ちょっと事故った人魚姫

ラズ

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第3章 姫(?)からメイドになりました

動けません(2日目)

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今日は午前中に礼儀作法を学び、午後に仕事を学ぶ。
そんな予定だった…。

(あれ…?)

朝起きて目を開けた時…なぜだか視界が不明瞭で頭がぼんやりする。
体を起こそうとするも力が入らない。

(起きなきゃいけないのに……)

体が重くて、頭も痛くなってきた。
自分の意思とは関係なく瞼が下がってくる。
私はそこで意識を失った。


(額が冷たい…気持ちいい)

ふと、目が覚めた。
最初起きた時よりは少しマシになったけど、まだ頭が痛いし、ぼんやりとする。
体も重いままで、動くのも億劫だ。
首だけ動かして窓の方を見ると、額から濡れたタオルが滑り落ちた。
ベッドの近くにあるカーテンは閉まっているが、奥の窓から明るい日差しが入ってきている。
朝とは違った光の強さから、朝ではないことがわかった。

部屋の中で何かが動く音がして首だけ動かすと、部屋にあるソファーにサイスがいた。
仕事をしているのだろう…遠目からでも書類を見ているのがわかる。
この部屋にいる理由がわからなかったが、なぜだかほっとした。

そのままジッと見ていると視線に気づいたのか、サイスはベッドのそばまで来てくれた。

「起きたか……少し触るぞ」

そう言って、そっと首元に触れてきた。
こんな時でも体はビクッと震えてしまう。
サイスは気にしていないようで眉ひとつ動かさず、数秒後手を離してくれる。

「まだ熱が高いな。スープを用意させたが、食欲はあるか?」

(あまり食欲はないけど、スープなら飲める気がする…)

こくりと頷くと体を起こすのを手伝い、さらに体が楽なようにクッションを置いてくれる。
それからテーブルの上に置いてある、カップと小さなスプーンを渡してくれた。
スープは細かく切った野菜がたっぷり入っている。
一口飲むと温かくて美味しかった。
食欲がなかったはずなのに飲みやすくて、一口また一口と飲んでいく。

「スープを飲み終えたらこれを飲め。薬だ」

(薬…?何で?)

実は人魚には病気というものがない。
寒いから風邪をひく、お腹が痛くなるなどあれば海の底では生活できないし、水も流れているから濁って悪くなることもない。
そもそも、水の中では普通は薬が使えない。

例外で言えば料理と魔女の薬だ。
海の中では料理している時も、それを食べる時も不思議と塩水で味はつかないし、流される事も海水に溶ける事もない。
また、魔女の薬はそれ自体に魔法をかけているから、水中でも使うことができる。

普通の人魚なら薬自体知らないものも多いが、リシアは魔女のところに行っていたから知っていた。
しかし、病気というものがどういうものなのか…当然知っていると思っていた魔女はリシアにわざわざ教えることはなかった。

薬は体に作用するものだと知っているが、どうして渡されるのかわからないリシアは首を傾げる。

「首をかしげるな。ただ飲めばいいだけだ」

空になったカップと小さなスプーンをなかば奪うように取り、小さな瓶を握らせた。
サイスの顔を見るとこちらを厳しい目で見ている。
どんな作用があるのかわからないけど、飲まないとダメなようだ。

瓶の蓋を開けて一気に飲むと口の中で苦味が広がり、むせそうになる。
飲み込んだ後に咳き込むと、サイスは背中を軽く叩いてくれる。

「一気に飲むからそうなるんだ。だが、苦いのによく飲んだな。褒美にこれをやるから、食べてまた寝ろ」

そう言って口の中に白くて丸い何かが放り込まれた。
それ自体は一瞬で消えてしまったけど、不思議と口の中の苦味は消えて爽やかな甘さだけが残った。

何を食べさせられたのかききたいけど、声は出ないし近くにメモ帳やペンもない。
諦めて明日きくことにした。

サイスはクッションを元に戻して体を横にしてくれた。
そして、近くにある洗面器でタオルを絞ると額に乗せてくれる。
冷たくて気持ちよくて目を細める。
さっきまで寝ていたのにまた眠くなってきた。

眠りに落ちる間際、サイスが動く気配がしてとっさに手を伸ばした。
何か掴んだ気がするけど、確認することなく、私は眠りに落ちた。
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