることは許されない。
奥から出てきたのは顔をシワだらけにしたおばあさん。

「おやおや、姫じゃないかい。よく来たねぇ…まぁ中にお入りよ。今お茶を出そう」

そう言って彼女はしわだらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。


人魚のみんなは彼女を醜いというけれど…私は彼女が、好きだった。
どんなに綺麗な真珠や珊瑚のアクセサリーがあっても、見た目だけの美しさなら私はいらない。
みんながいう美しさは私には理解できなかった。
人魚である皆は私のことを厭う。だけど彼女は私の話を熱心に聞いてくれた。
時に慰め、時にアドバイスをし、またある時には一緒に怒ってくれたことがあった。
誰にも理解されなかったこと…だけど、彼女は簡単に理解してくれた。
そんなことが、私はとってもうれしかった。
そして、私は今日も彼女と話す。みんなには話したことない私の本当の心を。


「さて、今日はどうしたね。また何かあったようだね。このお婆に話してごらん」

「本当に何でもお見通しね。昨日は毒を盛られて、一昨日はお姉様に刺されそうになったの。私はもうあの城にいてはいけないのね」

そんなことを言った私に彼女はこう答えた。

「そろそろ城を出たほうがいいかもしれないねぇ。このままいれば近いうちに殺されてしまうだろう…今が大丈夫でも、いつまでも大丈夫と言う事はないんだよ。姫、城を出る覚悟はあるかい?」

真剣な表情で言う彼女は海の魔女だ。
代償は必ずあるけど、どんな願いも叶えてくれる。そんな魔女だった。

「お婆さん、私はあの国にはいれないの。どうか助けてください」

私は深く頭を下げた。あの国から出る覚悟はもう決めてきていたからだ。
私はいつも彼女に助けられていた。もし、彼女に拒絶されたらこの先どうにもできず、死んでしまうだろう。
少なくとも、彼女がいなけれは10回は死んでいた。


「もちろんだよ。可愛い姫。人間になる薬を渡してあげよう」

城から離れてどこで何をして生きるのか今はまだわからない。だけど、きっと今よりはどうにかできる確率がある。
不安は残るけど、私は力強く頷いた。
しおりを挟む

処理中です...