ハツカネズミが見た海

white love it

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海の向こうに憧れて

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 ネズミの世界だっていろいろと複雑なのだ。人間にはわからないだろうけど……
 その日、ハツカネズミのジャックは背中にいっぱいのチーズを背負って港にやってきた。
 なぜそんなにチーズが必要かって?
 人間なら、旅行に行くのにお金をだして切符を買えばいい。だがあいにく、ネズミの世界にはお金などというものは存在しないのだ。
 ちょっと街中のスーパーに行くために、人間の車の座席の下に潜り込む分には誰の許可もいらないが、船や飛行機となるとそうはいかない。
 港や空港にいる、正確には港や空港の倉庫や下水道にいる、仕切り屋のネズミの許可を得る必要がある。(そうでないと、大勢のネズミが勝手に船に乗り込んで沈没してしまうことがあるからね)
 その時必要なのが、切符がわりのチーズなのだ。

「よう、ジャック。こりゃまた随分な量のチーズだな。湾内一周にはちょいと多すぎるんじゃないか?」

 そう話かけてきたのは、この港を仕切っているドブネズミのトーマスだった。倉庫の片隅、人間たちが積み上げた荷物の隙間に陣取り、やってくるネズミたちに乗船許可を出していた。

「やあ、トーマスじいさん。今回は長旅でね」
「長旅だって?まさか月に行きたいなんて言わんだろうな」
「海の向こうの国まで行きたいんだ。出発は今夜でしょ?」
「ふーむ」

 トーマスは白くなったヒゲをなでると、少し考えてからいった。

「確かにこれだけのチーズがあれば船にのせてやることはできる。だがな、出発はおそらく明日まで延期されるぞ」
「えぇっ、そりゃまたなぜだい!?」
「今夜は嵐になるっていう話だ。人間たちも嵐の中、わざわざ船を出すことはすまい。おそらく出港は明日になるだろうな」

 そういうとトーマスは倉庫の床を指差して、

「そこにある割れ目から入って、今夜は床下で寝ればいい」

 ジャックが言われたとおりの場所へ行こうとすると、その背中にまたトーマスが声をかけてきた。

「しかしお前さん、なんでまた海の向こうの国なんかに行きたいんだね?」

 ジャックは振り返って答えた。

「そりゃいろいろ見たいものがあるからさ」
「例えば?」
「別のネズミとか」
「ネズミはネズミだろ。海の向こうじゃネズミが猫になっとるというなら、話は別だがな」
「別の建物とか」
「どんな大邸宅だろうが、小さな小屋だろうが、屋根裏と床下と台所さえあれば同じようなもんだろ」
「……別のチーズとか」
「チーズなら、お前さん、すでにたくさん持ってるだろうが」

 そういうとトーマスは軽く肩をすくめ、ヒマワリの種を口いっぱいにつめた別のネズミのほうを向いてしまった。
 ジャックはしばらく口をモゴモゴさせていたが、結局またチーズを背負って歩きだした。 
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