ちょっと事故った人魚姫

ラズ

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第2章 未知の世界と初めての人間

人魚姫の行き先

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体も治り別室へ移ってから数日後…サイスは言った。

「明日、ラナクリードに着く。一応きくが…国に着いてから行くあてはあるか?」

その質問に思わず固まってしまった。
たまたまこの船に拾われてここにいるが、船から降りれば当然あてはない。
顔を青ざめていく様子に何も言わなくてもわかったようだ。

「行くあてがないなら、共に来るか?」

(一緒にとはどういうこと?)

認められなくても一応、一国の姫君だった自分。彼の部屋と仕立てのいい服から高いの地位にいるのだと思っていた。
でも、そんな人が私みたいな異形をどうするというのか…よくわからなかった。

(やっぱり、痛めつけられたりするのかしら?)

嫌な想像が思考を埋め尽くす。
それでも、彼の言ったことはシンプルだった。

「俺が、でん…いや、アルにかけあうから、働く気はないか?」

(働く…?)

働くといった行為は魔女の所で教わっていた。
それは彼女がひとりぼっちで、生活するには一人で使用人みたいなこともできなければならなかったからだ。
それでも他人の為にやったことはないから基準がわからない。

私は部屋にあった紙とペンで正直に書いた。

《難しいことはできません》

「仕事内容は俺が教える。難しいことや無茶なことはさせない」

《どんな仕事がありますか?》

「部屋の掃除、お茶の用意、給仕…たまに、話し相手がある程度だ」

確かにそれくらいなら自分でもできそうである。
頷きそうになった時、待ったをかけるものがいた。

「かけあうって…本人がいるところで言うか?」

呆れたように言うのは友人として紹介されたアルフィリードだ。
しかし、サイスはそんなことを気にしないのか、いつも通りの無表情でアルフィリードを見た。

「アル、リシアは若い娘です。ラナクリードが治安の良い国だとしても、一人で放り出すのは危険でしょう。海を漂流していたことからして、暗殺者や間者の類ではないことは明確です。雇うことに問題はないと思いますが?」

「いや、別に雇うことは反対しない。俺の周りには基本的お前しかいないからな」

「では問題ありませんね。了承ありがとうございます」

《お二人は本当に仲良しなんですね》

ニコニコ笑いながら書いたら二人が固まってしまった。
そして、みるみる顔が赤くなっていく。

人は他人に指摘された時、恥ずかしくなることがあります。
そして、リシアの場合…
悪気がなく、どこか羨ましそうな響きを持っていたので強く反論もできず、真っ赤になるしかなかった二人なのでした。

(あら、サイス様…顔色が変わるなんて珍しいわ)
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