女飛脚、風の如く

white love it

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丸戸屋

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 まだ小春日和というには肌寒い日の中、飛脚問屋の丸太屋に、一人の丁稚小僧が手紙を持ち込んできた。
 小僧は女将のまさに手紙を渡し、届け先を告げるとそのまま立ち去ろうとしたが、一人の若い女が入ってきたので立ち止まった。
 その女は木綿の小袖姿の地味な格好だったが、抜けるように白い肌に、唇に一筋さされた紅がよく映える、大層な美人だった。長い睫毛にどこか伏し目がちな表情は、物憂げな雰囲気を漂わせており、見る者の胸をざわめかせるのであった。
 小僧は少しの間、その女に見とれていた。

「おかえり、お八重。ちょうど藤丸屋さんから依頼があってね。米問屋の西鶴屋さんまで、手紙を届けてほしいんだって」

「西鶴屋? 藩のはずれじぇねぇか」

 お八重と呼ばれた女が、男の職人のような口調で答え、さらには人目も憚らず、ちっと舌打ちしたので、小僧は仰天して目を丸くした。
 だが八重は、少しも気にする様子はなかった。
 それどころか、着物の裾をめくり上げると帯に挟んだ。
 真っ白な足が露わになり、今度こそ小僧は白目をむいた。

「おや、お八重、その格好でいくのかい?」

「着替えるが面倒だ。帯が邪魔だがしょうがない」

 たすきがけすると、八重は手紙を受け取った。そのまま走り出そうとするのを、まさが止めた。

「お待ち。一応、飛脚箱を担いできな」

「手紙一つでもかい?」

「宣伝のためさ」

 ふんと鼻を鳴らすと、八重は箱を担いで走り出した。担いだ箱には、丸の中に戸の字があった。
 埃一つ舞い上がらせない、まるで滑るような走り出し方だった。
 ぼーっと見送る小僧に、まさが笑いかけた。

「お前さん、千里小町を見るのは初めてかい?」

「え、あれが千里小町?」

「そうよ、一日で千里も走れるという、丸戸屋のお八重、その人だよ」

 その口調はどこか誇らしげだった。
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