あの頃のぼくら〜ある日系アメリカ人の物語〜

white love it

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5.〜1945年〜

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 収容所内にはラジオはない。新聞も、アメリカ兵達が検閲したものだけが届けられる。
 そのためジャック達は、ユタ州内に住む日系アメリカ人がユタ州内の収容所には収容されず、今も普通に生活していることを知らなかった。

「もちろん制限はあるわよ」

 クレアはまた歩きだすと続けた。

「ラジオは持てないし、銀行口座も閉鎖だって。夜間外出も禁止。でも普通に大学に行ったり就職したり、アメリカ人として戦場に行ったりしてるらしいわ」
「でもなんで?」
「もともとユタ州には、モルモン教徒という人々が住み着いていたの。でも彼らは、他の人々、他の白人達から嫌われてたの。どうやら宗教的に、一般的な白人達には受け入れられない教えだったみたいね」
「なるほど」
「で、彼らは自分達も迫害されてた経験から、私達日系人にも同情してるってわけ。もしここから出られたら、真っ先にユタ州の大学に行くつもり」

 衝撃だった。
 ジャックはどう受け止めていいか分からなかった。

「どうしたの? 黙っちゃって」

 クレアが顔を覗きこんでくる。

「無理だよ」
「ふぇ?」
「無理だよ、クレア。たとえここを出られても、僕達日系人が正当に評価されることなんかない。たとえ大学に行けても、いい仕事につけたとしても、白人達からは嫌われるし他の奴らからは見下されるだけさ」
「ちょっと、ちょっと」

 クレアがジャックの肩を軽く小突いた。

「悲観主義なのね、随分」
「現実主義なんだよ。それに日本が戦争に負けたら、逆に敗者のイメージがついて、不利になるんじゃない?」
「そういうの、負け犬根性って言うのよ、ジャック。将来のことなんか誰にも分からないのに、今からくよくよしてどうするのよ?」

 ジャックはため息をついた。
 口ではクレアに勝てないのはよく分かってる。

「まあ確かに、君なら将来、弁護士になれるかもね」
「聞いて、ジャック。あなた、野球は好き?」
「まあ好きだよ」
「誰が一番好き?」
「選手? ベーブ・ルースは好きだったな。ルー・ゲーリックも」

 クレアは人差し指をジャックに突き出した。

「予告するわ。いつか将来、きっとベーブ・ルースに並ぶ日本人、あるいは日系人選手がメジャーリーグに誕生する」
「……」
「日系アメリカ人や日本人のハリウッド俳優も出てくるし、弁護士や警察官、州知事だって誕生する」
「……まあ夢を語るのは自由だものね」
「夢じゃなくて、論理的予測よ」
「ぜひ教えてほしいね」
「あなたも分かるでしょうけど、日本人の、日系人の勤勉さや器用さは大きな武器になるわ。食事や生活習慣が欧米化して身体が大型化し、アメリカの大学で教育を受けたり、英語を話せる者が増えれば、そのを使う機会もチャンスもグッと増えるはず。学問の分野だろうが、スポーツや芸術の分野だろうがね」
「肌の色はかわらないよ」
「あら、ジャック。それが何よ。私は純粋な日本人の血をひいているけど、顔のつくりじゃ白人の女にだって負けてないわよ」

 クレアはそう言ってニヤリと笑った。
 ジャックも笑った。いささか苦笑混じりではあったが。

「あんまり期待しないで待つよ。君の言うような将来がくることをさ」
「その時には、一緒に野球の試合を観に行きましょうね」

 ジャックは頷いた。言ったとおり、あまり期待はしていなかったが。
 クレアには力がある。
 周りを笑顔にする力が。
 それは単に彼女の容姿に由来するわけではない。
 彼女の思考、発言、態度、その全てが周りに力を与えているのだ。
 収容所の環境が改善されたのも、アメリカ兵士達までもが彼女に慰めや励ましを求めるのも、全ては彼女のおかげではないのかと、ジャックは思っていた。



 クレアの言うとおり、それからしばらくして戦争は終わった。日本の敗北によって。
 クレア達母娘は、次の年にカリフォルニアの収容所へと移された。最後の日、二人で並んで写真を撮った。
 さらに1年経ってから、ようやくジャック達は収容所から開放された。全財産は没収されており、わずかな金を渡されただけだった。日系人は文字通り、道端に放り出されたのだった。
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